このページでは、残業代請求の具体的な方法について解説します。
残業代請求には、主に次の4つの方法があります。
- 任意交渉
- 労働審判
- 訴訟(裁判)
- 労基署への申告
それぞれの方法について、特徴やメリット・デメリット、手続きの流れなどを、簡単に比較していきましょう。
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残業代請求の方法の比較表
- 任意交渉
- 労働審判
- 訴訟(裁判)
- 労基署への申告
以上の残業代請求方法について、まずは簡単な比較表をチェックしてみましょう。
なお、「任意交渉」には、自分で行う方法と、弁護士や司法書士を通す方法があり、それぞれ特徴が違うため、2つにわけて表に記載します。
費用や時間 | 必要な証拠 | 成功率 | |
---|---|---|---|
自分で任意交渉 | 費用は掛からないが、時間が掛かる | 強力な証拠が必要 | ほぼ期待できない。交渉にも応じてもらえない場合も |
弁護士・司法書士による任意交渉 | 費用はかかるが、比較的安い | 証拠があいまいでも、交渉で解決できる場合も | 弁護士や司法書士の実力次第 |
労働審判 | 費用はかかるが比較的安く、解決も迅速 | 証拠があいまいでも、残業の事実が認定される場合がある | 裁判所の労働審判員の判断によるが、比較的成功しやすい |
訴訟 | 費用、時間ともに負担がやや大きい | 証拠があいまいでも、残業の事実が認定される場合がある | 大きな金額でも取り戻せる可能性がある。また、付加金や遅延損害金も請求できる。 |
労基署への申告 | 費用も時間もさほど掛からない | 強力な証拠がなければ、残業の事実が認定されない | 労基署から行われる指導や勧告には強制力が無いため、解決できない場合も |
残業代請求の方法1:任意交渉
○任意交渉とは?手続きの流れ
裁判所を通さず、職場(または元職場)と一対一の交渉を行い、未払い残業代を取り戻す方法です。
弁護士や司法書士に依頼して行う場合と、自力で行う方法と2つのパターンがあります。弁護士・司法書士を通す場合は、まずは無料相談から始めます。
○任意交渉の特徴
“裁判所を通さない”というと、簡単に思えるかもしれませんが、ある意味でもっとも難しい方法です。相手方の職場にとっては、交渉を受け入れるメリットも、交渉のテーブルにつく義務もないからです。
そのため、自分ひとりで行っても、門前払いにされてしまうでしょう。費用はかかりますが、法的な権限を持った、弁護士や司法書士の力を借りるほうが、成功率が高まります。
○任意交渉のメリット
- 自分で行えば、費用があまり掛からない。ただしその場合、成功率は限りなく低い
- 弁護士や司法書士を通して行えば、成功率は高くなる。費用は発生するが、裁判や労働審判に比べれば安くなる。
○任意交渉のデメリット
- 自分で行う場合、成功率が非常に低くなる。
- 法的な強制力が発生しないため、交渉が難航・決裂する場合もある。
○任意交渉の評価:自分で行った場合
成功率:☆☆☆☆☆
費用の安さ:★★★★★
手順の簡単さ:☆☆☆☆☆
解決スピード:☆☆☆☆☆
おすすめ度:☆☆☆☆☆
費用はほとんど掛かりませんが、時間の無駄になってしまうケースがほとんどです。
○任意交渉の評価:弁護士や司法書士を通した場合
成功率:★★★☆☆
費用の安さ:★★★★☆
手順の簡単さ :★★★★☆
解決スピード:★★★★☆
おすすめ度:★★★★☆
弁護士や司法書士におまかせで、裁判にならずに解決できる可能性もあります。費用も比較的安く済み、証拠が整っていれば解決スピードも期待できるため、おすすめの解決方法となります。
残業代請求の方法2:労働審判
○労働審判とは?手続きの流れ
裁判所の労働審判官および労働審判員を通して、職場(または元職場)と交渉を行い、残業代を請求する手続きです。
まずは弁護士または司法書士に無料相談を行い、正式な依頼をした後、裁判所に労働審判の申し立てを行う流れとなります。
○労働審判の特徴
裁判所を通す手続きとはいえ、基本的に調停と似たような制度のため、大掛かりな法廷闘争ではありません。裁判よりも比較的かんたんで、スピードも速く、費用もあまりかからないのが特徴です。
また、あくまで話し合いでの解決を目指す手続きのため、証拠が不十分でも、ある程度の金額を払ってもらって解決できる可能性もあります。
○任意交渉のメリット
- 司法の力により、適正に解決を目指せる
- 証拠が不十分でも、ある程度の金額を取り戻せる可能性がある
- 本格的な裁判よりも費用の負担が少なく、スピードも速い
○任意交渉のデメリット
- 交渉が成立せず、異議の申し立てがあった場合、労働審判の効力が失われて通常訴訟に移行する
- 弁護士や司法書士を通した場合でも、本人も調停に出席する必要がある
○労働審判による残業代請求の評価とおすすめ度
成功率:★★★★★
費用の安さ:★★★☆☆
手順の簡単さ:★★★☆☆
解決スピード:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
