ここ数年、欧米を中心にグルテン・フリーの食事の人気が爆発的に伸びました。そして、日本でもグルテンを抜くことで健康になれるといったコマーシャルや商品や健康指導が行われるようになりました。
そもそも、グルテンは、シリアック病をもっている人にとっては、忌避食品です。
シリアック病については、『シリアック病・グルテン不耐症ってご存じですか?』をご覧ください。
シリアック病をもっていない人は、グルテンを食べたところで、大腸炎を起こしたり、様々な体調不良を起こすことはないと、医学的には言われています。
でも、シリアック病ではないものの、グルテンに対する耐性がない/過敏症だとする人達が爆発的に増加し、また、「グルテンを抜くことで体調が良い」と主張する人達が増加していることも事実です。
こうした主張が本当に本物なのか、単に「そう思い込んでいるだけ」の現象なのかを調べた数少ない研究があります。
ほんと少ないんです。
少ない理由として、研究者は、
「シリアック病でないグルテン不耐症/過敏症(NCGS)の可能性のある人のほとんどは、自己診断で、グルテン・フリーの食事法を実践しており、医療機関で正式な診断を受けようとする人がほとんどいない」
ことを挙げています。
グルテン・フリーは思い込み現象?
ひとつは、2011年にグルテン不耐症/過敏症をもっていると主張する34人を対象に行われた調査です。
彼等に、2週間グルテン・フリーの食事を提供します。
その後、パンとマフィンの形状で、グルテン・フリーかグルテン入りかどちらかの食事を提供します。具体的には、大半の参加者には、グルテン・フリーの食事を出し、残りの少数の参加者には、グルテン入りの食事を出します。
被験者も食事を配る人も、誰にどちらが配られているか知りません。(もちろん研究者は分かっています)
パンとマフィンという形状から「グルテンが入っている」と思い込むことは簡単です。
すると、ほとんどの人が1週間後くらいから体調を崩し始めたと報告しています。
つまり、グルテンが入っていなくても、入っていると思い込むだけで、体調が悪化した人がほとんどだったということです。この研究者は、「グルテンを食べると体調が悪くなる」と言っている人のほとんどは、「思い込み」の可能性があると述べています。
グルテン・フリーで体調が良くなったと主張する人の3分の2は思い込み
もうひとつの調査は、2012年イタリアで、今度は、920人のシリアック病ではないグルテン不耐症/過敏症(NCGS)の人達を対象に行われました。
この調査では、小麦粉かグルテン・フリーの粉のどちらかが入っているカプセルが使われました。カプセルなので、その形状から「思い込む」ことはありません。
今回も被験者とカプセルを配る人の両方に、誰にどちらが渡されているのかを知らせずに行われました。
結果、3分の2の被験者が、
- グルテン・フリーを渡されているのに症状が悪化したり、
- 小麦粉を渡されているのに、症状が改善したそうです。
つまり、3分の2の人達は、グルテン不耐症/過敏症だと思い込んでいるだけで、真のグルテン不耐症/過敏症ではなかったことになります。あるいは、グルテンフリーで体調が改善したように思い込んでいるだけで、何の体調変化も本当は起きていないことになります。
しかし残りの3分の1については、実際に、グルテン・フリーで改善し、小麦粉で悪化したことから、シリアック病ではない小麦過敏症(NCWS)が存在する可能性を示したことになると研究者は述べています。
ここで示されたのは、小麦過敏症の存在であって、グルテン不耐症/過敏症ではないことに注意が必要です。
小麦過敏症
過敏性大腸症候群(IBS)を伴う、シリアック病ではない小麦過敏症(NCWS)の人達を、
- 小麦にだけ反応するというグループと、
- 他の食物アレルギーももっているというグループに分け、
・ 過敏性大腸症候群(IBS)の患者
・ シリアック病の患者
それぞれの血液成分などと比較した研究があります。
小麦過敏症の臨床的特徴
- 抗グリアジン抗体-IgA&IgGが通常よりも多い(遅延型アレルギーの特徴)
- 血球計算において好塩基球の活性が通常よりも高い(感染症、アレルギー、リュウマチ、悪性腫瘍、呼吸疾患、アトピーなどの特徴)
- 組織学的には、小麦過敏症の患者の十二指腸と大腸の粘膜には、好酸球浸潤が見られる
小麦だけに反応する小麦過敏症の人の臨床的特徴は、シリアック病患者に近く、
