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「フェイクニュース」:インターネットを利用した世論操作

  • 投稿日:2017年8月29日
  • 脅威カテゴリ:サイバー犯罪
  • 執筆:セキュリティエバンジェリスト 岡本 勝之
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近年、「Fake News(フェイクニュース)」という単語に注目が集まっています。「フェイクニュース」とは言葉の通り、偽のニュース、嘘のニュース、という意味ですが、特に近年ではインターネットを利用して一般大衆を誘導し、世論を操作するためのサイバープロパガンダ(宣伝工作)手法を指す専門用語となっています。今回、トレンドマイクロでは継続したサイバー脅威の監視と調査の中から、インターネットの影響力を利用して世論を操る「フェイクニュース」の手法に迫ることができましたので、本ブログにて連載記事の形式で報告いたします。多くの情報が飛び交うインターネットは既に実社会に大きな影響を与える存在となっており、特に一般のインターネット利用者の参加によって成り立つ各種ソーシャルメディアはその影響力を増しています。「フェイクニュース」による世論操作を目指す攻撃者は、インターネット、特にソーシャルメディア上で注目を集めるための様々な手法を駆使し、一般のインターネット利用者の意見誘導を試みていました。

本連載で取り上げる「フェイクニュース」とは、世論の操作を目的としてインターネット上で虚偽のニュースを拡散させる宣伝工作の一種を指します。「フェイクニュース」の実行のためには、まずニュースとして拡散するための情報コンテンツを作成する必要があります。次に、作成した情報コンテンツを何らかの手段でインターネット上へ発信するとともに、大きな注目を集めるための「プロモーション」活動が行われます。「プロモーション」活動には情報を元にインターネット利用者の印象を操作し、意見を攻撃者が望むものに誘導することも含まれます。このような現在の「フェイクニュース」を考える上で、重要な3つの要素として、「ソーシャルメディア」、「ツールとサービス」、「動機と目的」があります。

■「フェイクニュース」の拡大を支える「ソーシャルメディア」

インターネットを利用した「フェイクニュース」の背景として、最も重要な存在として「ソーシャルメディア」が挙げられます。例として「Facebook」、「Twitter」、「Instagram」などの世界的なソーシャルメディアから、中国の「微博(Weibo)」」や「微信(WeChat)」、ロシアの「VKontakte(VK)」、「Odonoklassiniki(OK)」など地域ごとの人気ソーシャルメディアがあります。



図:地域ごとの人気ソーシャルメディアの例:
中国の「微博(Weibo)」(上)、ロシアの「Odonoklassiniki(OK)」(下)

これらのソーシャルメディア上では、口コミの効果により、素早く情報が拡散すると共に、受け取り手の人々がその情報を信用する割合も高く、一般の広告などに比べても相対的に低コストで大きな影響力が期待できます。また、ソーシャルメディアのアカウントは厳重な審査なしに誰でも作れること、情報が大規模に拡散するにつれ元々の情報ソースがわかりづらくなることなどから匿名性にも優れています。これら「情報拡散」、「信用性」、「コスト」、「匿名性」などの面から、ソーシャルメディアは「フェイクニュース」を拡散させる攻撃者にとって理想的なプラットホームとなっています。

■「フェイクニュース」に利用される「ツールとサービス」

インターネットやソーシャルメディアが実社会に与える影響力は、「フェイクニュース」が注目されるずっと以前から広告や宣伝に利用されていました。インターネット上で注目を集めるための「Webマーケティング」としては、例えば「サーチエンジン最適化(SEO)」のような方法などがあります。

トレンドマイクロの調査では、一般企業が提供する正規「Web マーケティング」サービスだけでなく、例えばソーシャルメディア上での活動を売買するなどの、グレーもしくは不正と考えられるサービスも多数確認されました。

「フェイクニュース」の攻撃者はこのようなサービスを、自身が作り出した情報に注目を集めたり一般利用者の意見誘導を行ったりするための「プロモーション(拡散)」活動に使用します。例えば大量のクリックや書き込みのような操作を実現する手法として、複数の端末をコントロールする「クリックファーム」と呼ばれるような環境が従来から利用されてきました。しかし、自前で構築したクリックファーム環境を使用した操作と比べ、グレー~不正なサービスは比較的安価、且つ追跡調査を免れやすい匿名性に優れており、攻撃者自身やそのまた背後にいる依頼者の情報を秘匿するために利用しやすいものともなっています。


図:「クリックファーム」の管理コンソール例
複数台のスマートフォン端末をコントロールしてソーシャルメディア上への書き込みなどを行う

■「フェイクニュース」が行われるための「動機と目的」

攻撃者にとって「フェイクニュース」は「手段」であり、何らかの達成したい「目的」が存在します。「フェイクニュース」を含む「サイバープロパガンダ」という観点においては、政治的な目的が背景にあると考えられる攻撃が多くなっています。 2016 年の米国大統領選挙や 2017 年のフランスの大統領選挙の際には、特定の有力候補者を貶める目的と考えられるキャンペーンが見られたことが報道されています。このようなキャンペーンでは、「Pawn Storm」のような標的型サイバー攻撃集団により政党などから流出した情報のリークや「フェイクニュース」を織り交ぜて行われていたことが指摘されています。

また、金銭利益も目的の1つと考えられます。「フェイクニュース」により特定のサイトやページへのアクセスを増やすことは世論操作よりも簡単であり、攻撃者は誘導したアクセスを広告収入に変換することができます。また、「フェイクニュース」により特定の商品や企業の印象を操作し、市場や株価の操作を行うことでより大きな利益を得ることも可能です。同時に、他の攻撃者から「フェイクニュース」の実行を請け負うことで金銭利益を得ようとする攻撃者も増加するでしょう。

このように、「フェイクニュース」はインターネットやソーシャルメディアの発展と影響力の拡大がその背景にあり、まさに昨今のITの発達を最大限に取り入れた最新のサイバープロパガンダ手法となっています。また、現在のサイバープロパガンダ手法の中でも、「フェイクニュース」は効果的かつ比較的安価な手法となっています。次回は「フェイクニュース」の「経済性」について考えます。

※本記事の内容は当社発行のレポート「The Fake News Machine: How Propagandists Abuse the Internet andManipulate the Public」(英語)に基づくものです。「フェイクニュース」に関してより深く知るためにはこちらのレポートもご一読ください。

Fake News and Cyber Propaganda: The Use and Abuse of Social Media

参考記事:

  • 「Exploring the Online Economy that Fuels Fake News」
    By Lion Gu, Vladimir Kropotov, and Fyodor Yarochkin (Senior Threat Researchers)

■「Fake News(フェイクニュース)」連載記事リンク:

  1. 「フェイクニュース」:インターネットを利用した世論操作(本稿)
    http://blog.trendmicro.co.jp/archives/15770
  2.  安価に可能な世論操作、「フェイクニュース」の価格相場は?(2017 年 8 月 30 日公開予定)
  3. 「フェイクニュース」を見破るためには?(2017 年 8 月 31 日公開予定)

※記事構成:岡本 勝之(セキュリティエバンジェリスト)

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Tags: フェイクニュースサイバープロパガンダFake NewsSNS


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