労働審判は、労働トラブルの迅速かつ適正な解決を目的に、特別に作られた制度です。そのため、残業代請求や賃金未払い、不当解雇などの解決に、たいへん効果的な手続きと評価できるでしょう。
残業代請求の方法3:裁判(訴訟)
○裁判(訴訟)とは?手続きの流れ
通常訴訟です。未払いの残業代の支払いを求めて、職場(または元職場)を裁判に訴える方法です。
裁判所を通して訴状を出し、期日から法廷で審議が開始されます。
審議の結果、判決が下り、原告(あなた)側が勝訴となれば、未払いの残業代などを取り戻せます。
○裁判の特徴
未払い残業代の元金のほか、労働基準法上の割増賃金と同額の付加金(ペナルティ)、本来払われるはずだった給料日の翌日から計算した遅延損害金も、あわせて請求できます。
そのため、うまくいった場合に取り戻せる金額が大きいのが、訴訟による残業代請求の特徴です。
また、裁判というと厳密な証拠が必要なイメージもありますが、実際は、ある程度ゆるい証拠でも、“この程度は残業があったであろう”と裁判官が判断し、残業代が認められるケースもあります。
一方で、ほとんどの場合、相手方が企業となるため、本人訴訟(自分一人で訴えを起こす方法)では厳しくなるでしょう。よって、弁護士に依頼して行うことが通常となります。
そうした費用や時間の負担も大きくなるため、その点はデメリットと言えそうです。
○裁判(訴訟)のメリット
- 付加金、遅延損害金なども合わせて取り戻せる
- ある程度の証拠が揃っていれば、厳密な証明ができなくても、残業の事実が認められる場合もある
- 弁護士が代理人となるため、本人が必ずしも出廷しなくても良い
- 判決が出れば、会社の財産に対して強制執行を行うこともできる
○裁判(訴訟)のデメリット
- 他の方法に比べて、費用や時間がかかる
○裁判(訴訟)による残業代請求の評価とおすすめ度
成功率:★★★★★
費用の安さ:★☆☆☆☆
手順の簡単さ:★★★★☆
解決スピード:★★☆☆☆
おすすめ度:★★★☆☆
「訴訟」というと大きく考えてしまいがちですが、実際は弁護士に“ほとんどお任せ”で済ませることも可能です。そのため、手続きに時間を取られて生活や仕事に支障が出る…といった心配はありません。
また、勝訴して、それでも会社側が未払い残業代を払わない場合、強制執行もできるため、非常に強力な手続きだと言えます。
残業代請求の方法4:労働基準監督署への申告
○労基署への申告とは?手続きの流れ
労働基準監督署に申告を行い、職場(元職場)に残業代を支払うよう、指導や勧告を行ってもらう方法です。
ある程度の残業の証拠を集めて、労働基準監督署へ行き、申告手続きを行います。
○労基署への申告の特徴
労基署への申告は、特に費用がかからないのが特徴です。また、未払い残業代がいくらなのか自分で把握していなくても、タイムカードなどの証拠資料があれば、労基署のほうで計算してもらえます。
一方、証拠はかなり“かたい”ものが必要になります。タイムカードなど、客観的に残業代未払いの事実を証明できる資料がなければ、労働基準書は、労働基準法違反の事実認定ができません。
また、労働基準監督署の指導・勧告には強制力がないため、会社に無視されてしまえば、それ以上のことはできなくなります。
○労基署への申告のメリット
- 費用がかからず、証拠さえあれば、すぐに申告に行ける
○労基署への申告のデメリット
- よほど“かたい証拠”が無ければ、労基署による指導や勧告が行えない
- 指導や勧告には強制力がないため、会社に無視されてしまう等、解決できない可能性もある
○労基署への申告による残業代請求の評価とおすすめ度
成功率:★☆☆☆☆
費用の安さ:★★★★★
手順の簡単さ:★★★★☆
解決スピード:☆☆☆☆☆
おすすめ度:★☆☆☆☆
労基署への申告は、残業代請求の方法としては、現実的にあまり頼れないと思います。
残業(労基法違反)認定に必要な証拠が、しっかり揃っている必要がありますが、苦労して証拠を集めて、勧告を出してもらっても、それで残業代が取り戻せる可能性は高くありません。
残業代請求の方法の選び方
- 任意交渉
- 労働審判
- 訴訟(裁判)
- 労基署への申告
以上4つの残業代請求方法について解説しましたが、どれもメリット・デメリットに違いがあります。ただ、残業代請の方法は、どれか一つに絞り込む必要はありません。
たとえば、以下のようにステップを踏んで、より強力な手続き方法へと切り替えていく方法もあります。
まず弁護士や司法書士に相談して、任意交渉
任意交渉でまとまらなければ、労働審判
労働審判でも残業代が取り戻せなかった場合、通常訴訟
このように、一度失敗しても別の方法で請求できる場合もあります。
ただし、手続きが長引けば長引くほど、負担も大きくなるので、短期決戦を望みたい場合もあるでしょう。一人一人の事情によって、適した解決策は異なります。
もっとも大切なのは、必ず“プロの力を借りる”ことです。
職場や元職場を相手に、自分ひとりで戦うのは、とても厳しい事になります。
どんな方法で残業代を請求する場合でも、必ず、残業代請求に強い弁護士や司法書士に相談してみましょう。