(踏切の警報音)
(電車の警笛)
(電車が通過する音)
(タカシ)「あなたの大事な娘を預かります。
これはゆうかいだ」。
あっ…。
(教師)これから第一学期終業式を始めます。
前へならえ!
(校長先生)さていよいよ明日から夏休みです。
え〜ぜひ夏休みに…。
(ハル)
憂うつな夏休み
(さゆり)ハル夏休みどっか行くの?えっ?ああ…うん。
まだはっきりした予定はないんだけど…。
お母さん2〜3日は休み取れると思うけど…
さゆりは?今年もハワイ。
でもほんとはパリの方が好きなんだけど。
出た格差社会…
(さや)いいなぁ私はどこにも行けない。
塾の合宿が2つ決まってるし。
ハルが羨ましいよ塾に行かなくていいなんて。
えっいや〜その…私あんまり勉強得意じゃないし。
うちにはうちの事情があるっつうの
ゆうこちゃ〜ん開けて。
ゲームしよう。
近くに住むゆうこ叔母ちゃん
(ゆうこ)あっハルあのね今日ちょっとね…。
あの…。
今年の夏はここでゲーム三昧かなぁ
あっ。
(ゆうこ)こちらハルちゃん。
お姉ちゃんの子供。
(田中)こんにちは。
こんにちは。
知らない男の人…
俺あの…タバコ買ってくるわ。
(ゆうこ)何?タバコ買ってくるね。
(ゆうこ)えっ何?タバコ!
(ゆうこ)タバコ?
(田中)うん。
ああ…。
気を付けて。
(田中)ごゆっくりね。
(ゆうこ)気を付けてね。
行ってくるね。
じゃあね。
じゃあね。
(ゆうこ)あっこの事あんたのお母さんにないしょにしてね。
この事って?うちに来たら知らない男の人がピザ食べてたって事。
あんたのお母さん面倒だからさ。
分かった。
でもゆうこちゃん。
うん?あの人誰?田中さん。
私の恋人。
今日から一緒にここで住むんだ。
それもないしょ。
分かった。
あっそうださっきお母さんから電話あったよ。
今日残業だってさ。
分かった。
あんたには悪いけどさ私あんたのお母さんもあさこちゃんも大っ嫌いだったんだよね。
えっ?だって2人はすごい仲よしでそこに入れない感じって分かるでしょ。
何で姉妹は選べないんだろうって何度も考えてたよ。
今も嫌いなの?ううん。
今は昔みたいに嫌いじゃない。
何で変わったの?どうでもよくなったの。
何でかっていうと大切な人がね…好きな人ができたから。
何それ?全然分かんない。
だろうな…。
(キョウコ)ねえハル新しい服買ってくるけどどんなのがいい?お任せ。
(あさこ)お姉ちゃん早くしなよ。
バーゲン始まっちゃうじゃない。
欲しいって言ってたワンピース限定30着なんだからね。
(キョウコ)はいはい分かったよちょっと待って。
どうせお母さんが選ぶのはいつも地味な色の服ばっかり。
私が本当に着たいのはもう少し派手なお母さんに言わせれば下品な服だ
ゆうこちゃん今日のその服いい感じだよ
行くよ。
あっハル夏休みだからってだらけてないでさっさとドリル片づけなさいよ。
は〜い。
ねえゆうこあんまりハルにゲームばっかさせないでよ。
は〜い。
(キョウコ)行ってきま〜す。
う〜!はぁ〜相変わらずだなぁお姉ちゃん。
ハルも大変だね。
しかたないよ。
お母さんってああいうキャラだもん。
ハハハ…確かに。
はぁ…私もバイト行くか。
えっもう出ちゃうの?ピザ屋ってさ夏休みは忙しいんだよ。
バイトが終わるころさゆうこちゃんち行ってもいい?うん。
あっでも彼氏いるよ。
大丈夫大丈夫。
私あのハリネズミみたいな人嫌いじゃないから。
ハリネズミね〜。
(笑い声)「水分補給をしっかりとして熱中症対策を心がけて下さい」。
「最初から買いましょ」。
「せやな」。
アイス食べるか。
お嬢ちゃん暑いね。
どこ行くの?車乗らない?クーラーきいてるよ〜。
背伸びたな。
背なんか伸びてないよ。
別居してまだ2か月じゃない。
それで背が伸びるならいつまでも列の先頭で腰に手なんかあててないってば。
分かるでしょお父さん。
そうか〜そうだな。
