2017年8月24日にアークシステムワークスより発売されたPS4向けホラーゲーム「WHITEDAY~学校という名の迷宮~」。キャラクターの名前から舞台となる学校まで、一見日本のゲームを思わせる雰囲気だが、元をたどれば2001年の韓国産タイトル「White Day: A Labyrinth Named School」があり、PS4版はそのリメイクにあたる。

今回、IGN JAPANではPS4リメイク版の開発SonnoriのCEOであり、同作のディレクションとプロデュースを務めるLee Won Sool氏に話を伺った。氏は原作にも関わっており、このタイトルと関連の深い人物だ。

「White Day」制作に関わるパーソナルなエピソード

――自己紹介をお願いします。

Sonnoriの代表取締役・CEOのLee Won Soolと申します。1994年にリリースされたRPG「アストニシア ストーリー」からゲーム業界に入り、もう23年が経ちました。これまでPCゲームやオンラインゲーム、モバイルゲームなど、さまざまなタイトルの開発に携わってきました。

現在は「White Day: A Labyrinth Named School(以下、White Day)」のIPをより多くのプラットフォームで実現させることに注力しています。ですので「White Day」のPS4リメイクがグローバルリリースできるのはとてもうれしく思っていますし、アジア製のホラーアドベンチャーとして、世界中のゲーマーにアピールできると考えています。

――「WHITEDAY~学校という名の迷宮~」はPS4版より先にスマートフォン版がリリースされていますが、スマートフォン版の評判はいかがでしょうか。

大変好調で、数カ月にわたって韓国のすべてのアプリ売り場において最もダウンロードされた有料ゲームになりました。原作のストーリーを現代的な視点で新しく表現するところを気に入ったプレイヤーが多かったのではないかと想像しています。 また、多くのホラーゲームが暴力性や残虐表現に焦点を合わせているため、それらとは一線を画したモバイル用のサイコホラーに、海外のユーザーが新しさを感じたのではないかと思います。

――ずばりリメイクのきっかけは?

今回のプロジェクトのきっかけは、国内外のファンによる二次創作コンテンツでした。彼らがソーシャルメディアでそれらを共有していたおかげで、発売から十数年経ってもPC版「White Day」を覚えている人がいることに気づかされました。いまだにプレイしてくれている熱心なファンまで大勢いて、本作を愛してサポートする人々のためにリメイクを作ろうと決心したのです。

――「White Day」はホラーゲームと恋愛ゲームを結びつけているのが印象的ですが、この発想はどこから来たものなのでしょうか。

私が小さい頃に観たホラー映画では、ほとんどのロマンチックなシーンが恐怖を一時的に和らげたり、悲しい結末をほのめかしたりするための存在でした。私は、主人公が好感を抱いたかわいい女の子が殺されるたびに不愉快な気分になり、「自分だったら彼女を助けられたのに」と憤慨していました。

そのとき抱いた「将来的にその夢を叶えるゲームを作りたい」という思いは、やがて「White Day」におけるホラーと恋愛の出会いという形で具現化することになったのです。

――幼い頃からホラーがお好きだったんですね。

はい、昔からホラーコンテンツが好きでした。映画、本、そして私自身が見た悪夢さえも。とにかくホラーが好きなんです。しかし、おもしろいホラーゲームはなかなか見つかりませんでした。ゾンビやモンスターではなく、不気味な空間とシチュエーションで人を怖がらせるリアルなホラーゲームを作るのが夢だったんです。その後、ホラー映画から漫画、ゲームまで、私はさまざまなホラーコンテンツにインスピレーションを受けてきました。

――それが「White Day」につながっているわけですね。

実は小さい頃に夜の学校に潜入したことがあります。

――え!?

