幼児教育の「親任せ」は格差を再生産するか

意欲、忍耐力、協調性は「就学前教育」が有効

幼児教育は「忍耐力、自制心、協調性」などを高めるのに極めて有効だという研究結果があります(写真:kou / PIXTA)
幼児教育は、大きくなってからの学校教育や職業訓練よりも、ずっと「投資効率」がよいことがわかってきた。幼児教育を受けた子どもは、受けなかった子どもに比べて、収入も高く、健康である率が高いという。保育園(保育所)や幼稚園に通えず、親にも放置されて育った子どもはその点で不利といえる。
また、幼児期に身に付けたやる気・忍耐力といった特質が、小学校入学後の学力を伸ばし、社会人になってからの働き方の基盤になるとのことで、幼児教育が以前より注目されている。ところが、日本では幼児教育は義務教育ではないので、親任せとなっているのが実態だ。
格差研究の第一人者である橘木俊詔・京都大学名誉教授が、こうした「学校の外」での教育による格差に焦点を当てて分析したのが『子ども格差の経済学――「塾、習い事」に行ける子・行けない子』である。ここでは、幼児教育の重要性と幼児期に伸ばせる能力について、本書の内容を一部編集のうえ掲載する。

意欲・忍耐力・協調性は就学前に高められる!

『子ども格差の経済学 』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

幼児教育の重要性は、非認知能力を高めるのに貢献する、ということに凝縮できる。ここで非認知能力とは、その人の性格なり精神、あるいは意欲に関する能力を意味し、具体的には忍耐力、自制心、協調性、指導力、計画性、向上心、意欲といった人の心に関するものである。

そしてこの非認知能力は知的能力(たとえばIQ)、学力、そして学歴といった認知能力を高めるのに役立つのみならず、社会人になってからの職業生活における働き方やそれによる成果、ひいては所得決定にも影響を与えるのである。

忍耐力、自制心、協調性、指導力、計画性、向上心、意欲といったものは、それぞれの人の性格なり特質を示したものであり、これらの能力が高ければ、あらゆる人間活動の分野においてよい成果を出せるだろうな、ということは素人でもわかる。

むしろ興味のあることは、これら全部の特性に優れた性格を持つ人などおらず、個人によってどの特性に優れ、どの特性に劣るのかということを、どのような方法を用いて見つけるか、計測するのかが関心となる。その作業は心理学では相当な信頼度でもってなされている。

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  • NO NAME3abe628e6cda
    まあ貧困者は貧困層にとどまってもらわないと社会は困るからね。

    それが日本型資本主義。いくらもがこうが大抵の人が抜け出せない。

    国立大学では未だにマルキシズム信奉してる教授が経済学教えてるんだから。

    ただでさえ飲食店など変えの効く仕事の就労者減ってるのに、国としてはむやみに貧困者を中流に上げるような政策を取るべきではないという考えなのだろう。

    親の姿勢を見て育った子供がまた同じことを繰り返す。ただそれだけ。

    貧しい親から一体どうやって富める者のスタンスを学べというのか。

    国としては、貧困層には一時的なばら撒き政策で一時的に満足しといてもらう。それしか出来ない。
    up26
    down11
    2017/8/30 09:41
  • NO NAME6f0cc796e3b8
    ちなみにここで言う幼児教育とは本文に「非認知的特質」とあるように読み書きそろばん等のお勉強では無くて、好奇心の涵養や対人トラブルの解決方法等、EQ(エモーショナル インテリジェンス)的な側面を伸ばす教育。好奇心が無ければ、いくらその後に学校で勉強を教えられても全然興味持てなくて身に付かない(投資効果が低い)ということです。逆説的ですがワンオペ素人母親育児やるよりも、金が無くて母親が保育園に零歳の頃から預けている子供の方が環境としては恵まれているということです。
    up6
    down0
    2017/8/30 11:59
  • NO NAMEda5c0b2d7959
    常識のある親は、所得に関わらず「規格外品」には育てないでしょう。
    常識の無い親でも、昔は周囲の人間が「矯正」してそれなりに育ちました。
    今は常識の無い親だと、自分の劣化コピーしか生産出来ない、
    こういうことでしょう。

    中級以上の理想論を底辺に持ち込んで「矯正」の機会を奪っている
    好例ですね。
    up10
    down4
    2017/8/30 09:56
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