この車どうしたの?うん?ああ…これ?もらったんだよ。
ふ〜んよかったじゃん。
ところでハル。
何?今から俺はあんたをユウカイする。
当分家に帰る事はできないから覚悟してくれ。
うんいいよ。
どうせ今日から夏休みだもん。
何の予定もないしさ。
よし。
お父さんはいつもこんなふうにふざける。
真面目な事が嫌いなのかバカみたいな事ばっかりする
ハルさお父さんが電話番号書いた紙なくしたろ?全然電話かかってこないからさ心配してたよ。
私もいろいろ忙しくてさ。
ああそっか…。
本当は電話するつもりなんか全然なかった。
面倒くさいし話す事ないしそれにかなり前から私この人の事好きでも嫌いでもなくなってたし
(キョウコ)もう私嫌なの!もう勝手に好きな事ばっかやったらいいでしょ!ちょっとお母さんに電話してくる。
何で?うん?だからあんたをユウカイしたって。
それと取り引きの条件も言わなきゃならないしな。
取り引き?条件?だから返してほしかったらなになにしろとかそういう事だよ。
お母さんね今日はお休みだけどあさこちゃんと一緒にバーゲンセール行ってんだ。
今頃買い物に夢中で電話なんか出ないよ。
それにお母さんにそういうのが通用しないって知ってるでしょ。
また怒られるだけだよ。
うちにお金なんかないんだしさ。
お金なんか要求するなんて言ってないだろ。
じゃあ何を要求する訳?それは…言えないなぁ。
じゃあ食うか。
頂きま〜す。
うんうまいねやっぱね。
やっぱりハンバーグだな。
ねえこれからどうするの?俺たちは逃亡者だ。
2人で遠くへ行く。
居所がバレないようにあちこち逃げ回らなきゃいけない。
ハルはどこ行きたい?海か?山か?温泉か?あっそれとも…。
デパート。
デパート行きたい。
選択権は私にあるんでしょ?う〜んそうかそうだな買い物もしなきゃいけないしな。
つきあってやるか。
どうせ明日には帰れるだろうし
これからの予定を発表する。
まずは郊外の高級デパートにて長期戦に備えて衣服を確保
もちろん金に糸目はつけない
う〜んおっ安いじゃん。
そのまま質素で目立たない旅館に潜伏。
母親のキョウコに断固たる態度でユウカイ理由を告げ取り引き条件を提示
お母さん電話つながった?ああ…。
「バッカじゃない!」って怒ってたでしょ。
キョウコの出方に迅速に対応するため朝の起床は時間厳守
「朝食のお時間でございます」。
ごはんだって!ああ…!
周りに気付かれないよう朝食をとり…
あっ。
車を返しにアジトに出発
えっ?車はもらったんじゃないの?誰に返すのよ?もしかして共犯者?
(笑い声)何だっていいけどそのグッシャグシャな頭どうにかしてくんない?一緒にいるのが恥ずかしいから。
ねっユウカイ犯。
し〜!
いつまでふざけるの?ユウカイ犯
まさかアジトは山の中じゃないよね?
釣堀屋ってどういう事よ?
ユウカイの共犯者ってのは潰れた工場とか暗い地下室にいるもんでしょ…。
大体いつまで待たせてんのよ
えっ何何?何よ?怖いよこの人
まあそんぐらいあれば大丈夫だろ。
写真さキョウコに送っといてよ。
娘は元気だって手紙も添えて。
(神林)はじめまして。
神林です。
ハルさんですよね。
えっそんなキャラ?何なの?この大人扱い
(笑い声)お前なに緊張してんだよ。
「ハルさんですよね」じゃねえよ!マジで面白いね。
あっそうかそうかこんな時…。
あっ…ジュース飲みますか?
なんか優しい…
あれ?どうした?ハル。
腹でも痛いのか?あっそれともトイレか?トイレ。
うるせえ!
おいおいあんたいじけんなよ
あっ駅まで乗せてく?うんありがとう。
ハルさん本当は僕前にあなたに会った事があるんですよ。
えっ?まだあなたがはいはいもできないころ。
お土産にかたいクッキー買っていったらみんなに笑われてまだ食べられる訳ないって。
そんな事ハルが覚えてる訳ないだろ。
あったなぁクッキー。
クッキー事件。
お母さん心配してるかなぁ?
