表面と大気が詳細に観測されたアンタレス
【2017年8月29日 ヨーロッパ南天天文台】
夏の宵空に見えるさそり座の、心臓の位置に赤く輝く1等星「アンタレス」は、一生の終わりを迎えつつある低温の赤色超巨星だ。質量は太陽の12倍、大きさは太陽直径の700倍ほどもあると考えられている。
チリ・カトリカ・デル・ノルテ大学の大仲圭一さんたちの研究チームは、チリ・パラナル天文台に設置されているヨーロッパ南天天文台のVLT干渉計(VLTI)を使ってアンタレスを観測し、表面の物質の動きを計測した。VLTIは最大4基の望遠鏡を組み合わせて差し渡し最大200mに相当する仮想望遠鏡として機能し、単独の望遠鏡をはるかに超える高解像度を実現することができる。
観測から、太陽以外の恒星の表面と大気をとらえたものとしては過去最高レベルの詳細な画像が得られた。
VLTIがとらえたアンタレス(提供:ESO/K. Ohnaka、以下同)
さらに観測データを利用して、大気を構成しているガスの速度の違いや平均速度が領域ごとに計算され、アンタレス表面のガスの相対速度分布図が作られた。太陽以外の恒星でこの種の図が作成されたのは初めてのことである。
アンタレス表面の物質の動きを示した図。赤は地球から遠ざかる方向の動き、青は近づく方向の動き(黒は観測ができなかった部分)
データから、予想以上に星から遠く離れた低密度ガスの乱流が発見された。この動きは対流によるものとは考えられず、拡がった大気中のガスの動きを説明するには未知の物理過程が必要ではないかと考えられている。
「アンタレスのような星が進化の最後の段階で、どのように質量を急速に失っていくのかは、半世紀以上続いてきた長年の謎です。VLTIはアンタレスの拡がった大気中のガスの動きを直接計測できる唯一の観測装置で、今回の観測は問題を明らかにするための重要なステップです。次なる挑戦は、荒れ狂う大気の駆動源を解き明かすことです」(大仲さん)。
「将来この観測技術が様々な種類の星に適用されれば、前例がないほどの詳細な星の表面と大気の研究が可能になるでしょう。私たちの研究は、恒星を対象とした天体物理学に新たな側面をもたらし、恒星観測のための新しい窓を開きました」(大仲さん)。
アンタレスの想像図(提供:ESO/M. Kornmesser)
〈参照〉
- ヨーロッパ南天天文台:Best Ever Image of a Star’s Surface and Atmosphere - First map of motion of material on a star other than the Sun
- Nature:Vigorous atmospheric motions in the red supergiant supernova progenitor Antares 論文
〈関連リンク〉
- ヨーロッパ南天天文台
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:アンタレス
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