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買い物にQRコード なぜ拡大?

クレジットカードに電子マネー。主要国の中では特異なほど“現金文化”が根強いといわれる日本でも、さまざまな支払い手段が広がっています。そこに今、新たな主役として躍り出ようとしているのが「QRコード」を利用した支払いサービスです。20年以上も前に開発された技術である「QRコード」が、なぜ脚光を浴びているのでしょうか。(経済部記者 木下健)

QRコード決済拡大中!

IT各社が販売に力を入れるQRコードによる支払い。皆さんは利用した経験があるでしょうか。利用者は自分のスマートフォンに専用のアプリを取り込んで、クレジットカードの情報を登録します。これで準備完了。あとは、買い物などをした際に、店から提示されたQRコードをスマホのカメラで撮影すれば、支払いができるという仕組みです。

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この分野で先行しているITベンチャーの「Origami」は、全国のおよそ1500社にサービスを提供しています。このうち、全国38店舗に導入している大手雑貨店の「ロフト」によりますと、海外からの観光客の利用も多いということです。 クレジットカードと違ってサインが不要なので、さらに利用が広がれば、会計時間を短縮する効果も期待できるといいます。

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東京の大手タクシー会社「日本交通」は、QRコードで運賃を支払えるサービスを導入。釣り銭の受け渡しもなく、乗客と運転手の双方から好評だといいます。
一方、ITベンチャーの「エニーペイ」は、8月から神奈川県逗子市の海水浴場にある海の家40店舗でサービスを開始。ビーチパラソルをレンタルしたり、カレーライスやビールを買ったりすることができます。水着で過ごす海辺では、手荷物を少しでも減らしたいという需要に目をつけました。

広がるQRコードの支払いサービス。「NTTドコモ」や、中国の電子決済サービス大手「アリペイ」も、日本での本格的なサービス開始を検討しています。

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誕生は23年前 日本で開発

この「QRコード」、実は今から23年前に日本で開発されました。自動車部品大手の「デンソー」の開発部門(現在の「デンソーウェーブ」)が、工場で部品の在庫を管理するために作った技術です。

その強みは大きく2つ。まずは、名前の由来になった「QuickResponse(クイックレスポンス)」、つまり高速で読み取りができることです。 2つ目は大容量。小さな正方形の中に並んだモザイク模様で、アルファベットや数字だけでなく、かなや漢字も含む7000字を超える大量の情報を登録できます。

特許の権利は会社が持っていますが、行使しないことを明言。広く開放したことで、世界中に広がっていきました。携帯電話の電話帳登録やアドレス交換から、インターネットのサイトへのアクセスの簡略化、航空券やコンサートのチケットにも使われています。
三重県志摩市では、はいかいする認知症の患者を発見するために、高齢者のニックネームや持病などの情報を登録したシールを作成し、家族に配布しています。
多くの外国人観光客が訪れる東京・浅草では、自動販売機に書かれたQRコードをスマホで読み取ると、使い方が表示されるサービスもあります。

なぜ拡大? 電子マネーとの違いは?

スマホでの支払いといえば、すでに「Suica」や「Edy」などに代表される電子マネーが普及しています。では、なぜここに来てQRコードが広がりはじめているのでしょうか。

QRコードの有利な点を探ってみると、大きく3点あげられそうです。
まず、利用者にとっては、電子マネーと違って スマートフォンの機種に制限がないこと。カメラさえついていれば利用が可能です。
次に、店側にとっては、導入の際にかかる初期費用を抑えられること。電子決済を導入しようとしても、電子マネーの場合は、専用の装置が必要となります。これに対し、QRコードはスマホやタブレットなどがあればよく、初期費用がかからないケースも多くあります。
さらに、アプリを通じて利用するQRコードの場合、店から顧客へのさまざまなアプローチが可能です。メッセージの送付や優待キャンペーンが手軽にできるとして、IT各社はサービスの売りとしています。

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Origamiの康井義貴社長は「多くの店は、ポイントサービスや会員カードの代わりに、誰もが持つスマホで顧客とつながりたいというニーズが強い。客が店を出たあとに、次回はこんなクーポンを使ってくださいとか、催し物に来てくださいとか、デジタルなコミュニケーションをとることができる」とQRコードの強みを売り込みます。

海外で先行 迫られる安全対策

日本で生まれたQRコードを支払いに利用するサービス。中国やアメリカを中心に海外では普及が進んでいます。

特に中国では偽札の被害があとを絶たず、現金より電子決済のほうが安全だとして、店側が導入に積極的です。中国のネット通販大手「アリババ」のグループが運営する「アリペイ」は、登録者が5億人に上るということです。

ただ、普及に伴って問題も表面化しています。中国では7月、店に掲示していた支払い用のQRコードを別のものと改ざんし、売上金をだまし取ったとして男女3人が警察に逮捕される事件がありました。

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QRコードが改ざんされても見た目で気付くことは難しく、ほかの複数の店でも改ざんが確認されたということです。こうした問題が相次げば、普及の妨げにもなりかねません。

このため、日本のIT各社は、支払いのたびに一定の時間しか使えないQRコードを自動で作成したり、指紋認証を求めたりする独自の機能を開発して、安全性の向上に努めています。

キャッシュレス 後押しなるか

日銀が去年、全国の個人を対象に行った調査では、スマホなどのモバイル端末を使った支払いサービスを利用したことがあると回答した人は、わずか6%にとどまりました。日本の「現金文化」がいかに根強いかが改めて明確になりました。

日本で生まれたQRコードが、四半世紀の時を経て、日本社会のキャッシュレス化を大きく後押しする存在となるのか。私たちの暮らしや店の姿をどう変えていくのか。今後も取材を続けていきたいと思います。

★★★名前★★★
経済部記者
木下健
平成20年入局 さいたま局
山口局岩国報道室などを経て
現在、情報通信業界を担当

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