ハルさん。
僕はあなたのお父さんのおかげで今生きてるんです。
おいほら。
じゃあいろいろとありがとうな。
困った時はいつでも来て下さい。
おいほれ。
ほら早く。
列車出ちゃうからもう。
じゃあ。
あっ…!あ〜もう!あっ!
何となく覚えてるような…
みんなが笑ってた
どこだったのかはっきりしないけどなんか温かかった
おい!ハル!早く!出ちゃう!出ちゃうから!ダッシュダッシュダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!よいしょ!あ〜危ねえ。
神林学生の時からの友達なんだ。
変なヤツだったろ。
前はサラリーマンやってたんだけどいろいろあってな…。
いろいろって?う〜んうまく言えないなぁ。
大人の世界のいろいろだな。
とにかくそれで会社辞めて今はあんな山の中で釣堀屋やってる。
周りに子供がいないからどう話していいか分かんないんだろうな。
話をそらすなユウカイ犯…。
あんたがしゃべる分だけ私の温かかったいい気持ちが吹っ飛んでくよ
出た柿ピー!ポ〜ン!ハル。
ハル。
あれ?ちょっ…ラストラスト。
いくよ。
できる?
今度はどこに連れてくの?ユウカイ犯
ありがとうございま〜す。
ひょっとして…海?
お父さんもこれがいいと思ったんだよ。
だって君それじゃ全然フェアじゃないよ。
急に呼び出しなんて…。
びっくりしちゃうよ。
先に連絡ぐらいくれてもよかったんじゃないか?えっ?どこかって教えないよ。
だからちゃんとこっちの要求ものんでくれないと…。
あのまんじゅううまかったな〜。
やっぱ出来たては違うね。
(ちず)おいしかったね。
ママ。
パパったらねおまんじゅう3つも食べたんだよ。
そんなに?しょうがないだろ。
目の前においしそうなまんじゅうあるんだから。
だから太るんだよ〜。
(かず)ママ〜おなか痛くなっちゃった。
だからあんなにお菓子食べないでって言ったでしょ。
バッカじゃないのあんたなににらんでんのよ
うんちしたくなってきた。
海のトイレまで我慢できるだろ。
もうかずったらうるさい。
何であんたいっつも邪魔する訳?いいじゃないそれは生きてるって証拠なんだからね。
そうだけど我慢できる?我慢できる?漏らさないでよね。
漏れる前にちゃんと言ってよ。
漏らしたら大変なんだから。
大丈夫?行ける?
なにその目?私があの家族を羨ましがってるとでも思ってんの?本当に単純な人だよなぁ
いいねぇみんなで海水浴だよ。
羨ましいねぇみんな仲よくて。
私なんかユウカイされてんだもん大違いだよ。
そうだなぁえらい違いだな。
だってあんたユウカイ犯と2人きりだもんな。
(笑い声)あれ?また怒っちゃった?海だ!海だ!あ〜!
あのねここは海だよ。
居酒屋じゃないんだよ
あっさっきの子
あんた名前何?ハル。
ふ〜ん。
私ちず。
変な名前でしょ。
弟はかず。
何年生?5年生。
一緒じゃん。
部屋はどこ?カエデの間。
うちはツバキの間。
いつまでいるの?あと2日くらいかな。
私は明日の夕方帰っちゃうんだ〜。
やだな〜車で帰るの。
混むしさ。
かずは泣くしママはすぐ不機嫌になるしさ。
トイレって言っただけで怒られちゃうんだよ。
さっき一緒にいた人お父さん?ううん。
あの人ただの親戚のおじさん。
うちの親忙しくて夏の間どこにも連れてってもらえないの。
だから私親戚のおじさんに預けられてるの。
ふ〜んよくあるよね。
ハルの親って仲よし?うん仲よしだよ。
休みの日なんか私を置いてデートするもんいい年して。
へぇ〜兄弟は?すっごく優しいお姉ちゃんがいる。
来年中学受験だから親と家に残って勉強してる。
私も同じ中学行きたいんだけど私あんまり勉強できないからなぁ。
あっそうあんた勉強できないんだ。
えっ?ああ…うん。
うん。
私ね勉強できるよずっとトップだもん。
すごいね。
よかったぁハルよりいいとこあって。
ハルんちの親は仲よしうちはボロボロだから。
えっ?ハルはさ離婚届って見た事ある?ううん。
私あるよ…。
ゴミ箱に丸めて捨ててあったの。
かずの事嫌いだけどもしうちに何かあったらかずはさまだちっちゃいから私がなんとかしなきゃって思ってるんだ。
かずは私が守るって。
ちーちゃん!もうそろそろ温泉行く時間よ。
え〜?行こう。
うん…。
あと2日いるんでしょ?明日住所教え合おう。
うん。
(ちず)またね。
また明日!パパたち待ってるから。
ごめんちず。
本当はうちもボロボロなんだ
(いびき)
明日はもっといろんな事話せるといいな
金の事は分かってるって。
だからこっちの意見も考えてくれよ。
そっちの意見ばっか通すのおかしいじゃないか。
このままじゃハルは解放できねえな。
ハルもうここ出るぞ。
えっ何でよ?今日も海行こうよ。
私もっと泳ぎたいよ。
もう1泊しようよ。
他の所へ行くんだよ。
もう海はいいだろ。
よくないよ。
私もっと泳ぎたいよ。
私の好きな所に行くって言ったじゃん。
私がここがいいって言ってんだからここにいなよ。
ねえお父さんってば。
嫌だ!
