2017年08月25日
【脳科学】『脳にいいこと 悪いこと大全』柿木隆介
脳にいいこと 悪いこと大全
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、先日の「未読本・気になる本」の記事でも反応の良かった「脳科学本」。著者の柿木隆介さんは、今まで著作を拝読したことが無かったのですが、本書は脳科学本として、なかなか鋭い点を突いてこられていると思います。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
本気で脳科学を研究する著者が、世の中で言われている「脳科学的なこと」を本気で検証!
・まずは実践したいこと
・脳にとってはどうでもいいこと
・今すぐにでもやめたいこと
が一目でわかる、暮らしに役立つ脳科学です。
なお、若干お得なKindle版も、既に配信されています!
Allen Institute for Brain Science / Lavender Dreamer
【ポイント】
■1.「感覚」には決められた優先順位がある脳の中での、体性感覚の中での順位付けは以下の通りです。関節位置覚→振動覚→触覚→鋭い痛み→鈍い痛み→冷覚→かゆみ順位が高い感覚と低い感覚が同時に与えられると、脳は順位が高い感覚を優先的に情報処理します。つまり、順位が低い感覚はあまり認知されない、つまり「抑制」されるのです。
だから、かゆみと痛みを同時に与えると、かゆみはあまり感じないというわけです。
この優先順位を、僕たちは意外なところで活用しています。
子供が「痛い」と言って泣いているとき、お母さんが、痛いところを触りながら「痛いの、痛いの、飛んでけー」と言ってなだめます。
すると、触る(触覚)は痛みよりも上位にあるので、痛みは抑制されます。つまり、あまり痛く感じなくなるのです。
自然にやっているこんな行為にも実は、医学的に意味があったわけです。
■2.痛みを忘れたいときは運動するといい
僕は、科学、特に脳科学は、人間の日々の生活のために役に立つものであるべきだと、常々考えています。それでは、僕たちが行なったこれらの脳科学実験は、どのようなことを教えてくれるでしょうか。
まず第1に、「運動には鎮痛効果があり、それは脳活動が関係している」こと。
第2に、「運動は身体のどの部位を動かしてもが鎮痛効果がある」ことです。
つまり、肩痛や腰痛に対しても、全身運動であるウォーキングやスロージョギングなどでも効果があるというわけです。
第3に、「受動運動でも効果があった」こと。ということは、患者さん自身が動くのではなく、例えばマッサージや麻痺した四肢を動かしてあげることでも、患者さんの痛みを和らげてあげられることが証明されたわけです。
■3.勉強には「激しい反復練習」が必要
世の中には、様々な暗記術、記憶法の本やサイトがあふれています。しかし、本気で勉強しよう、何かを確実に身につけようとする場合には、まずは単純暗記を繰り返すしかないと思っています。つまり、激しい反復練習です。その土台があってこそ、各種の暗記法が役に立つのだと思います。(中略)
受験生、あるいは、そのご両親からの相談で一番多いのは、「試験のとき、特に数学(算数)でケアレスミスが多い」ことです。
僕は、そういう方々には、「ひたすら、反復練習をすること」の重要性を説きます。 「魔法の言葉」を期待していた方々は、一様にがっかりした表情をされます。
極度の「あがり症」の方の場合には、ケアレスミスは避けられないかもしれません。しかし、反復練習は確実にケアレスミスを減少させます。「学問に王道なし」とは、まさにこのことです。それは、野球の内野手のエラーが、毎日の多くのノック練習によって減ってくるのと同じです。
■4.耳栓をして音読しても特に効果はない
耳栓をしていると、空気伝導による音は聞こえません。そのときに音読、つまり自分の声でしゃべると、少し感じが違いますが自分の声は聞こえます。これは骨伝導によるものです。
骨伝導と空気伝導の違いは、内耳にある受容器(蝸牛)に入るまでの経路にのみ存在しており、聴神経以降のメカニズムは同様です。つまり、骨伝導では外耳―鼓膜―中耳という経路は通りませんが、音を聞くのにもっとも重要な内耳―聴神経―大脳皮質という経路は空気伝導と同じだと考えられています。
ここで、「耳栓をして音読すると、暗記しやすいかどうか」という疑問に対する答えは出ました。
骨伝導音だけを聞いたからといって、「脳活動が変化する、脳活動が増す」というのは考えにくいと言えます。
実際、骨伝導を専門に研究されている千葉大学の中川誠司教授の教室の、脳波、脳磁図、機能的MRIなどを使った実験でも、気導音と骨導音、それぞれに対する聴神経から大脳皮質の反応に本質的な差異は見出されていません。
■5.「数学を理解するプロセス」に男女差がある
教育関係者の間では、男女の数学に対する理解の仕方の違いを指摘する声があります。数学の教え方には大きく分けて2種類あります。1 はじめに原理原則をしっかり説明してから具体的な問題に取り掛からせる方法一般的な傾向として、男子には1の方法がよく、女子には2の方法でやったほうが、成績が上がるという報告が増えてきました。
2 方法を先に示して具体的な問題を解いてみせてからなぜ解けるのかを示す方法
しかし、これまでは、どちらかというと1の方法が主流、つまり、男子に向いた教え方をしてきたので、女性の数学の成績が悪かったという説です。
もちろん、個人差もありますから一概には言えないのですが、こういう説があることを理解して数学を教えれば、女性の数学の成績はもっと上がる可能性があるようです。
【感想】
◆本書を読む前は、ぶっちゃけ「よくある脳ネタ本の1つ」なのだと思っていました。確かに「しっかり噛んで食べる」ですとか「怒りの感情は5秒しかもたない」といった、類書でも見られるお話がないわけではありません。
