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シリコンバレーこそが「強欲の街」と批判される、アメリカのいま

グーグルの「あの騒動」が伝えること

Googleの社員解雇騒動

この8月、GoogleのCEOであるスンダー・ピチャイは、休暇を返上してでもある騒動に対処しないわけにはいかなかった。

もちろん、その騒動とは“Google’s Ideological Echo Chamber(「Googleにおけるイデオロギーの反響室」)”という文書にまつわるものだ。

Googleのソフトウェア・エンジニアであるジェームズ・ダモアが記したこの10頁のドキュメントは、同社の「ダイバーシティ(多様性)・プログラム」に疑問を呈するもので、タイトルにある通り、Googleが「イデオロギーの反響室」として過度にリベラルに傾斜していることを指摘していた。

これがピチャイを休暇先から呼び戻すまでの騒動となったのは、Googleの中で女性のエンジニアが少ないのは、社会的偏見だけでなく性差という生物的特性にもよるから、という説明がなされていたことによる。

この「性差」に関わる部分、要するに「女性だから」という理由づけのところが、ダイバーシティを推進しようとするGoogleの経営方針に反対しているとみなされ、結果としてダモアは2017年8月7日、Googleから解雇された。

確かに前回、「アリアナ・ハフィントンの挑戦」として、シリコンバレーの修繕(fix)の話題を扱い、シリコンバレーも変貌を余儀なくされる時代を迎えていると記したが(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52486)、まさか、そう言ったそばからシリコンバレーの代名詞であるGoogleでこのような騒動が起こるとは思わなかった。

ちなみに「反響室」と訳したEcho Chamberは、ウェブに親しんだ人ならむしろ「エコーチェインバー」とカタカナで紹介したほうが早いかもしれない。

 

ウェブ上では基本的にメディアに接触する側に選択権が移るため(=インタラクティブ性)、「見たいものしか見ない、聞きたいことしか聞かない」ことから生じる、「接触情報の多様性の低下」と「同種情報に触れる人びとによる自発的集団(=クラスター)化」を指す言葉として、「フィルターバブル」と同様に、いつの間にか市民権を得てしまった言葉である。

どちらかといえば「フィルターバブル」が、同種情報に囲われてしまった結果浮上する「クラスター化」に焦点が当てられているのに対して、「エコーチェインバー」は、そのような特定集団の間で「常識」のごとく祭り上げられてしまった「情報/コンテント」の方に力点が置かれた言葉となっている。

こうして局所的にブーム化したものが、社会全体としては間歇的にトレンドであるかのごとく扱われるようになる。そのような「言葉のステルス潜行性」こそが、ソーシャル化以後のメディアの特性となっている。

クラスター外の人びとの目に触れる頃には、ことの発端が何であったのかなど、忘れられていることがしばしばなのだ。

当初の意図がどうであれ

実のところ、ダモアがどのような意図をもってこのメモを公開したのか、もはや今となってはよくわからない。

もともとこの文書自体、本人によれば、本社でダイバーシティ・プログラムを受講した後、中国出張で12時間飛行機に乗らねばならず、その間暇だったから考えをまとめた、というのが執筆のきっかけだというのだから、経営陣に正面から楯突こうというものではなかったのかもしれない。

あるいは、そもそも社内限りのはずで書いた文書が流出したというのも想定外だった可能性もある。もっとも、ミレニアル世代の28歳のプログラマが、このあたりのIT企業の都合やウェブの事情に不案内だったというのも、いささかナイーブに過ぎて信じがたいところではあるのだが。

むしろ問題は、このメモの存在がとにかく公にされたところで即座に、白人優位主義を掲げるAlt-Right関連のサイトを中心に、ダモアを擁護しGoogleを糾弾する論調が現れたところにある。

つまり、ダモアの当初の意図がどうあれ、この文書はAlt-Rightの目に止まり、彼らが支持する言説としてウェブ上で位置づけられることになった。

皮肉なことに、ダモア自身、エコーチェインバーと化してしまった。