(ノック)
(ノック)
ちず…海は気持ちいい?
ハル。
ハル。
あの〜電車あと5分で来ちゃうんだよ。
切符買ってくるからさそこで待ってて。
なっ。
勝手すぎるんだよ…。
急に現れたり連れ回したり
ハル!ハル!買えた!買えた!勝手すぎるんだよ…。
誰か〜助けて!誰か〜!この人捕まえて下さい!おいなに言ってんだよハル…。
こんな人知りません!知らない人なんです!やめろ!誰か助けて下さい!助けて下さい!やめろ!おうちに帰りたいよ!やめろって…。
バカ!誰か助けて!いやいや…ちょっちょっ…違うんだって。
違う違う!いや…あの…違いますよ。
ちょっと来なさい。
違う違う違う!あれ僕…僕の子供だって!静かにして!僕の娘!ハルって言うんだって!ほんと正真正銘僕の娘なんだって!ちょっと静かにしなさい。
うそじゃないんだって。
顔似てるでしょ?信じないなら血液判定してよ!DNA判定してよ!静かにしろ!DNA!DNAだってば!ちょっと待って!ハル!おい!何だ!ねえ!おいちょっと待って待って…。
(女性警察官)今日一緒にいたおじさんとはいつどこで会ったのかな?向こうから声をかけてきたの?教えてくれる?
(女性警察官)駅でおじさんといたのはどこかに行こうとしてたのかな?
(女性警察官)思い出せない?はいどうぞ。
暑いね〜。
ジュースでも飲む?
本当の事話せなかった…
ごめんなさい…。
ごめんなさい…。
ごめんなさい…。
お父さんここ高そう…
「ふ〜しぎ不思議まか不思議」。
(テレビ)ハル泳ぎに行こうか。
夜…だけど。
夜だからいいんだよ。
夜泳ぐのって気持ちいいんだぞ。
なあ行こう。
さあハルこっち来いよ。
きゃっ冷たい!お父さんこれのどこが気持ちいいのよ!心臓まひで死んじゃうよ!うそつき!これじゃ児童虐待だよ。
もう少し…もう少し沖の方に行けば暖かくなるって。
ものすごく気持ちがいいんだって。
ほら。
お父さんお父さんお父さんこれ以上行くと溺れちゃう…。
私溺れちゃう!ほんとに溺れる。
溺れるから溺れるから…。
溺れるから…。
溺れる溺れる…。
わぁ〜あったかい。
海の中なんかゼリーみたいにやわらかい。
だろ?お父さん今日はとても悲しかった。
ごめん。
期待してたんだけどな〜取調室のカツ丼。
カツ丼?テレビの刑事ものなんかでさ取調室でカツ丼食べさせてくれるじゃん。
私はオレンジジュースもらったよ。
だってあんたは被害者で俺はユウカイ犯だもん。
カツ丼が出てればなぁ昼食代浮いたのに。
なっ。
ケチだねお父さん。
(笑い声)おっおっおっ…。
(笑い声)乗ります乗ります!大丈夫?どんどん登るね〜。
またぶり返しじゃないか。
それについてはもう決まった事だろ。
冷やし中華1つ。
虹!おいハル!行ってもとれないよ。
おいしい?これ!私の方がでっかい。
あ〜負けたか。
さあ着いた!あっねえテントはどうするの?大丈夫テントはお父さんが借りてくる。
アチアチアチ…!アチアチ!ハルが着火剤買わなかったからだろ。
えっ何で?何で私のせいなの?ああ…何でだ?何で?あ〜もうダメ!ちょっと代わってくれ。
お母さんにちょっと電話してくるわ。
酸欠になりそうだ…。
そのビールどうしたの?こんな所で買ったら高いのに。
取り引きはどうだった?まあ…なんとかね。
頑張れ頑張れハルちゃん!そんな事言うんだったら手伝ってよ。
あ〜消える!やっぱりダメだな〜俺は。
えっ?火もおこせない。
コツがあるんだよ。
大丈夫火おこしは私が覚えたから。
それとさ今度買い物する時は「ビールはいいの?」って聞いてあげるから。
