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週刊現代 生物学

鳥に一切興味のなかった僕が、なぜか「鳥類学者」になったワケ

鳥の研究は毒にも薬にもならないけれど

抱腹絶倒のサイエンス本『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』がメガヒットを更新中だ。命がけでジャングルに分け入ったり、<エア鳥類学>なるもので架空の鳥を探してみたり…知られざる鳥類学者の日常は文句なしの面白さだ。しかし著者の川上和人氏は実は動物が苦手、犬も虫も得意ではないという、そんな川上さん、なぜ鳥に目覚めたのか?その理由を聞いた。

鳥類学者は肉体仕事?

―小笠原諸島でのフィールドワークを中心に活動する現役鳥類学者が綴る、研究と考察の日常。思わず目を留める挑戦的なタイトルで注目を集めています。

僕がつけました。鳥が嫌いだとはひと言も言っていないんですが、発売以降、「鳥嫌いだったんですか」と思われている節はありますね(笑)。でも実際、大学に入るまで、僕は鳥に一切興味がありませんでした。

たまたま野生動物を調査するサークルに入ったことで興味を持ち、それが研究につながり、就職につながり、ついにこういう本を書くに至ったんです。

鳥が好き、鳥になりたいという人はいても、僕らの分野はぶっちゃけ、お金になりません。同じ生物学でも、今話題のヒアリとか、農業被害をもたらす昆虫の研究であれば、支援してくれる人の数は圧倒的ですが、鳥の研究は毒にも薬にもならないことが多い。だから、研究者を増やしたくても、就職口といった具体的な受け皿がないんです。

でも注目が集まり、興味を持つ人が増えれば、大学に研究室ができ、ポストが増えますよね。だからまず裾野を広げる意味で、鳥の研究の面白さを知ってもらおうと。一般向けの書籍を書いたいちばんの理由はそこです。

 

―実際、その日々がこんなにハードなものだとは知りませんでした。希少な鳥の情報を得るために孤島の断崖絶壁を登り、命がけでジャングルに分け入る。途中、ハエの大群に襲われたり、吸血カラスに狙われたり……。

サメじゃないだけマシでしたね(笑)。書いたことはすべて事実で、誇張はなし。僕は年間、3~4ヵ月はこうした出張に出ていますが、もちろん、鳥類学者の誰もがこのような状況にあるというわけではありません。

鳥って、すごく調査がしやすい生物なんです。昼行性だし、目立つ場所にいるし、空を飛ぶので世界中、どこにでもいる。駅前に集まるムクドリとか、庭に来るメジロなどでも、研究は可能です。

そうした中で僕らは、お金をもらって研究している立場ですから、小笠原のようにアプローチがしにくい場所は、プロとして責任を持って担当しなくてはならない。行きたい場所は他にもいろいろありますが、それに対して研究者の数が足りていないのが現状です。

ニワトリも元は外来種

―アニメや特撮、文学や歴史まで、さまざまな比喩や見立てを盛り込んだ筆致は軽妙かつ洒脱。とくに、中盤の一章で展開する「森永チョコボール」のキャラクター・キョロちゃんを巡る〈エア鳥類学〉は圧巻で、肉食説や樹上説など、大いに笑わせてもらいました。

普段書いている論文では、とにかく「インクあたりの情報量を最大にする」のが大事。余計なことを書かないというのは大原則です。でも僕らは、あのキョロちゃんを見ると、本当にこういうことを考えてしまうんです。

たとえば、映画『キングコング』を観て、あんな巨大な猿がいるわけはないと否定するのは簡単だし、それはそれで正しい。ですが、逆にそうした野生の生物に出会ってしまったら、その現象を解釈するのが生物学者の仕事です。

どういう条件が備わっていれば存在が可能なのか、進化しうるのか……そう考えるほうが面白いし、ひとつの思考実験であり、生物学の訓練でもあるんじゃないかと。また、そういうクセをつけておくことで、僕らとしては勉強になるし、研究もより楽しくできるように思えます。