会津鉄道AT-600/750型の製作(下)

 ローカル線に無性に乗りたくなること、ありますよね。



 ちなみに会津鉄道には今回製作している車両だけでなく、実にさまざまな怪しい個性的な気動車たちが在籍しています。
 写真はJR東から譲り受けたキハ40をコテコテに改造した展望車(?)で、模型で作ったらとても映えそうな見てくれをしていますが、東武線に入ってこないどころか走っているところを見たことがないのでイマイチ食指が動きませんね(笑)。

 会津線は首都圏と東北を結ぶルートとしてはもちろん、沿線にも湯野上温泉や塔の岪などの観光地・景勝地も多く、車両目当ての人もそうでない人もぜひ訪れていただきたい路線です。



 前回の続きです。仕上げ作業を進めましょう。
 いよいよみんな大好き表記類の時間。さくさく入れていきましょう。

 とは言え当然会津鉄道用のインレタなんて製品化されていないので、国鉄車用の適当なものから適宜拾って転写していきます。
 AT-600型は青字なので115系新潟車用、AT-750型は白字なので167系用を買ってみました。いずれもトレジャータウンの商品で、店頭で内容を見て決めましたが類似商品がいくつかあるので別にこれである必要はありません。最低限、車番に必要な数字と検査標記・エンド標記・ATS標記などがあればいいと思います。
 なお、ただし後者(167系用)に関してはアルファベットのAとTが含まれていて(編成番号用と思われます)、側面の車番の転写に使えるのでオススメです。

 AT-750型側面には、東北でよく見かける赤べこのキャラクター「あかべぇ」が2ヶ所ずつ貼り付けられています。よく目立つのでぜひアクセントに貼付したいところですが、模型工房たぶれっとからちょうどよく455系用のデカールが発売されていたので、これを流用することにしました。
 「あかべぇ」4個しか使わないのでだいぶもったいない気がしますが、自作するよりはよっぽど綺麗ですし……。



 車番は含まれる国鉄書体の数字を並べ替えて転写。
 AT-750型はAとTの文字がインレタに入っているのでそのまま転写できますが、AT-600型はそうはいかないので、苦肉の策として「1」と「(クハの)ハ」を使い1画ずつ転写して「AT」の字を表現しました。だいぶ無理矢理ですがじっくり見なければ平気かと^^;

 その他、検査標記やATS標記、細かいところではドアコック位置を示す▼印なども実車に従って転写していきます。
 すべて流用なので検査標記には「クモハ115」、ATS標記では「C」とか書いてあったりしますが、その辺はつついても仕方ないので雰囲気重視ということでひとつ。



 さて、この車両を製作する上で避けて通れないのが、車体各所につく会津鉄道のロゴマークです。

 適当なインレタやデカール類は市販されておらず、かと言って目立つので省略するわけにもいかないので、スーパーウルトラ重い腰を上げてデカールの自作にチャレンジしてみることにしました。
 ちなみにあらかじめ断っておきますが、普段私はパソコンに触れる機会は多いもののそのほとんどがネットサーフィンや肌色多めのノベルゲーム等なので描画ソフト等の扱いには不慣れなので、この手のデジタルモデリングに長けた方からすると意味不明なことをやっていると思います。しかしこれが私の限界なので、生温かく見守ってください……。

 一昔前まで自作デカールと言えばMDプリンタありきでしたが、最近(ってほどでもないですけど)は便利なものが売っているもので、家庭用インクジェットプリンタで印刷できる水転写シートが色々とリリースされています。
 今回用意したのはケイトレーディングから出ている「ミラクルデカール」で、自作デカール用紙としては非常に有名なものです。透明シートと白地シートの2種類が発売されていますが、転写場所によって使い分けますので2種類とも購入しました。大きさはA5サイズですがA4のものも出ています。