そうか?ねえお父さん。
うん?このテントどこで貸してくれたの?いや貸してくれるとこはなかった。
えっじゃあどうしたの?向こう森ん中。
ここに来た人たちがさ用なしになったテント置いてっちゃうんだよな。
まだまだ使えるのにもったいないだろ。
それってもしかして置いてったんじゃなくて捨ててったんでしょ。
まあそうとも言えるな。
ああ…慰めるんじゃなかった。
やっぱりあんたはダメだ。
ダメな大人だ
(ゲップ)
お父さんが拾ってきたのは大きな穴の開いたテントだった
お父さん。
うん?お母さんとはどこで会ったの?居酒屋。
お母さんが友達と飲みに来てて声をかけられた。
つまりナンパされた訳だ。
うそだ逆でしょ。
本当だよ。
一緒に飲みませんかってお母さんから声をかけてきたんだよ。
まあいいや。
そういう事にしておくよ。
多分真実は反対だ。
お父さんがお母さんにしつこくしつこく食い下がったんだ。
火もつけられない。
段取りも悪い。
そんなお父さんが気の毒になってお母さんは私みたいに「大丈夫だよ私がやってあげるから」なんて言ってしまったんだ
あっ星!
(いびき)
流れ星だよお父さん
あ〜来て!ほら早く!ハル!もうおなかすいた…。
あ〜冷てえ!えっ?ここお寺だよ。
宿坊って言ってな旅人を泊めてくれるお寺。
宿代がものすごく安いんだ。
ひょっとしたら…いや間違いなくお父さんは恐ろしく貧乏だ
お母さんとの取り引きは絶対に身代金だ
よし!あの〜ごめんくださ〜い。
(住職の妻)は〜い。
あっどうも。
あの〜ここで泊まらせてもらえるってチラシ見て来たんですけど。
ああうちねもう2年前から宿坊の方はやめたんですよ。
えっ?え〜?えっだって…。
それね…もうやめますからって係の人に電話したんだけど…。
ボケちゃったのかしらねまた載せちゃったんだ。
チラシには1泊いくらって書いてあるの?1,200円です。
そうじゃあいいですよそのお値段で。
今回に限って特別にお泊めします。
ありがとうございます。
それであの…僕たち朝ごはん食べたきり何も食べてないんですけど…。
じゃあ…。
(2人)頂きます。
おいしい!マジでうまいです。
こんなうまいおにぎり食べた事ないよな。
お邪魔してます。
あの〜どうして宿坊やめちゃったんですか?こんなにいい所なのに。
ちょっとしたうわさが流れてしまってねぇ。
うわさ?一応言っておいた方がいいわよね…。
もう5年ぐらい前だったかしら。
ここはね夏になると大勢の人が泊まりに来てとってもにぎやかだったの。
あの日も夜遅く子供たちは枕投げしたり大人たちはお酒飲んだりで真夜中になってようやく寝静まったの。
やばい…この話はきっとやばい方向へ進んでいく
そしたら玄関から「ごめんください」って空耳じゃないかと思うくらい小さな声が聞こえてきたの。
さて玄関へ行ったら女の人が立ってるじゃない。
「ご用は何でしょうか?」って言ったらその人は知り合いがここにいるんで自分も泊めてもらえないかって言うの。
知り合いがいるんならどうぞって…。
ふと気になっちゃってちらりとのぞいてみたら…。
女の人はゆっくりゆっくり一人一人の寝顔をのぞいていたの。
ふっふって一人一人に息を吹きかけるようにして。
でも知り合いの人はいなかったみたいでそのまま本堂から出ていったの。
私後を追っかけて「知り合いがいなくても泊まってってかまわないですよ」って言おうとしたの…。
でもいなかった。
私お墓の辺りを捜してみたんだけど消えちゃってたの…。
わぁ〜!
