定年退職の前に必ずチェックしたい老後の生活に役に立つ全知識まとめ

定年退職を迎えるといよいよ老後の生活が始まりますが、ただ何もせずに定年を迎えるのか。しっかりと準備を行い定年を迎るのか。では、その後の老後の生活が大きく変わってきます。

そこで、今回は来たる老後の生活に備え定年退職時に必要な知識をご紹介したいと思います。

定年退職前に訪れる役職定年に関しては、役職定年の年齢は?年収はいくら下がる?制度を徹底解説をご参照ください。

定年退職の年齢は何歳が平均?

定年退職の年齢は、法律上どのように定められているのか?まずは労働基準法を確認すると、大きく2つの方法によって定年退職の年齢を決めることが義務付けられています。

項目 労働基準法に則る定年退職の決まり
1
  • 定年退職を65歳に設定する(60歳以下を定年退職の年齢にすることは不可)
2   
  • 定年を60歳とする場合は高齢者雇用安定法に則り、以下3つの方法を選択する必要がある
(2-1) 定年の年齢を65歳まで引き上げる
(2-2) 継続雇用制度の導入により65歳まで働ける環境を用意する
(2-3) 定年制度を廃止する

公務員の定年退職の年齢は60歳

会社員の方は労働基準法により厳格に退職制度の定めがありますが、公務員も同様に国家公務員法、地方公務員法でそれぞれ60歳を原則定年退職とすると定めがあります。

ただ、公務員の場合は職種によって定年退職の年齢が異なるケースもありますので内閣人事局より例をみてみましょう。

定年退職の年齢 職務
60歳で定年退職となる公務員職員
  • 事務系職員
  • 防衛省事務次官
  • 裁判所職員
  • 国会議員
62歳で定年退職となる公務員職員
  • 事務次官等
63歳で定年退職となる公務員職員
  • 守衛、巡視などの監視、警備業務
  • 用務員、労務作業などの庁務、労務
  • 研究所、試験所などの副所長
  • 在外公館職員
  • 宮内庁職員の式部官
65歳で定年退職となる公務員職員
  • 研究所、試験所の所長
  • 病院、刑務所、検疫所の医師
  • 高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所の裁判官
70歳で定年退職となる公務員職員
  • 最高裁判所及び簡易裁判所の裁判官
53歳から62歳で定年退職となる公務員職種
  • 自衛官(階級により異なる)

公務員も再任用制度により雇用延長が可能

公務員の多くが60歳で定年退職をしてしまうことから「再任用制度」を設定し60歳から65歳の無収入期間を無くす配慮がなされています。人事院の通達を確認すると対象になる方は、「定年退職を迎える方」に加え「25年以上勤務し公務員を一度退職し民間企業などで定年した方も公務員を退職してから5年以内」であれば再任用制度を活用できるようです。

任期は1年単位で更新が行われ、制度の活用や更新は本人が希望する場合のみ適用がされます。

下記の図は赤枠が無年金期間ですが、この赤枠部分を「再任用制度」を活用し無収入期間を無くすということを図解したものになります。人によって、1年だけ再任用制度を活用し、その後は部分年金を受給することで老後資金が足りる方や65歳まで再任用制度活用する方などケーススタディ別に理解できる図となっています。

定年退職の年齢推移

ここまで民間企業、公務員の定年退職における法律上の決まりをご紹介しましたが、実際に民間企業が何歳で定年にしているのか厚生労働省の「就労条件総合調査」より推移を確認してみましょう。

 年 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 66歳以上
平成28年 80.70% 0.50% 1.00% 1.30% 0.40% 15.20% 1.00%
平成27年 80.50% 0.30% 1.30% 0.70% 0.30% 16.10% 0.80%
平成26年 81.80% 0.80% 1.00% 0.70% 0.10% 14.50% 1.10%
平成25年 83.00% 0.30% 1.20% 0.90% 0.60% 12.50% 1.50%
平成24年 82.70% 0.20% 1.10% 0.90% 0.50% 13.60% 1.00%
平成23年 82.20% 0.50% 1.10% 1.40% 0.70% 13.10% 0.90%
平成22年 82.70% 0.50% 1.10% 1.90% 0.50% 12.30% 1.00%

緩やかに65歳で定年退職の年齢を設定する企業が増える中、やはり8割以上は60歳を定年退職としている企業が多いようです。そのため、「勤務延長制度」や「再雇用制度」を導入する企業が多いと想定されますが、平成28年度では94.1%の企業が勤務延長や再雇用制度を導入しています。