 ちなみに自作デカール用紙には、図柄をそのまま印刷して転写できるものと、図柄を反転して印刷したところに粘着材シートを貼り合わせて転写するものと大きく分けて2種類あり、「ミラクルデカール」は前者にあたります。
 後者は俗にタトゥシールとも呼ばれ扱い方がまったく異なり、店頭でよく見かけるガイアノーツの「おうちdeデカール」やエーワンの「デカールシール」は後者のタイプです。そのほか、未だにMDプリンタ専用のインクジェットプリンタではそもそも使えない用紙も売られていますので、説明をよく読んでから購入しましょう。

 写真の右に写っている水色の怪しいスプレーは武藤工業の「いろんな紙にインクが滲まない下地が作れるスプレー」(直球)で、ミラクルデカールを使用する際にはあった方がよいとのことだったので一緒に購入しました。店頭で見かけたことはありませんがAmazonで買えます。



 さっそく図柄を用意しましょう。

 ……まあ、この手のデカールは普通は実車の写真を加工して作るのでしょうし、実際GIMPというフリーソフトまで入れたのですが結局使いこなせず、会津鉄道の社紋が簡単な三角形と台形の組み合わせという意匠であるのをいいことに自分で描いてしまうことにしました。
 社紋のデータ自体は以前会津若松駅で撮影した写真があったので、三角形と台形の辺や角の大きさを割り出し、それをもとに適当にペイント(私が唯一使える描画ソフト)で作図。社紋の下に入るAIZUの文字は似たようなフォントで代用しました。どうせ2mm強というサイズなのでよく見えませんから適当です。

 繰り返しになりますが、少しでも知識と技術のある方はまっとうに実車写真から作った方がいいと思います。



 さて、デカール作成が手軽になったのは良いのですが、インクジェットプリンタの宿命として「白が印刷できない」という問題は避けて通れない壁として立ちはだかっています。
 それはこの会津鉄道でも例外ではなく、AT-600型の側面とAT-750型の前面社紋は濃色部分に白抜きで「AIZU」の文字が入っており、それがインクジェットプリンタでは出力することができません。

 色々考えた結果、順当に「AIZU」の白字の周囲の車体色(グレーと赤)の部分まで一体でデカールとして作成することにしました。いかにもリアルではありませんがMDプリンタを買う以外にこれしか方法がないので致し方ありません。
 デカールに印刷するグレーと赤は車体に塗った色と同じにする必要がありますので、車体をスキャナーにかけて色を抽出、トーンを調整してそのまま使用しました。要は手抜きです。



 いよいよ印刷です。
 描いた図柄はwordに適当に並べサイズを調整して保存しました。実際貼るのはそれぞれ2つずつですが、これだけあれば失敗しても平気でしょう。
 ちなみにwordで印刷する際は貼り付けた画像データを勝手に圧縮する設定にデフォルトでなっているので、これの設定を変更して圧縮しないようにしておくのを忘れずに。

 いちおう普通紙に試し刷りしてチェックしてから、いよいよ本番。印刷前には例の「いろんな紙にry」スプレーを数回吹きつけておきました。
 プリンタ側の設定が変更できるようであれば、紙の種類は「写真紙」を選択しておきましょう(我が家はキヤノン製プリンタですが、「光沢ゴールド」に設定しました)。デカール用紙はペタペタしていて詰まりやすいので、必ず1枚ずつ挿入しましょう。

 ……というわけで刷り上がったものがこちら。
 AT-600型の前面社紋は白字の部分がありませんので透明デカール用紙に、AT-600型側面とAT-750型前面の社紋はAIZUの文字が白なので車体色の縁取りをつけた状態で白地デカール用紙に、それぞれ印刷しました。
 まあ画質とかはあまり期待していませんでしたが、かろうじて読めますねという感じ。透明用紙の方に印刷したほうはそこそこ綺麗なので、どちらかと言うとやむを得ずつけた車体色の縁取りが悪さをしているようです。まあ仕方ない。