(住職)もういいかげんにしとけ。
ごめんなさい私おしっこちびっちゃった…
うわっ!ハルハル。
肝試ししようぜ。
えっ?やだ!絶対にやだ!平気だって。
もう大丈夫っておばあさんも言ってたし。
趣味悪い…。
あっそう。
じゃあいいや。
俺一人で行ってくるわ。
(戸の開閉音)ダァ〜!女の人は誰を捜してたのかなぁ?恋人だろうなぁ。
きっと恋人と約束していたとか伝えたい事があったんだろ。
忘れられないんだよ。
今でも捜しているんじゃないかなぁ。
痛い痛い…。
痛い痛い痛い!痛いよハル。
痛いって!あれ?何だろあれ…。
えっ?ろうそくかな?いや違うな。
えっやだ…やだもうやだ。
ろうそくじゃないぞ。
そんな…!
またおしっこちびりそうだ
ハル目を開けてみなよ。
幽霊じゃないから。
蛍だよ。
生きている蛍を初めて見た。
ぽっと小さな光がふくらんで消えて。
すぐまたぽっと光って夜の中に消えていく。
音楽はないけれどクリスマスツリーみたい
静かできれい。
この世のものではないお祝い事みたいだった
俺だってちゃんと考えてるよ。
君が協力的じゃないのが一番の問題なんだから。
どこが?人の話を聞こうとしないじゃないか。
とにかくハルの事をちゃんと考えて決めないと。
これは2人だけの問題じゃないんだから。
はっ!ゆうべ女の人は来なかったでしょ?うん!わぁ!きれいに食べてもらってありがとう。
ごちそうさまでした。
私思うのよ。
生きてる人も亡くなった人も人が人を思う気持ちは変わらないって。
ありがとう。
嫌な予感がした…。
もう20分も電話してる
辛い!これは大人の味すぎる
何だ腹減ってんのか。
取り引き成立したぞ。
バカだな〜わさびなんか10年早いんだよ。
まあとにかく取り引きは成立した。
これでもう俺にはあんたを拘束する権利はない。
即刻キョウコの所にあんたを送り返さなければならない。
まあそういう約束だからな。
ただ一つ問題がある。
もしかして私といたい。
お母さんの事とかいろいろあるけど一緒に逃げよう。
お父さんがそう言うような気がした
つまり…ここから電車に乗る金がない。
ああああ…
ハル。
何だ?どうした?うん?大丈夫か?うわっお前…靴ずれか。
痛いなこれな。
よし来い!ほら。
よいしょ!重くなったなお前。
お父さん。
うん?取り引きって何だったの?ハル…悪いな。
お父さんの背中に頬をくっつけた。
お父さん取り引き成立して今幸せ?
まだ早いんじゃない?大丈夫佐々木は早起きだから。
(チャイム)
(佐々木)はい皆さん集まって下さい。
皆さん集まって下さい。
朝ごはんですよ。
おはようございます。
パパいつも言ってるでしょ。
挨拶は大事です。
コミュニケーションを円滑にするために必要なんですよ。
はいこっちハルナこっち来て下さい。
結局お父さんの友達にお金を借りる事にした
(のり)あら…あらタカちゃん。
悪いねぇのりちゃん。
朝早くすみません。
はじめまして。
のりちゃんです。
あっあれがねハルナ。
であの上のがベッカム。
ベッカム。
であの真っ黒なのがマツザキ。
マツザキ。
何で1匹だけ名字なの?うん?だってほらマツザキって顔してるじゃない。
どう見てもマツザキだよ。
そしたらハルナはコンドウって感じがする。
すごい。
本当はコンドウハルナって言うんだよ。
えっ?