そのとき管理人に見つかってしまって、追われた私は死ぬ気で走って逃げ回りました。それが私の人生で最も恐ろしい体験です。実は「あの夜に味わった恐怖を再現したい」と思ったのがホラーゲームを作り始めたきっかけなんです。

――実体験が元になっているというのには驚きました。それではホラーを手がけるうえで気をつけていることはありますか。

プレイヤーに最大限の恐怖と緊張を与えるためには、圧倒的な現実感が必須だと考えました。夜の学校に閉じ込められて、倒すことができない敵に追われているという現実感を持たせるために、3Dのグラフィックと一人称視点を採用することに決めたんです。

――今見ても、当時であのグラフィックというのは驚くのですが、苦労が多かったのではないでしょうか。

「White Day」の開発中に本物の学校へ足を運びました。サウンドの多くは、実際にその学校で録音したものです

最初から最後まで、すべてが難しかったです。キャラクターアニメーションや背景モデリング、ライティング、サウンドなど、色々なことに無知でした。紆余曲折を経て、やっとモーションキャプチャを用いてキャラクターアニメーションを完成させましたが、そのデータを実際のゲームに適用することも簡単な作業ではありませんでした。容易なものなどひとつもなかったのですが、我々が今後、困難を乗り越えるための輝かしい思い出になったな、と思いますね。

それとグラフィックだけではなく、サウンドエフェクトにもかなり力を入れました。たとえばリアリティを出すために、我々は「White Day」の開発中に本物の学校へ足を運びました。サウンドの多くは、実際にその学校で録音したものです。

取材のために訪れたという廃校

教室のドアが閉まる音や板張りの床を走る音、ワイヤを切る音、ぶら下がるキーホルダーの音など、「White Day」のすべてのサウンドエフェクトは夜に実在する学校で録音したものです。実際に壊れたバイオリンを演奏したり、ハイヒールを履いて四つんばいになって這ったりもしました。こういった努力の結果、のちにファンに愛されることとなった、非常にリアルなサウンドエフェクトを作ることができました。本作について「サウンドが一番怖かった」と語るプレイヤーも多いですね。

なのでPS4リメイクも現実の学校で得た素材に基づいて作っています。写真のような廃校を訪問して現地取材を行っています。

音声素材を録る様子
音にはかなりこだわったことが見てとれる

韓国のゲーム産業の今

――韓国のゲーム産業は2000年代と比べてどう変化しましたか。

韓国のビデオゲーム市場は昔からずっと小さかったのです。2000年前後にはPC・コンシューマゲームのデベロッパーがいくつかありましたが、すでにほぼ全滅してしまいましたし、近年、モバイルゲームの市場規模が急速に拡大する一方、PC・コンシューマゲームの市場シェアは奪われてしまっています。

しかし、PlayStation VRのローンチは大きな転機となりました。一部の韓国のデベロッパーはその市場機会を活かし、コンシューマゲームの開発に集中するようになりました。コンシューマゲームのプレイヤーも増えています。グローバルマーケットと比べると、韓国のコンシューマゲーム市場は極めて小さいのですが、これから拡大していくのではないか、と思っています。

――オンラインゲームが市場を席巻する以前に存在した韓国産ゲームで、「White Day」と同様に今でも評価できるタイトルはほかにありますか。

他社さんのタイトルに言及するのは恐縮なので、Sonnoriの過去作から1本だけピックアップさせてもらいましょう。2000年にリリースされたPCゲーム「アークトゥルス」(日本では2003年に日本ファルコムより発売)は、私が最も好きな韓国製RPGのひとつです。ストーリーが内容豊かで、グラフィックもかわいいです。

本作のリメイクを望んでいるファンも多いですよ。

――欧米ではインディーゲームが一定の地位を得ていますが、韓国のインディーゲームシーンはいかがでしょうか。

革新的なインディーゲームは既存ジャンルや市場動向を超越した、ゲーム業界の先行者

クリエイティブな楽しさを提供するインディーゲームをとても魅力的だと感じています。革新的なインディーゲームは既存ジャンルや市場動向を超越した、ゲーム業界の先行者なのですから。

欧米ほど活発ではありませんが、韓国にも一定のインディー市場が存在します。新鮮なアイデアや新たなビジネスモデルを持つインディーデベロッパーは、資金を提供してくれる韓国政府の複数のプロジェクトに参加していて、開発スタジオの数も増えています。インディー市場の拡大に伴って、近い将来にはより成熟した韓国のゲーム市場が確立すると信じています。

――ではインディーゲームが脚光を浴びることで、Sonnoriのような歴史ある韓国産デベロッパーにスポットライトが当たる可能性はあると思いますか。

これは本当に難しいと思います。2000年代初頭、多くの古いゲームデベロッパーが消滅してしまいました。韓国のゲーム市場の規模が小さいので、たとえ昔人気だった作品であっても、現代に蘇らせるのは至難の業です。「White Day」だって、海外で有名になっていなければ、今のように復活することはなかったと思います。