 印刷したデカール用紙は数時間乾燥させたあと、インクを固着させるためクリアを吹きます。

 不要な段ボールなどに用紙を貼り付け(こうしないとクリアが乾燥する際に紙が縮んでクルクルに丸まってしまいます)、適当な光沢クリアをエアブラシで吹きつけました。
 ポイントとしては濃いめに溶いて少しずつ重ね吹きすること(一度に大量に吹くとシンナーでインクが溶けます)と、ムラが出ないように満遍なく吹くことでしょうか。特に吹きムラがあると、転写時に水に漬けたときインクの流出やデカールの破れの原因になるようです。



 クリアを吹いたデカールは一晩乾燥させ、いよいよボディに転写します。
 基本的には市販のデカールと同じように扱えますが、クリアを吹いたとは言えいかんせんインクが流れやすいので、ほんの一瞬だけ水に漬け、糊が溶けるのをしばらく待つようにするのがポイントでしょうか。
 転写したいところにはあらかじめマークセッターを少量塗布しておき、滑らせるようにして所定の位置へフィルムを置きます。ある程度はずらせますがフィルムが伸びやすいので、位置決めは速やかに。ちなみにフィルムがグズグズになってしまうので、マークソフター(軟化剤)は使えません。

 転写し終えたのが写真の姿です。
 ベースが透明のAT-600型前面の社紋は良い感じですが、それ以外はなんとも微妙な感じ。まあ「社紋がついてますよ!」という主張はできているのでまあこれで……。

 今まで触れていませんでしたが、前面の行先表示はエナメルのフラットブラックを流し込んで黒く塗りつぶしたあと、GMの東武8000系用ステッカーを貼り付けてあります。と言っても使えそうなコマは「東武日光」「鬼怒川温泉」「ワンマン(緑文字)」くらいしかありませんので、技術と余力のある方はここも自作した方がよさそうです。



 表記類と色差しなどがすべて済んだら、車体全体に半ツヤクリアを吹き表面保護。
 最後に屋根を塗りますが、TOMIX製品にしては珍しくボディと屋根が一体成型なので、しかたなくマスキング(写真はマスキングを剥がしている最中のもので、もちろんボディまですべてカバーしましょう)。
 おでこの車体色と屋根色との塗り分け線は樽見鉄道と異なりグッと後方へ下がって、JR無線アンテナとベンチレータの間になります。同型車とはいえここの塗り分け線は会社や時代によって異なるらしく、屋根が別体じゃないのはそんな事情なのかなと思ったり。

 マスキング後は目留めとしてクリアを再度吹き、本塗装として弊社標準品クレオスNo.317「グレーFS36231」を吹きました。クセのない色味とほどよいツヤ消し感が使いやすい塗料です。



 合わせて屋上機器も塗装。製品状態では未塗装ですが、プラの質感がいかにも安っぽいのでぜひ塗装したいところです。

 ただしベンチレータやアンテナ類がどうやら軟プラ素材と見え、通常の塗料が載らなそうな感じに思われたので、代用として当ブログではもはやおなじみのいさみやプライマーを使用してみました。
 灰色のものをそのまま吹いてみましたがちょっと明るすぎたようです。塗装自体は剥がれもなく良好。



 前面手すりを別体化したので、色気出してワイパーも植えてみます。
 縦に長いワイパーを探した結果、代用品としてBONAの京成用を買ってみました。BONAのワイパーは使いやすいので個人的に非常に好みです。

 折り曲げ線が入っているので根元から折り曲げ切断し、脱脂ののち、いさみやプライマーの黒で塗装しておきました。



 ワイパーを別体化するにあたって、ガラスにモールドされているワイパーの彫刻を削り取っておくというのもまたお決まりの作業です。非常にめんどくさいのですが、やらないわけにはいかないので手早く……。

