田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設問題について、またもマスコミの「事実検証なき報道」が話題を広めている。その焦点のひとつが、獣医学部の「設計図」にある「ワインセラー」というものだ。例えば、日刊ゲンダイは「驚いたのは、最先端のライフサイエンス研究とは無関係な豪華『パーティー施設』が計画されていることだ」と批判を展開している。同紙によれば、ワインセラーやビールディスペンサーなどが装備された100人規模の立食パーティーが可能な会議室は豪華であり、まったく「宴会場」というべきもので許容外であるようだ。ネット媒体のリテラも似たような論調で報じている。

 このワインセラー問題は、全くくだらない問題だとは思うが、印象操作としては政権批判層の支持をある程度集めるのだろう。実際に、私の見聞でも、このワインセラー設置を安倍晋三首相と加計学園の加計孝太郎理事長の親密さを表すものとして、超越的な印象批判をする人たちをネットで見かける。

 ちなみに、常識的には「なぜ獣医学部にワインセラーがあることが政権批判になるのか?」と思うところだろう。だが、日刊ゲンダイの記事では「図面が明らかになった今、獣医学部新設の必要性、国家戦略特区とアベ友の闇がさらに深まったと言える」と、ワインセラーや「宴会場」の設置が、さも安倍首相と関係があるかのように匂わせて記事は締めくくられている。そして、この話題は政治の場にも波及し、民進党の加計学園問題調査チームの座長である桜井充参院議員が、ワインセラーの設置を問題視していた。
民進党が開いた「加計学園」問題に関する調査チームの会合。中央奥は共同座長の桜井充参院議員=8月16日午後、国会
民進党が開いた「加計学園」問題に関する調査チームの会合。中央奥は共同座長の桜井充参院議員=8月16日午後、国会
 先に結論を書けば、朝日新聞の報道によると、そもそもこのワインセラーは当初の図面にあるだけで、現状は別の厨房(ちゅうぼう)施設に置き換わっているらしい。つまり上記の日刊ゲンダイもリテラも事実確認をしないまま、当初設計図の記載をうのみにして記事を書いていたことになる。これではジャーナリズムとして褒めたものではなない。

 ところでこのニュースをめぐって、ネットではいち早く、各大学にワインセラーなどが設置されていることが珍しくないこと、また国際会議や学会用に大学内にレセプション用(つまり「宴会」)のホールやレストランなどを設置するのも珍しくないことも指摘された。一例だが、このワインセラー設置に厳しいコメントを出していた元文部科学省官僚の寺脇研氏の出身大学である東京大学でもワインセラーは設置されているし、毎年、「東大ワイン祭り」も開催されていて、大学の「教育」活動に貢献している。