米育てていた“猛者”も…中国人「ヤミ畑」、首都圏撤去開始も全国865カ所に存在
埼玉県熊谷市の県営団地近くで不審火が相次いでいる事件に絡み、同市は25日午前、標的となった物置がある市有地の「ヤミ畑」の撤去に着手した。団地に住む中国人らが無断耕作し、構造物まで設置したため、近隣住民から強い不満が出ていた。公共用地の「ヤミ畑」は首都圏や近畿圏の河川敷などに多数存在する。河川を管理する国土交通省によると、全国で865カ所も確認され、その面積は、東京ドームの2・5個分にもなる。「犯罪の温床」につながりかねない、不法占拠(使用)を許してはならない。
「以前から、市有地での不法耕作については『おかしい』と感じていた。不審火などが続き、周辺住民はみんな怖がっていた。今回の撤去を機に、熊谷市にはきちんと管理してほしい」
「ヤミ畑」の撤去について、近隣の男性(51)は25日朝、こう語った。今年6月以降相次いだ、許し難い不審火への怒りもにじんでいた。
警察や市の担当者立ち会いのもと、注目の撤去は実施された。表向き「自主的」というが、1日で作業を終了させるため、市がトラックを何台も用意し、警察車両も待機した。現場は朝から、物々しい空気に包まれた。
注目の「ヤミ畑」は、団地のそばを流れる用水路に沿った一帯に広がっていた。住民によると、昔は日本人も多くやっていたが、7~8年前から、中国人ばかりになり、一部日本人とベトナム人になったという。放火されたのは彼らが農機具などを収納していた物置で、住民の1人は「無断で土地を使う中国人をよく思わない人もいた」と声を潜めた。
なぜ、「ヤミ畑」は放置されていたのか。
熊谷市の担当者は「市が『土地を管理していなかった』と言われれば、していなかったことになるかもしれない。少なくとも、ここ数年は、苦情や意見は届いていなかった…」と苦しい回答をした。迅速に対応していれば、不審火は防げたかもしれないのだ。
同市によると、「(ヤミ畑で耕作していたのは)約50人で、中国人もいると聞いている」「栽培している野菜は自主的な撤去を求め、了解を得られている」(担当者)という。
公共用地の不法占拠(使用)である「ヤミ畑」は全国にある。
国交省水管理・国土保全局によると、2016年度に、国が管理する一級河川の河川敷で確認した不法耕作の件数は、何と865件で、面積は約11万6000平方メートルだった。これは、東京ドーム(4万6755平方メートル)の約2・5個分もの広さだ。
首都圏と近畿圏に多く、関東地方整備局管内は250件(約3万2000平方メートル)、近畿地方整備局管内は324件(約2万3000平方メートル)と、件数の7割近く、面積の半分を占めていた。自宅近くで野菜などを栽培していたケースが多く、中には米を育てていた“猛者”もいた。
当然、「ヤミ畑」は、河川法・同法施行令で明確に禁じられている。
国有地の不法使用であるうえ、集中豪雨が頻発するなか、河川敷を耕したり、穴を掘る行為は堤防の弱体化につながる。治水・防災上の大問題といえ、流域住民の生命・財産を脅かす。さらに、農薬や化学肥料の使用による土壌・水質汚染も懸念され、構築物の設置は「犯罪の温床」にもつながりかねない。
2015年9月に発生した関東・東北豪雨では、茨城県常総市を流れる鬼怒川の堤防が決壊し、甚大な被害をもたらした。決壊した堤防周辺には、「ヤミ畑」ではないが、多数の太陽光パネルが設置されていた。この設置工事が堤防の弱体化に影響したとの見方も出ている。
このため、各河川事務所のスタッフは巡視を頻繁に行い、「ヤミ畑」潰しに奔走している。
国は違反者(ヤミ畑耕作者)を発見すると、原状回復など必要な措置を命令できる。違反者が国の指導に従わない場合、国が行政代執行法に基づいて原状回復し、その費用を違反者に請求する。逃げ得は許さない。
同省担当者は「最も重要で、困難なのが、不法耕作者の特定だ」といい、続けた。
「河川事務所の職員を、現場にずっと張り付けるのは難しい。誰が不法耕作しているのかを把握するのが大変だ。最終手段である『国による強制撤去』は一時的に税金を使うこととなる。税金を使わずに原状回復するためにも、不法耕作者自身に『ヤミ畑』を撤去させることが重要だ」
河川敷の「ヤミ畑」の面積は、不法耕作者の高齢化のせいか、徐々に減りつつあるという。不法耕作者の多くは日本人だが、熊谷のように中国人などの外国人による耕作例も確認されている。
同省担当者も「外国人による不法耕作はあるようだが、それが増えているというデータは持っていない」と語った。
治水・防災だけでなく、治安上の懸念がある「ヤミ畑」。河川事務所に任せるだけでなく、地域住民による監視・通報が求められる。