 ノミである程度モールドをそぎ落としてから、徐々に目を細かくしながらペーパーをかけて平滑にしていきます。私の場合は600番→1000番→2000番→4000番→6000番→10000番という感じです。4000番以降は今回導入した「神ヤス」を使用しましたが、ガラスのような特に平滑を求められる作業にはうってつけでした。
 ペーパーの後はタミヤのコンパウンド(模型用研磨剤)を綿棒に少量つけて磨き出します。写真のように最近ではさまざまな形の模型用綿棒が売られているので、先の尖ったタイプなどがあるとやりやすいでしょう。コンパウンドは「細目」と「仕上げ目」の2段階をいつも使用しています。
 なお、この車両はガラスの周囲に押さえ材(?)がモールドされているので、作業の際はこれを傷つけないよう丁寧に。ペーパーがけをしているうちに印刷が消えてしまうので、最後に油性ペンでなぞって復活させておきます。



 最後の仕上げに、会津若松方の前面につく貫通幌を設置します。
 ベースとしたTOMIX製品には付属しないので別途用意する必要がありますが、せっかくなので奮発してトレジャータウン製品(2個1080円)を購入。お値段は張りますが精密なロスト製のパーツで、きちんと塗装してやると非常にカッコイイ逸品です。

 気動車用というざっくりした商品名ですが、国鉄~JR型気動車はだいたい同じような形状の幌を使用していて、この会津鉄道の車両も同様なので流用しました。
 ゲートを切除して整形、ゆがみを取ってから脱脂し塗装します。ただし幌の前頭部は黒いので(緩衝材?)忘れず再現しましょう。塗装に使用したのは例によっていさみやプライマーで、最初に上を向けて黒プライマーを吹き、裏返してマスキングテープに貼り付けグレープライマーを吹くことで簡単に塗り分けておきました。グレープライマーは黒と白を自家調色したものです。
 このパーツ、左右計4ヶ所についている握り棒が驚くべきことに立体的に成型されていて抜けているので、塗装後にシルバーを差しておきます。パーツに車体のクオリティが負けている気がしないでもない^^;


 ではでは、幌を装着したら外しておいたガラスや下回りを丁寧に組み立てて……、



 完成です!
 長い道のりでした。上下2枚の画像だけ大きめのサイズでupしてありますので、本文中イミフなところがございましたらこの写真でなんとなくお察しください。

 ちなみにAT-752号車(赤い方)にいつの間にかヘッドマークがついていますが、幌のない側(浅草方)の前面がちょっと寂しかったのでアクセントに取付けてみました。モノ自体はマイクロエースの元名鉄キハ8500型に付属しているステッカーで、透明プラ板に貼り付けてから切り抜き、マスキングテープを輪っかにしたやつでくっつけてあるだけです。
 実車ではどういう基準で取り付けられるのか不明な(そもそも最近はあまり見ない気がする)この「AIZUマウントエクスプレス」ヘッドマークですが、かなり大きいので目立ってくれていますね。



 若松方のお顔を少しアップで。

 トレジャーの幌の設置イメージはこんな感じ。明らかに車体の出来が釣り合っておらずトレジャータウン様には申し訳ない次第。
 ちなみに幌は繊細ゆえ接着面積が取れず、なかなかうまく設置できずに手を焼きました。ゴム系ボンドとゼリー状瞬着をこねたものを少量つけて無理矢理留めてありますが、強度面は不安です。


 元はと言えば、6050系の快速で出掛けた(当時はまだ無くなるという発表はありませんでしたけど……)会津方面旅行の際に乗車したのがきっかけで模型が欲しくなり製作を決めた車両でしたが、三セク特有の細かい塗装に苦労し何度も挫折した模型でもあります。最初は帯色から先に塗ったりしたっけな。
 そんな苦労もさることながら、デカールの自作や、そもそも慣れないローカル気動車の製作ということもあり、なかなか作業中は新鮮さを感じながら手を進めることができました。思い返してみれば久しぶりに模型製作の楽しさを感じられたような気がします。

 新藤原以南の東武線に入ってくるのはこのAT-600/650型とAT-700/750型だけですし、何より作るのがものすごく大変だったので(笑)これ以上の増産の予定はありませんが、会津鉄道には前述の展望車のように魅力的な車両がまだまだたくさんいます。
 たまには大手私鉄を離れて、ご当地ローカル鉄道にどっぷり浸ってみるのもいいかもしれません。もう一度会津行きたい……!
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