ヒアリ 緩効剤が有効 8週かけじわじわ 巣ごと“一網打尽” 新剤登録 速やかに

アルゼンチンアリについての対策に続き、ヒアリ対策で陣頭指揮を執る五箇室長(茨城県つくば市で)

 6月9日に兵庫県で最初に発見されて以来、ヒアリが港湾地区を中心に国内13カ所で確認されている。凶暴で強毒を持つヒアリが侵入を繰り返す可能性は高い。定着を防ぐには「敵」の弱みを突いて一網打尽にすることが大切、と専門家は指摘する。ヒアリ侵入を防いだニュージーランド(NZ)の対策も参考に、定着阻止に向け日本独自の戦略を検討している。

 環境省の現時点のヒアリ対策は“初期消火”が基本だ。「物流拠点を中心に調査し、発見したら速効性の殺虫剤で駆除して拡大を防ぐ」(同省外来生物対策室)。しかし、今年は貿易相手国の中国などでヒアリが猛威を振るっており、侵入が繰り返される可能性が高い。初期消火の網をくぐり抜け周辺に定着してしまった場合に備え、日本では独自の戦略を練っている。

 ヒアリ対策の指揮を執る、国立環境研究所生物・生態系環境研究センターの五箇公一室長は、定着した場合「速効性の殺虫剤だけでは限界がある」と指摘する。移動や世代交代など生態に合わせた「駆除の戦略づくりが大切だ」と指摘する。

 ヒアリの防除マニュアルを作成中の五箇室長が検討しているのが、緩効性成分を使った戦略だ。

 速効性の殺虫剤は成虫への効き目は鋭いが、ヒアリが異常を察知して女王アリごと逃げ出すことがある。防除によって定着地域を拡大させてしまう危険性がある。

 農薬メーカーの住友化学は7月下旬、「海外で成果を持つヒアリ対策剤の日本導入」を発表した。同社グループが米国やオーストラリア、NZなどで販売するピリプロキシフェンを有効成分とする「エスティーム」だ。

 ピリプロキシフェンは幼虫の代謝活動を邪魔し、衰弱死させる効果がある。同社によると、海外ではヒアリ駆除に8週間かかる。じわじわとした効果にヒアリが異常を感じず、巣ごと一網打尽にできるというわけだ。

 ただし、課題はある。同社は今の時点で「エスティーム」の国内販売に向けた作業はしていない。ヒアリ研究者らに試験用のサンプルを提供しただけ。本格的に利用するには農薬取締法の登録が必要だ。国内のヒアリ定着が確認されなければ需要がなく、登録作業にかかる時間や費用が無駄になる可能性がある。

 「引き合いがあれば販売に向けたステップに進みたい」と同社は説明する。ヒアリ対策の遅れにつながらないような配慮が必要だ。
 

定着阻止 国民が関心を 国環研 五箇 公一氏


 ――ヒアリの現状をどう見ますか。

 侵入外来生物として、一生懸命日本で増えようとしている段階だ。現時点で定着しているかどうかは断言できないが、これまでの調査ではまだ、定着していないと思う。仮に一部が定着していたとしても初期の段階。外来種が侵入に成功して定着し、それが人間の目に触れるまでには10年かかる。今発見できないからといって安心はできない。

 ――今年、侵入が相次いだのはなぜですか。

 ヒアリの発生は年によって波がある。今年が中国南部などで当たり年だった可能性があり、「前から大量に侵入していた」という見方は違うと思う。長い目で見れば、グローバル化が侵入外来生物を増やしている。物や人がものすごい勢いで移動する。最大の貿易相手国である中国でヒアリが定着した以上、物流に乗って日本上陸を警戒していた。

 ――日本で定着する可能性はありますか。

 いったん定着する可能性はあるが、徹底的に駆除をして撲滅する。日本でヒアリとの共存はあり得ない。モグラたたきを何回してでも駆除する。温暖化で日本がヒートアイランドになり、ヒアリがすみやすくなったのは事実。だが、中国南部や台湾などに比べれば冬の寒さがあり、彼らには厳しい。ヒアリを迎え撃つ日本在来アリは寒さに強いので頑張ってもらう。

 とにかく早期発見が重要で、侵入外来生物に対する国民全体の関心や警戒心を引き上げていくことも必要だろう。(山田優・特別編集委員)

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