内訳としては70.5%の企業が再雇用制度を導入しており、次いで勤務延長と再雇用の併用が12.9%、勤務延長のみが10.7%という内訳になっています。

制度の有無
制度導入企業割合 94.10%
(1) 勤務延長制度のみ 10.70%
(2) 再雇用制度のみ 70.50%
(3) 両制度併用 12.90%
制度がない 5.90%

定年退職が引き上げられた背景

定年退職が引き上げられた背景にとして大きな要因は、「年金支給年齢が65歳に引き上げられた」という点になります。

やはり5年間も無収入期間が出来てしまうと多くの方は老後貧乏や老後破産をしてしまう可能性が高まります。その配慮として高齢者再雇用制度の導入や定年退職の年齢引き上げが実施されているのです。

そのため、再雇用を申し出た場合、企業はその要望を拒否することができない仕組みとなっています。そこで、定年後の再雇用制度について詳細をお伝えしたいと思います。

定年退職後の再雇用制度

定年退職後の再雇用制度を活用する場合は、基本的には一度定年退職し、その後再度雇用をする。という手続きになります。会社から案内が来ることが一般的ですが、該当する方は直属の上長や人事への相談を行うようにしましょう。その際、人事などから書類を貰いますので捺印し提出することで手続きは進行します。

再雇用制度を活用した場合の退職金支給タイミング

再雇用制度を活用する場合、一度退職をすることになりますが退職金はいつ貰えるのか?と疑問に思ってしまいます。原則として60歳など定年退職した時に支払いがされるのが一般的です。

就業規則により多少の変動があると思いますので一度確認をするようにしましょう。

また、再雇用期間後に65歳まで働き本当の意味で最終退職する場合は、60歳から65歳までの期間で退職所得を算出し支給されるケースもあります。これも就業規則で確認することをおすすめします。

定年退職後の再雇用制度では賃金が5割から7割に減少

再雇用制度の1つの問題に賃金の低下があります。少し古いデータですが、東京都産業労働局の「平成24年度  高年齢者の継続雇用に関する実態調査」を参照すると再雇用制度では賃金を5割から6割程度に削減する企業が23.3%、6割から7割が22.6%、7割から8割が15.3%と総じて賃金が下がる傾向にあります。

賃金の削減割合 実施率
5割から6割程度 23.30%
6割から7割程度 22.60%
7割から8割程度 15.30%

企業も再雇用制度により高齢者をどのように活用するのか頭を悩ませているようで、同じく東京都産業労働局の「平成24年度  高年齢者の継続雇用に関する実態調査」を参照すると以下のような懸念事項があるようです。

懸念事項 割合
能力や体力の低下に個人差が大きくリスクが伴う 48.20%
若者の採用を抑制せざるを得ない 36.40%
処遇の決定が難しい 30.80%
管理職社員の扱いが難しい 28.60%

賃金の減少は高齢者雇用継続給付金を活用するべし

とは言え、再雇用制度により収入が半分程度まで下がってしまうようでは死活問題です。

まだ子供が大学生であったり、住宅ローンの支払いが残っている方など生活に余裕がなく老後資金の準備ができない状態になってしまいます。そこで再雇用による賃金減少の対策として「高齢者雇用給付金」を活用することをおすすめします。

高齢者雇用給付金とは、再雇用制度により下がった年収を給付金というかたちで援助がされる制度ですのでぜひ活用をしてください。詳しくは高齢者給付金で必ず抑えたい3つの制度|消費税・雇用・年金問題の対策にをご参照いただき、適用される条件や申請方法などを確認して頂ければと思います。

再雇用制度で知っておきたい社会保険料(健康保険と厚生年金)の支払い

再雇用制度で大きく賃金が下がる中で、年収に連動する社会保険料(健康保険と厚生年金)についても解説したいと思います。社会保険料は、通常4月から6月の間で支給された給与をもとに「標準報酬月額」が決まり9月の給与より適用がされます。

そのため、基本的には3ヶ月の平均給与から算出し4ヶ月目から変更された社会保険料の支払いが行われることになります。

ただ、これでは、4月から大幅に賃金が下がった再雇用制度の活用者は生活が非常に厳しくなってしまいますので、定年退職後の再雇用の場合だけ「同月から支払額を変更することが可能」になっています。そのため、社会保険料の負担が急激に重たくなることはないのでご安心頂ければと思います。

