洋菓子には欠かせないバニラビーンズはそのほとんどを輸入に頼っているのですが、いま、日本へ入ってこないという状況が続いています。あの甘い香りが大ピンチ!一体何が起きているのでしょうか。
洋菓子には欠かせないバニラビーンズはそのほとんどを輸入に頼っているのですが、いま、日本へ入ってこないという状況が続いています。あの甘い香りが大ピンチ!一体何が起きているのでしょうか。
天神橋筋商店街の洋菓子店、人気はシュークリーム
大阪の天神橋筋商店街にある洋菓子店「ムーラタルト」。1999年のオープン以来、人気商品となっているのはシュークリームです。
「みなさん買い求めやすいお手頃な価格と大きさなんで、うちの商品の中では割と愛されているほう」(フランス菓子工房ムーラタルト 吉野暢人オーナーシェフ)
1個205円で、1日40個を売り上げる人気の秘密はバニラビーンズが入ったカスタードクリームです。
この店で使っているのはマダガスカル産のバニラビーンズで、バニラの風味と素材本来の甘さを引き出すといいます。ラン科の植物で、暑さと湿気を伴う気候でしか育たないというバニラは、さや状の果実を収穫した後、約4か月間かけてしっかりと天日干しをし、じっくり発酵させることによってバニラの独特の甘い香りが出てきます。

バニラビーンズが価格高騰
ところが…
「洋菓子店には欠かせない材料なんですけど、バニラビーンズが品薄と高騰になってまして大変困っている状態です」(吉野暢人オーナーシェフ)
カスタードクリームやアイスクリームなど多くの洋菓子に使用されているバニラビーンズは9割以上がアフリカ大陸の南東約400キロメートルの西インド洋に浮かぶマダガスカル島産です。
「9月から500グラムで6万3000円っていう値段を提示されまして」(吉野オーナーシェフ)
この4年程で価格は1キロあたり約13万円と10倍に跳ね上がり、日本の輸入量は約3分の1程度まで激減しています。

「搾取されている」ことに気付いたマダガスカルの農家
なぜ、これほどまで急激に価格が高騰したのでしょうか。取材班は30年以上、マダガスカル産の上質なバニラを輸入し続けている栃木県の業者を訪ねました。早速、バニラビーンズを保管している倉庫を見せてもらうと…
「ここのパレットのところにたくさん隙間があるんですが…9か月前までは全部バニラビーンズがありました」(ミコヤ香商 水野年純社長)
水野社長によると今年3月、マダガスカル島にサイクロンが直撃したことに加えて、中国や韓国などアジア各国での消費が急激に増加したことが価格高騰の大きな原因だということですが、理由はそれだけではないそうです。
「(マダガスカルの)皆さんインターネットをやっているんですね。農家の人たちまでが直接輸出するようになってきたんで、農家の人たちがどれくらいで売られているのかっていうのをわかるようになったからなんですね。農家の人たちが搾取されていたのが搾取されなくなったので、農家の人たちがむしろ輸出業者さんに売るのにも高い値段で売るようになった」(水野年純社長)

価格高騰がマダガスカルにもたらしたもの
さらに急激な価格高騰は、マダガスカルにこれまでなかった大きな変化をもたらしていると言います。
「サンフランシスコのゴールドラッシュと同じようになってます。マダガスカルは世界最貧国に指定されてるんですけど、そのなかでもバニラの街だけはバブルの頂点になっているんじゃないかと。現金の奪い合いやバニラビーンズも盗まれることが頻繁にあるので」(水野年純社長)
世界で生産されるバニラビーンズの約6割がマダガスカル産で、他の地域では真似できない高い加工技術で作られているため、マダガスカル産のバニラビーンズは今や他の追随を許さない最高級品として取り引きされているのです。

バニラを使わない「小山ロール」を開発
ミコヤ香商からバニラを仕入れている兵庫県三田市のパティシエ エス コヤマ。看板商品の「小山ロール」は1日に1600本も売り上げる大人気商品です。エスコヤマではこの小山ロールをはじめ約100点の商品にバニラビーンズを使用していました。
「大変なことですよ、19歳からバニラありきでレシピを考えてきた。1キロ13万円分、1本が520円くらい。(うちには)15キロ分のバニラビーンズしか残っていない。今回はバニラビーンズ屋さんがお手上げやと、これは無理ですと。『バニラを使わないでください』っていう通達まで出たので」(パティシエ エス コヤマ 小山進オーナーシェフ)
小山シェフは悩んだ末、バニラを一切使わないカスタードクリームを作ることを決めました。そして1年にわたる試行錯誤の結果、シェフがバニラに代わる新たな素材に選んだものは…
「砂糖ですね、種子島の粗糖です、サトウキビ。バニラ抜きでも違うおいしさが表現できるかなと」(小山進オーナーシェフ)
種子島のサトウキビを使った「粗精糖」は独特な甘さが他の素材の味を引き立たせるそうです。バニラビーンズを使った小山ロールと比べると、黒いつぶつぶはなくなっていますが…
「バニラの甘さと余韻とはまた違うけれども、それに勝るような余韻が砂糖とジャージー牛乳から生まれたっていうことです」(小山進オーナーシェフ)
この新たなカスタードクリームで作られた小山ロールは、7月27日から販売が始まりました。
Q.マダガスカル産のバニラが再び入手できたら?
「もちろん使います」

先行きは不透明
再びバニラビーンズを輸入している水野社長。今後、値段が下がる見通しはあるのでしょうか。
「来年3、4月に台風が来なければ、たぶん(バニラの価格は)暴落するんじゃないかなと、ずっと期待しながら4年すぎてしまったので、そろそろ期待が本当になってもらえたら嬉しいなと思ってます。天然のものなので神に祈るしかないですけどね」(水野年純社長)
この先、再びマダガスカル産の香り豊かなバニラを楽しむことはできるのか。いまのところ先行きは不透明です。

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