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- 地球幸福度指数1位コスタリカ、国を挙げた環境政策でサステナブルシティを目指す。
コスタリカを代表するルネサンス様式の国立劇場は、首都サンホセの中心地に位置する象徴的な存在。
写真提供:辻丸純一
地球幸福度指数1位コスタリカ、国を挙げた環境政策でサステナブルシティを目指す。
前編:コスタリカに暮らす丹羽順子さんに聞く
後編:電力のほぼ全てを再生可能エネルギーで供給 将来はカーボン・ニュートラルを目指す
サンホセ州、他(コスタリカ)
2017.08.10
北米大陸と南米大陸の中間に位置し、東にカリブ海、西に太平洋を望み、国土の真ん中には背骨のような中央山脈が走るコスタリカ。GDPは世界191カ国中の76位(※1)と、経済的には決して豊かな国とは言えません。しかし、英国のシンクタンク「ニュー・エコノミクス財団」が3、4年ごとに調査・発表している「地球幸福度指数」(※2)において、コスタリカは2009年版、2012年版、2016年版と3回連続、堂々の第1位なのです。なぜ、コスタリカは世界でもっとも幸福度の高い国といわれるようになったのでしょうか。そこには、政府主導の環境政策と平和を愛する国民性、豊かな自然と共存できる人々の暮らしがありました。
※1 2016年順位
※2 国民の生活の満足度と平均寿命、環境負荷などをもとに国の幸福度を算出したもの。
コスタリカは豊かな自然に恵まれた生物多様性の宝庫
北米大陸と南米大陸をつなぐ、太平洋とカリブ海に挟まれた細長い地域。その狭いエリアに、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ、パナマと7つの国がひしめきあっています。なかでもコスタリカは小国で、7カ国のなかでも6番目の大きさ。日本の四国と九州を合わせたほどの小さな国土には、海抜0mの平野から高度3000mの山地まで多彩な地形が広がり、熱帯雨林気候、サバンナ気候、温暖湿潤気候などが混在している希有な土地柄です。そのせいもあるのでしょうか、世界全体のわずか0.03%の面積しかない国土に、地球上のすべての動植物種の約5%が生息しているのです。国土の約4分の1が国立公園・自然保護区で構成され、自然を利用したエコツーリズムが盛んです。
エコツーリズム
自然をできるだけ破壊せずに、宿泊・観光施設などの環境への影響を最小限に抑えるとともに、地元の生物多様性や伝統文化といった資産を生かし、地域社会に雇用と経済的な利益をもたらす観光。
モンテベルデ自然保護区
コスタリカのエコツーリズムの聖地とされているエリア。モンテベルデとは、スペイン語で「緑の山」という意味。標高1300メートルの高地にあり、熱帯雲霧林と呼ばれる一年中霧に覆われている森林地帯。この地の樹木には、むき出しの枝はほとんどなく、ランやシダなどの寄生植物に覆われている。
トルトゥゲーロ国立公園
カリブ海沿岸の熱帯雨林が広がる国立公園。「リトルアマゾン」とも呼ばれる。道路がなく、ここに行くには、網の目のように広がる自然の運河をボートで移動する必要があり、クロコダイルやカメ、水鳥など多くの生物に出合うことができるとしてエコツーリズムでも人気の場所のひとつ。
「海から山へ、熱帯のジャングルから起伏に富んだ山岳地域へと車を走らせれば、自然の景観が変わっていくのがはっきりとわかります。この小さなコスタリカの国土には、豊かで多彩な自然が凝縮されているのです」と、コスタリカの自然に魅せられた写真家の辻丸純一さんは語ります。
手塚治虫の「火の鳥」のモデルにもなったケツァール。世界一美しい幻の鳥といわれる。長い尾羽根が特徴だ。
写真提供:辻丸純一
モンテベルデ自然保護区やトルトゥゲーロ国立公園に生息している大型のモルフォチョウ。
写真提供:辻丸純一
モンテベルデ自然保護区のエコロジカルファームには、タヌキに似たハナジロハナグマも。
写真提供:辻丸純一
政府主導で環境破壊を克服 サステナブルな国家へ歩み出す
しかし、コスタリカも環境破壊とまったく無縁だったわけではありません。15世紀以降、牧畜や木材需要の増加に伴って無計画な森林伐採が行われ、森林に覆われていたという国土は"はげ山"になっていきます。
「環境破壊の実状を憂慮したコスタリカ政府は、自然資源・エネルギー・鉱山省を設立し、農業省から国立公園局や森林局、野生生物局を移管。保全プログラムの統一を図るとともに、革新的な施策を実行していきました」。そう話すのは、コスタリカの太平洋沿いの小さな町、ノサラに住む環境・平和活動家の丹羽順子さん。人間と自然が共存できる暮らしを求めて世界を巡り歩いた結果、6年ほど前にコスタリカにたどり着いたといいます。
「コスタリカの環境政策のなかでも特筆すべきは、グアナカステ保全地域のプロジェクトです。生物多様性の世界的権威であるアメリカ人のダニエル・ジャンセン博士の主導により、消滅しかかっていた熱帯乾燥林の再生を目指しました。例えば、グアナカステ地域の森林資源管理を行う行政組織は、地元のオレンジジュースの製造会社にかけあい、ジュース製造プラントから出る搾りかすの処理や、オレンジ畑の害虫の駆除などのサービスを提供する見返りに、この会社から20年間にわたってサービス利用料を払ってもらうというビジネスモデルを作り上げました」と丹羽さん。捨てられるはずのオレンジの搾りカスを大地にまき続けたところ、5年足らずで森林が再生したといいます。このプロジェクトは公共部門と民間部門がお互いにWin-Winの関係になるよう、共同で環境配慮型の意思決定をした成功事例として世界でも注目されています。
1980年代半ばから始まった、こうした数々の取り組みの結果、森林の面積は大きく回復。復活した生物多様性は、世界中から多くの観光客を呼び込み、エコツーリズムが発展。自然保護とともに富をもたらすサステナブルな基幹産業としてコスタリカの経済を支えています。
モンテベルデ自然保護区の入口。
写真提供:辻丸純一
エコツーリズムでは、エコツアーのガイドを「インタープリター」と呼ぶ。単に解説するだけでなく、自然との仲立ちをして訪問者を啓発する能力を備えたガイドという意味合いを持つ。その役割は重要だ。
写真提供:辻丸純一
森のなかにある「スカイウォーク」と呼ばれる長い吊橋。
写真提供:辻丸純一
出典:外務省「豊かな自然と平和を愛する国 コスタリカ」
コスタリカ国家エネルギーコントロールセンター年次レポート2016(2017年3月22日発行)より