(笑い声)ほんとだよ。
すごい。
すごい!佐々木さんとのりさんはお父さんとどこで友達だったんですか?佐々木くんとお父さんは学生時代の同級生で私はちょっと遅れて知り合ったの。
ああそういう事ですか。
それにしても相変わらずだなぁタカちゃんは。
ほんとダメおやじでね。
ううん違うの。
相変わらず魅力的だなって言いたかったの。
え〜うそでしょう。
全然そんなじゃないです。
ううんそんな事ないよ。
私ね…結構詳しいんだよお父さんの事。
えっ?だって元恋人だもん。
えっ?えっ?…ってことはお父さんが元カレって事?そう。
ハルちゃんもタカちゃんの子供って感じ。
かわいい。
ありあり。
なんかちょっと嫌だなぁ。
もしも…もしもお父さんがこの人と結婚してたらいなかったんだ私…
(ゆうこ)ねえすごいと思わない?何が?私と田中さんが出会った事。
何で?だって私がたまたまバイト先にピザのお店を選んだだけでしょ。
でもそこを選んだからお客さんで来たこの人と出会えたんだよ。
すごいでしょ。
そうかな?そうだよ。
そうなんだよ。
ねえそういう出会いを何て言うか知ってる?何て言うの?奇跡って言うの。
(アナウンス)「1番線に電車が参ります。
黄色い線までお下がり下さい」。
(赤ん坊の声)どうした?お父さん私少しなら貯金があるよ。
毎年もらったお年玉ほとんど使ってない。
お母さんがいつも郵便局に預けてくれてるんだよ。
だから少しじゃないかもしれない。
それ使っていいよ。
だからさこのまま逃げよう!私お母さんに電話する。
貯金通帳送れって電話する。
ダメだって言うと思うけど脅してでも送らせる。
だから…。
し〜!逃げよう。
もう逃げる必要はなくなったんだ。
次の駅でまた人が降りると思うからそしたら座れ。
私はきっとろくでもない大人になる。
えっ?私はきっとろくでもない大人になる。
あんたみたいな勝手な親に連れ回されてきちんと面倒も見てもらえないで昨日までおいしそうなもの目の前にぶら下げられてでもいきなりぱっと取り上げられてはい今日で終わりって言われてこんな事されてたら私は本当にろくでもない大人になる。
自分たちの都合で勝手に私を連れ回してお父さんとお母さんのせいだ。
お父さんたちのせいだ!俺は…俺はろくでもない大人だよ。
だけど俺がろくでもない大人になったのは誰のせいでもない。
誰のせいだとも思わない。
俺のせいだから。
俺はあんたの言うとおり勝手だよ。
でもいくら勝手で無責任でどうしようもなくてもあんたがろくでもない大人になるのはそのせいじゃない!あんた自身のせいだ!そんな考え方…俺は嫌いだ!嫌いだしかっこ悪い!責任逃れがしたいんじゃない。
ハルがこの先思いどおりにいかない事がある度に何かのせいにしてたらそれは悲しい…。
思いどおりにいかない事があっても受け止めなくちゃならない時があるんだ。
どんなにつらくても…受け止めなくちゃならない事があるんだ…。
俺はこの数日間ものすご〜く楽しかった。
ハルと一緒で楽しかった。
私も…私も楽しかった。
本当に…楽しかった〜。
またユウカイしにきてね。
じゃあね。
不思議な事にお父さんが光って見えた。
何だかかっこいい…。
お父さんとお母さんがどんな取り引きをしたのか結局は分からなかったけどもうどうでもよかった。
いつまでもバカみたいに手を振っているあのユウカイ犯の事を私は大好きだと思えたから
2017/08/30(水) 01:00〜02:13
NHK総合1・神戸
夏休みドラマ キッドナップ・ツアー[解][字][再]
夏休みの一日目、私はユウカイされた。犯人は、おとうさん…。角田光代の原作をもとに、ちょっとクールな女の子と、ろくでもない父親の旅路を描くドラマ。妻夫木聡主演。
詳細情報
番組内容
夏休み、母と別居中の父親にユウカイされた小学5年生のハル。父親は、だらしなくて、情けなくて、お金もない。海水浴に肝試し、キャンプ、次々と出会う風変わりな父の友人たち。ひと夏の旅路の中で、ハルは今まで知らなかった父親の姿を知り始める。そして父親は母親に対し、ハルを帰すための交換条件を提示するが…。娘と父親が奇妙でドキドキの“旅”をしながら、お互いを知り成長していく物語をコミカルに描く。
出演者
【出演】妻夫木聡,豊嶋花,木南晴夏,夏帆,新井浩文,ムロツヨシ,満島ひかり,八千草薫
原作・脚本
【原作】角田光代
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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