他の食物アレルギーももっている小麦過敏症の人の臨床的特徴は、小麦アレルギー患者に近い
とのことです。
これは、グルテンという小麦の成分のみに特化したものではありませんが、
「グルテンを抜くと体調が良い」あるいは、グルテン不耐症/過敏症だと主張する人のうち、他にもアレルギーをもっている場合には、小麦アレルギーを疑った方が良いかもしれませんね。遅延型アレルギーの可能性があるということですから、アナフィラキシーで知られているような即時型のアレルギーではないので、アレルギーだという病識がないだけなのかもしれません。
遅延型(隠れ)アレルギー: アレルギー反応は即座には現れません。数時間後だったり、アレルゲンの量がある程度を超えるまで、症状があらわれなかったりします。例えば、パン2個までは大丈夫だけど、それ以上食べると症状が現れてくるなど。
個人的な見解ですが、
グルテン不耐症/過敏症(NCGS)は、本当に存在するのだと思います。
ただ、グルテン・フリーで体調が改善したと主張する人達のほとんどは、「思い込み」だということも本当なのだと思います。
もちろん、当人が「体調がよくなった」と感じるのであれば、それは当人にとっての真実です。
でも、「思い込み」に振り回されて、神経質なほどにグルテンを避けるような生活をするのは、どうかとも思います。
グルテン・フリーで体調が改善したと感じる人は、もしかしたら、本当にシリアック病やグルテン不耐症/過敏症なのかもしれませんし、遅延型の小麦アレルギーなのかもしれませんから、自己判断せずに医療機関でちゃんと診断してもらうことも大切なように思います。
また、「グルテン・フリーしている私って素敵/カッコいい/セレブっぽい」というような、アイデンティティ迷走から「グルテンを抜くと体調が良い」と主張しているような場合には、マイルドな摂食障害の可能性もあります。
食事は、私達のためにあるべきです。食事に振り回されるのでは、本末転倒です。
グルテンとの上手な付き合い方については、『今更ですが、グルテン極悪説をどう思いますか?』をご覧ください。健康な人にとっては、全てのグルテンが悪いわけではないんですよ。避けるべきもの、大丈夫なものがあります。
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参考文献:
- “Non-Celiac Gluten Sensitivity: The New Frontier of Gluten Related Disorders”, Carlo Catassi et al., Nutrients. 2013 Oct; 5(10): 3839–3853., doi: 10.3390/nu5103839, PMCID: PMC3820047
- “Gluten causes gastrointestinal symptoms in subjects without celiac disease: a double-blind randomized placebo-controlled trial“, Biesiekierski JR1, Newnham ED, Irving PM, Barrett JS, Haines M, Doecke JD, Shepherd SJ, Muir JG, Gibson PR, Am J Gastroenterol. 2011 Mar;106(3):508-14; quiz 515. doi: 10.1038/ajg.2010.487. Epub 2011 Jan 11.
- “Non-celiac wheat sensitivity diagnosed by double-blind placebo-controlled challenge: exploring a new clinical entity”, Carroccio A, Mansueto P, Iacono G, Soresi M, D’Alcamo A, Cavataio F, Brusca I, Florena AM, Ambrosiano G, Seidita A, Pirrone G, Rini GB, Am J Gastroenterol. 2012 Dec;107(12):1898-906; quiz 1907. doi: 10.1038/ajg.2012.236. Epub 2012 Jul 24.