書評
ヨーロッパ文明の正体: 何が資本主義を駆動させたか (筑摩書房)
解明の鍵は「棲み分け」にあり
鉈(なた)で一刀両断されたような良い意味での重い読後感が残り、あらゆるものを数値と結びつけて考えたがる「理系バカ」が支配する現代社会から脱しなければ、日本の未来はないという著者の主張にとても共感できる。ヨーロッパ文明は12世紀に始まり、これを解明する鍵は「棲(す)み分け」にあるとするのが本書の核心である。とりわけ富の棲み分けと職の棲み分けが農村に「貨幣関係のネットワーク」を成立させ、資本主義をもたらしたという。
そして、資本主義を効率化させていったのが「時間・空間の能動的棲み分け」だった。これは聖俗の棲み分けに他ならない。「教会という空間を整理整頓して礼拝のみの空間とし、礼拝の時間と俗生活の時間をタイムスケジュール化して分離する」からである。この棲み分けは必然的に「均一化」と「排除」を生み、空間を棲み分けて最終的に到達したのがナショナリズムだった。資本主義およびナショナリズムを理解するにはキリスト教、とくにカトリックの理解が不可欠だということがよく理解できる。
なぜ非西欧では日本だけが明治維新で西欧化に成功したのかについても説得的である。日本でも江戸時代から富、職の棲み分けがある程度は行われていたからだと、具体例を挙げて証明している。
富の棲み分けは理系人間、すなわち「職人」という技術者を重用し、17世紀の「科学革命」へと繋(つな)がって、あらゆるものを数値化していった。
しかし、「理系バカ」が主導する「理系資本主義」はもはや限界に達し、ここから日本が脱することから始めなければいけないと本書は主張する。「過度」と「速さ」の理系型ではなく「適度」「遅さ」の「文系資本主義」の道をとれというのだ。18歳のとき数学ができないという理由だけで文系コースに進んだ評者としては、再チャレンジのチャンスだと勇気が湧いてきた。