ただ、これだけ脳ネタ本を読んできた私ですら、今まで知らなかった論点がちらほらと。
代表的なのが上記ポイント1番目です。
私も花粉症の時期には若干アトピーっぽくなるので経験があるのですが、かゆいときに叩くのは、気を紛らわせるためだと思っていました。
しかし実際には、「抑制」という、もっと直接的な効果がある模様。
同様に、痛がる子供をなだめるのも、単に心理的なものだと思っていましたが、これまた触ることで痛みが抑制されていたんですね。
◆これに関連して、上記ポイントの2番目も「痛み」を緩和するためのもの。
上記では実験内容を割愛して結論だけ書いてしまいましたが、本書には著者の柿木さんたちの実験内容にも詳細に触れられています。
何でも、20年以上前から、世界に先駆けて「脳内でどのような作用が働いて、運動による鎮痛効果を引き起こすのか」を研究されていたそうなのですが、痛みを「筋肉や骨」の問題ではなく、「脳」が強いかかわりを持つ、という考えは当時としては画期的だったのだとか。
一応、注釈にあった論文タイトルでググるとこんな感じ……。
Mechanisms of pain relief by vibration and movement. | Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
Effects of Movement-Related Cortical Activities on Pain-Related Somatosensory Evoked Potentials Following CO2 Laser Stimulation in Normal Subjects - Journals - NCBI
英語なんで、正直よく分かりません(ダメじゃんw)。
◆こうした「目からウロコ」的な内容と並行して、本書では従来「良いこと」ないしは「悪いこと」とされてきた、いわゆる「常識」についても検証しています。
たとえば「朝食を抜くと脳が低血糖になるのでよくない」という主張。
これについては「一食抜いたくらいでは、支障が出るほどの低血糖になることはありません」とキッパリ否定されています。
また、下手に強調すると炎上しかねないのですが、喫煙(ニコチン)は脳にとっては「短期的には最高の刺激剤」(ただし長期的には脳機能の低下を引き起こす可能性アリ)なのだそう。
もちろん、これは「脳」に関するお話であって、脳以外の部位、特に呼吸器にとっては明らかに有害ですし、そもそも周りの人には「百害あって一利なし」なので、フツウの本では下手に言及しないものだと思うのですが……(困惑)。
◆同様に、たとえば青魚に多く含まれるDHAに関しても、食べたり摂取すれば、記憶力が向上するか、というと、「『わかりません』あるいは『No』」とのこと。
他にも「右脳トレーニング」や「脳トレパズル」「公文式」等についても、疑問をなげかけています(必ずしも否定しているワケではありません)。
こうした傾向は本書の第5章の「都市伝説を科学する」にも見られ、「女性には方向音痴が多い」という説にも、「将来的には『エセ科学認定』できるかも」と言われていますし、「女性は数学が苦手、説」には、上記ポイントの5番目のように回答。
確かに以前読んだ本でも、被験者に数学なり勉強自体が「苦手だ」と意識させることで、テストの結果が悪くなることは証明されていましたし、男女差や脳の問題ではない可能性は高いと思います。
◆なお、こうした勉強絡みで言うなら、上記ポイントの3番目と4番目も、勉強本マニアなら気になるところでしょう。
繰り返すことが大事なのは、ある意味「常識」ですけど、ケアレスミスの件を含めて、改めて強調された感じです。
一方で「耳栓」の効果については、「骨伝導」の点からは効果がないにしても、自分の声が違って聞こえることによる心理効果や、周囲のノイズがブロックされて集中できる効果までが否定されたわけではありません。
私も資格試験の受験生時代に、暗記力強化を狙って左手で電卓を叩いていたことも、右脳強化にはつながらなかったのかもしれませんが、結果的に右手でペンを持ちながら計算できるようになったという副次効果がありましたし。
いずれにせよ、当初思っていたよりは、さまざまな知見を得られて、脳ネタ本好きとしては満足できました。
最新脳科学の「新常識」がここに!
脳にいいこと 悪いこと大全
1 まず実践してみてほしい脳科学が本当にすすめる10の生活習慣
2 その悪いイメージは濡れ衣!? 脳科学的には案外悪くない5つの"悪"習慣
3 脳の強化には本当は役に立たない8の脳科学
4 悪影響はイメージ通り! やっぱりやめたい4つの残念習慣
5 都市伝説を科学する――男と女の脳科学・エセ科学5
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【脳科学】『「すぐにやる脳」に変わる37の習慣』篠原菊紀(2016年09月19日)
【脳科学】『2時間の学習効果が消える! やってはいけない脳の習慣』横田晋務(著),川島隆太(監修)(2016年08月12日)
【勉強法】『脳科学が教えてくれた 覚えられる 忘れない! 記憶術』篠原菊紀(2016年01月10日)
【編集後記】
◆「脳科学」といえば、現在開催中のフォレスト出版さんのセールでも、この2冊が対象となっていました。残り97%の脳の使い方 ポケット版
脳にいい24時間の使い方
参考記事:【睡眠】『脳にいい24時間の使い方』に学ぶ「眠りのコツ」5選(2016年09月27日)
興味がございましたら、ご検討ください!
ご声援ありがとうございました!
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