アメリカ南部のバージニア州シャーロッツビルにおける白人至上主義者と反対派の衝突事件について、ドナルド・トランプ米大統領が「白人至上主義者擁護」と受け止められる発言をして以来、今なお全米から批判を浴びています。のみならず、政府高官が次々と辞任するなど、その影響は当面収まりそうにありません。
トランプ大統領の就任後、ホワイトハウス内には白人至上主義者とユダヤ系グループとの対立がありました。極右思想に染まったスティーブン・バノン元首席戦略官兼大統領上級顧問のグループと、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問を中心としたグループとの確執です。トランプ大統領は、この確執の激化を回避するためにバノン氏の解任を決断しました。
本稿では、まず米国社会に衝撃を与えた衝突事件におけるトランプ大統領の対応について、異文化コミュニケーションの視点を加味して分析します。次に、解任後のバノン氏の動きと影響力について考察します。そのうえで、来年2018年に控えた米中間選挙で何が起きるのかについても考えてみたいと思います。
2016年の米大統領選挙において、筆者は研究の一環として、中西部オハイオ州クリーブランドにあったヒラリー・クリントン候補(民主党)の選対でボランティアの運動員として働きました。その時、白人女性の民主党運動員が次のように語っていました。
「トランプの『偉大な米国を取り戻す(Make America great again)』というスローガンは、『アメリカを、白人が優位だった時代に戻す』という意味なの」
コロンビア大学で教鞭をとっている英語教授法の専門家も、トランプ大統領のスローガンの裏にある「隠されたメッセージ」に関して、上記の運動員とまったく同様の解釈をしていました。因みに、この専門家も白人女性です。この2人のような視点は、選挙当時、われわれ日本人にはほとんどなかったはずです。
周知の通り、トランプ大統領はこの「偉大な米国を取り戻す」というスローガンを柱に大統領選を戦い、勝利を収めました。そのスローガンに「1950年代の、白人男性が優位だった頃の米国社会を取り戻す」という含意があったことに、前述の女性たちは気づいていました。
トランプ氏の言う「アメリカ」には、アフリカ系アメリカ人(黒人)やヒスパニック系(中南米系)はもちろんのこと、白人男性から見て「マイノリティ」とみなされる白人女性も含まれていないのです。
「偉大な米国を取り戻す」をさらに言い換えれば、「異なる人種や民族の共存しない、文化的多様性のない時代の米国を再興する」という意味になります。率直に言えば、「白人至上主義の復活」です。
思い返せば、トランプ氏が大統領選で掲げた「イスラム教徒の一時的全面入国禁止」や「メキシコ国境の壁建設」といった政策は、支持基盤の一角をなす白人至上主義者の支持獲得を狙ったものでした。
こうした背景があるために、今回のバージニア州での白人至上主義者デモと反対派との衝突に関して、トランプ大統領の対応は二転三転しました。
米メディアの報道によりますと、クシュナー大統領上級顧問と長女のイバンカ大統領補佐官は、トランプ大統領が最初に出した「双方に非がある」という声明を修正するように助言しました。それに対して大統領は、一旦それを聞き入れたものの、8月15日に行ったトランプタワーでの記者会見で再度「双方に責任がある」と述べ、「喧嘩両成敗」の立場に戻りました。
トランプ大統領からすれば、白人至上主義を明確に非難することは、選挙戦を勝ち抜く原動力となった「偉大な米国を取り戻す」というスローガンを全面否定することになります。これは、この言葉にアイデンティティ(同一性)を強く抱いている大統領にとって、自己否定にも等しいことです。
擁護すればするほど窮地へ追い込まれてしまうにもかかわらず、どれだけ責められても、トランプ大統領が白人至上主義者を結局擁護してしまう理由は、ここにあるのです。