ピーチーがうちに来るまでのお話、最終話です。
旅だってしまってから、ピーチーがうちに来るまでの事を書くというのは、不思議な感覚です。側にいる間と、随分感じ方が違うんですね。
それは、悲しさとは全然別のもので、むしろいなくなってから、『うちの子がうちにくるまで』を振り返るのも、良いもんだな~と思います。
さて、ここからが前話の続きです。
ペットショップからの電話で、週末にその店を訪れた僕は驚きました。
何にかって?
まだ名前も付いていない、生後2週間の小さなブルテリアの幼犬にです。
とにかく可愛かったんです。
その子は、両手に少しだけ余るくらいのちっちゃな体で、真ん丸な目で僕と、うちの奥さんを興味深そうに見上げていました。
「どうぞ、抱いてみてください」
店員さんにそう言われて、まずは奥さんがその子を抱いてみました。
これがその時の写真です。
その子はちょっとだけ不安そうに見えましたが、怖がってはおらず、その証拠に少しも震えていませんでした。じっとしていて、時折首を振って、僕と奥さんに交互に視線を送って来ます。僕が頭をなでてやると、気持ちよさそうに目を半分閉じました。
「何て可愛いんだろう……」
それは、予想を遥かに上回る可愛さでした。
奥さんは僕にも抱いてみろと、その子を差し出しました。
その子は、その時も少しも怖がらず、そればかりか勢いよく尻尾を振ってくれまた。
初めてその幼犬を抱いた時の手の感触は、今でも忘れられません。柔らかくて、ふわふわで、ぬいぐるみみたいで、でも確かに生きていて、暖かい。初めて会うのに、僕を信頼し切っていて、僕の手に全身を委ねている感じです。顔を良く見ようと、目の前まで持ち上げると、その子は勢いよく尻尾を振りました。
「この子は、高いところが好きなのか」
僕は人間の赤ちゃんにするように、『高い、高い』をやってみました。するとその子は、先程よりもより激しく尻尾を振りました。
面白いので、何度も『高い、高い』をすると、その度にその子は同じ仕草を繰り返しました。
「どうなさいますか?」
そう、店員さんに訊かれました。
正直言って僕は、ペットショップに来る前は、6対4で買わないかなと思っていました。だって、希望していた男の子ではありませんでしたし、その時はまだ、犬を飼う覚悟も十分にはできていませんからね。しかし、実際に姿を見てしまったらもう勝負ありです。
うちの奥さんの顔を見ると、「好きにしたら」と言ってくれます。
「この子にします」
僕の返事を聞いた店員さんは、「良かったね~、家族が決まったよ~」と言いました。
そうです、その瞬間にその子は、うちの家族になったのです。
「お迎えは一週間後になります」
と、店員さんは言いました。これからワクチンを打つとお腹が緩くなるので、それが安定してからの引渡しだそうです。
僕たちはそのペットショップで、これから家族を迎え入れるための、色々な物(首輪とか、リードとか、ご飯の器とか・・・)を買い込みました。大きなコンビニ袋2つが、一杯になりました。
下の写真が、その時に買った一番最初の首輪です。
猫用なので、金色の鈴がついていました。
そう言えばそのペットショップから家に帰る道すがら、僕は「思ったよりも可愛かった~」と言ったのだそうです。僕は覚えていないのですが、奥さんはそれが印象深かったらしく、今でも時々僕にその事を言います。
家に帰ると僕たちはすぐに、その子の名前を考えました。
僕は『ニッケ』にしたいと言いました。ニッケは僕の田舎の方言で、シナモンのことです。肉桂から転じた言葉なのでしょう。僕が子供の頃に飼った3匹の子は、どれも『チビ』でした。『ニッケ』は、今度犬を飼うことがあったら違う名前にしようと思い、ずっと子供の頃から温めていた名です。
奥さんは、「女の子だからもっと可愛い名前が良い」と言いました。例えばモモとか、桃子とか、ピンキーとかです。何しろ、見た目が桃色でしたからね。
僕も、そう言われれば確かにそうだなと思いました。結局『ピーチ』に落ち着きかけたのですが、最後の最後、もうひとひねりして『ピーチー』になりました。『ピーチ』は名詞で桃ですが、『ピーチー』は形容詞で、桃みたいに可愛いという意味です。
待ちに待った1週間が過ぎ、僕達は『ピーチー』を車で迎えに行きました。
そして『ピーチー』は、段ボールの箱に入れられて、僕に手渡されました。
まるで物みたいなので、一瞬「えっ」と思いましたが、実はそれが移動の際に一番安全なのだそうです。
今でもその箱は、大事に取ってあります。
ピーチーはね――
あの日――
小さな小さな箱に入って、うちに来たんだよ。
――ピーチーがうちに子になったのは(3/3)・おわり――
(ライター)高栖匡躬 ・ピーチーパパ
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