再雇用制度1年目は住民税の負担が大きい

住民税は、1月1日現在の住所によって支払い先の市町村が決まり1月から12月までの所得をベースに算出がなされます。

そして、支払いはその年の6月から翌年の5月まで支払いが発生します。従って、再雇用制度で年収が下がった場合も前年の高い年収での住民税の支払いが発生しますので負担が大きくなってしまうということです。

退職金が支給される方は一部を住民税の支払いに充てることができますが、退職金が支給されない方は住民税用に貯金を用意しておいた方が良いでしょう。

定年退職後でも雇用保険(失業保険)が受け取れる

実は定年退職をした方でも雇用保険(失業保険)を受け取ることができるのです。雇用保険(失業保険)の原理原則は、継続的に働く意思があることが条件になりますので、詳しく適用される条件を確認してみましょう。

定年退職後に雇用保険(失業保険)を受け取るための条件

  • 定年退職前に雇用保険に最低6ヶ月以上加入している方
  • 65歳未満の方
  • 健康であり就労可能な状態である方
  • 喫緊で働く意思がある方
  • 転職活動を行なってはいるが再就職先が決まらない方

定年退職後の雇用保険(失業保険)給付期間

基本的には健康で働く意思がある方であれば雇用保険(失業保険)の受け取りが可能になりますが、給付期間は「自己都合」か「事業主都合」かによって大きく変動します。定年退職の場合は、原則的に「自己都合による退職」として扱いがされます。

例外としては、先ほどお伝えした高齢者再雇用制度を導入していない企業の場合は、継続雇用の意思を伝えか、伝えないかの有無に問わず「事業主都合の退職」として扱いがされます。この点を踏まえてどのくらいの期間受給することができるのかハローワークの情報を参照してみましょう。

自己都合で定年退職した場合の雇用保険(失業保険)の給付期間

期間 1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
全年齢 90日 120日 150日

会社都合で定年退職した場合の雇用保険(失業保険)の給付期間

期間 1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
60歳以上65歳未満 90日 150日 180日 210日 240日

定年退職後の雇用保険(失業保険)給付金額の計算式

雇用保険(失業保険)は定年退職する直近6ヶ月間の平均給与の5割から8割程度が給付額となります。給付額を決める基準となるのが「賃金日額」となり、「退職前の6カ月間の給与÷180日」によって算出が可能になります。

また、残業は上記の給与に含めますが、賞与は含まれません。この「賃金日額」に年齢などによって変動があるものの44%〜81%程度を掛けた金額が給付額になります。年収が高いほど掛け率が低く、年齢が低いほど掛け率が高くなる仕組みです。

雇用保険(失業保険)の給付期間中は年金の受給ができない

雇用保険(失業保険)は働く意思のある方の生活を支える制度であることに対して年金は働く意思のない高齢者の生活を支えるための制度であることから性質上真逆の制度とも言えます。そのため、雇用保険(失業保険)の給付を受ける場合は年金を受給することができないという点を覚えておきましょう。

高年齢求職者給付の一時金は年金と合わせて受給可能

一方で、高年齢求職者給付金は年金と併用して受給ができるので解説をしたいと思います。

高年齢求職者給付とは、65歳までに雇用されていた職場で65歳を超えた日以降も引き続き雇用され、その後離職した方に支給される一時金のことを指しています。重要なのは65歳を超えた段階で離職するという点です。

支給額は離職前の6ヶ月間で支払いがされた賃金を180日で割った金額に係数と以下の日数を掛け合わせて算出を行います。高年齢求職者給付で得られる収入に年金収入を計算すると老後資金がさらに潤うでしょう。

平均的な年金支給額を知りたい方は、「2017年最新|年金支給額の平均は国民年金5.5万円・厚生年金14.7万円」をご参照ください。

被保険者期間 高年齢求職者給付金の額
1年以上支払いをしている方 基本手当日額の50日分
1年未満しか支払いをしていない方 基本手当日額の30日分

まとめ

定年退職の前に必ずチェックしたい老後の生活に役に立つ情報をお伝えしました。年金支給年齢の引き上げなど高齢者の生活を苦しめる法改正が続いていますが、給付金制度や再雇用制度など環境整備も進んでいますので定年後も元気に健康的に暮らすためにも積極的に制度を活用するようし充実した生活を送りましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

老後資金の教科書

老後資金の教科書は老後の生活をより豊かにするために、金融や老後に関する法改正などを中心に解説記事を掲載しています。 リバースモーゲージ、介護保険問題、年金カット法案、高額医療費の自己負担の増加など難しい制度を分かりやすくご紹介します。