『「東京DEEP案内」が選ぶ 首都圏住みたくない街』

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 今年6月に発売された『「東京DEEP案内」が選ぶ 首都圏住みたくない街』(駒草出版)が、たった2カ月で4刷3万部を突破し、売れまくっている。著者である「東京DEEP案内」編集部がTwitter上で、「まさかの電車広告展開中です。世も末ですね」とつぶやいているが、失礼ながら、本当にこれほど世間に受け入れられるとは!

「東京DEEP案内」といえば、“街の不都合な部分”にあえて首を突っ込んで、あれこれ書き立てているアングラ臭漂う街歩きの人気サイト。その管理人である逢阪まさよし氏が、これまでの膨大すぎる情報を元に、「汚れ役」を買ってやろうではないか、と独断と偏見により、これまでは住みたい街ランキング上位に入っていた街を含め、「住みたくない街」をバンバンぶった切っている。

 サイト開設の10年目にして集大成的な1冊であり、絶対住みたくない街(駅)ランキングや沿線別の街の傾向と対策のほか、首都圏バラック建築鑑賞会、東京場末タウン散歩、首都圏ドヤ街訪問などの記事も掲載されている。

 この本の何がスゴイって、なんといっても、サイト同様、圧倒的すぎる情報量である。実際に街を隈なく歩いた感。「巷の本屋で売られている名の知れた有名大学卒の学者肌な方々が書かれた都市論・文化論・フィールドワーク、その他諸々の有難い“ご高説”が記された一流の書籍とはまるで別次元にある」と書いてあるが、まさにその通り。

 たとえば、住みたくない街の見分け方が、身近で現実的なのである。逢阪氏は、ヤンキー、品位に欠けた非常識人、自己中心的で粗暴な人間が大勢を占める地域を「DQN地域」と命名。

 そのDQN地域をどう見極めればいいかといえば、たとえば駅前。手っ取り早いのは、パチンコ屋の数だそうで、どの街でも、3~4軒くらいはあるのが普通だが、特に繁華街でもないのに、千代田線の町屋駅周辺のように7軒もあると、ちょっとアレな地域なのかな、と考えるのだとか。逆に言えば、原宿や目白のように一軒もなければ、地域住民が街の環境にかなりうるさいことが推測できるとも。

 また、駅前でよく見かける、ミスドやドトールコーヒーといった喫茶店などのチェーン店も、地域によっては喫煙席と禁煙席の配分が全然違うらしく、喫煙席の配分が高ければ、どうしてもDQN地域である可能性が高くなる。ほかにも、スーパーの種類、ゴミ収集所、自販機など、ここを見るべき、ということがいくつも記されている。

 そうか、こうやって街の概要をつかみ、ディープな街を掘り下げていくんだなという片鱗も見えるわけだが、逢阪氏の嗅覚は別格のように思える。その理由は、あとがきを読んで、わかった。自身の生い立ちについて触れており、大阪市内の市営住宅が建ち並ぶ低所得者層の非常に多い地域で育ち、子どもの頃に住んでいた団地では、高層棟から投身自殺は毎年恒例、ビール瓶で頭をかち割られて道端で大量に血を流しているオッサンを見たこともあり、中学校ではシンナー中毒者が常態化し、学級崩壊が日常の世界だったという。

 そんな逢阪氏は、世の中に何を伝えれば役に立つのかを考えたら「DQN地域には住むな、ろくな人間にならんぞ」と面白おかしく伝えるしかない、とちらりと深いメッセージ性ものぞかせている。

 首都圏の闇を知って、消去法で住みやすい街を探す――。お化け屋敷感覚でのぞいてみては?
(文=上浦未来)

●DEEP案内 http://tokyodeep.info/