「ポスト・トゥルース時代のトーフビーツ(仮)」──tofubeats × 若林恵 トークイベントレポート【前編】
Interview by Shusaku Hirota | Edit by Kazuya Kishimoto & Ryoh Hasegawa | Photos by Naomi Circus
2017.08.25[Fri]
PCで楽曲制作を行い、インターネット上で楽曲を発表するスタイルで注目され、今やネット世代を代表するアーティストとなったtofubeats氏。(前作リリース時のCOTASインタビューはこちら)彼が今年5月にリリースした最新アルバム『FANTASY CLUB』において据えたテーマは意外にも「ポスト・トゥルース」(※1)だった。
リリースに際しての各媒体でのインタビューでは、彼自身が挙げる今作の創作のヒントの中には、ソランジュ(※2)のアルバムなどと並び、WIRED日本版の若林恵編集長による文章が挙げられている。 「『ニーズ』に死を」と題され、2017年の年明けに発表されたこの文章では、アメリカ大統領選やマケドニアのフェイクニュースサイト、更に日本国内でのキュレーションメディアの炎上から、ポスト・トゥルース時代におけるメディアの状況が鮮やかに描かれている。
そして、その若林編集長により『FANTASY CLUB』のライナーノーツは執筆された。これはかねてよりイベントでの対談や紙面での特集などで、tofubeats氏と若林編集長とで交流があり、今回tofubeats氏直々に依頼したことで実現したという。
tofubeats氏はポスト・トゥルース時代に何を考え、今作に至ったのか? また、熱心な音楽リスナーとしても知られ、同時にtofubeatsファンでもある若林編集長は今作を聴いてどんな感想を抱いたのか? ポスト・トゥルース時代にクリエーターは、メディアはどのように振る舞っていくべきなのか? それぞれの視点に、COTAS編集長の廣田が迫る。
※1:ポスト・トゥルース…「世論の形成において、感情や個人的信条に訴えるものよりも、客観的な事実が影響力を持たなくなっている状況」を示す言葉。オックスフォード英語辞典が2016年の今年の言葉(Word of the Year)に選んだことから、英語圏以外でも広く知られるようになった。
※2:ソランジュ…アメリカのシンガーソングライター、女優。歌手ビヨンセの妹としても知られる。2016年に発表したアルバム『A Seat at the Table』は米国内外の様々なメディアで高い評価を得た。
新譜に対する、若林編集長の第一印象
廣田:本日、司会を務めさせていただきます、COTAS編集部の廣田です。トーフさん、若林さん、どうぞよろしくお願いいたします。さて、トーフさんは、メジャーデビュー以降3作目となるアルバム『FANTASY CLUB』を5月に発売されました。ライナーノーツを書かれた若林さんは、最初に聴いたときリスナーとしてどんな印象をもちましたか?
若林:「ずいぶん声を張ってるな」と思ったんですよね。これまでトーフくんの曲を聴いてきて、こんなに声を張っている印象はなかったので、とにかく声を張ってるな、と(笑)
廣田:若林さんは、ライナーノーツの中で、トーフさんの声について「コミット」という強い言葉を使われていましたよね。
若林:声を張るためには、自信が必要だと思うんですよ。迷いのなさというか。そこにはある種の「決断」があったんだろうって感じを、一聴してものすごく感じました。しかも歌詞はどちらかというと内省的なのに声だけでなく、ドラムやベースの音の立ち具合やアタックの強さが際立っているなあ、と。それが歌詞やテーマと乖離している印象を受けたんです。つまり、そこに「分裂」のようなものが感じ取られたんです。だから、真っ先に思ったのは、「この作品作るの、大変だっただろうな」「トーフくん、可哀想」っていう(笑)。実際、どうでした? 制作、つらくなかったですか?
tofubeats(以下トーフ):実は製作に関するしんどさはなくて、むしろこれまでのアルバムのなかでは一番楽……というか調子良くできましたね。でもそれは当たり前なんですよ。製作に1年半も時間をかけていたので。これまでのアルバムってシングル曲を除けば1ヶ月とか3ヶ月というスパンで製作してきたから、それと比べると長い時間をかけています。僕にとっての良い音楽って、長く聴ける音楽なんですね。長いこと聴ける音楽を作るなら、長い時間をかけて確認しながら作った方が良いじゃないですか。1ヶ月で作るよりも1年かけて何回も直した方がもちろん精度は上がっていくわけで。
それに前回までの作品と比べて自分の気持ちを整理する時間があったので、短時間でぎゅっといろんなものを詰め込む必要がなかったんです。自分が毎日思っていることを確認しながら余裕をもって進められたので、しんどさはなかったですね。
トーフ:まず、前作のアルバム『POSITIVE』は、これまで僕が出してきたもののなかで一番綺麗なアルバムだと思ってるんですね。音も整理しているし綺麗にできたと自分では思うんですが、それは技術が上がっていけば必然的にできるものでもある。それはそれで出来上がったときは嬉しかったんですが、若林さんが言うように、この作品に出ているリビドーや気合いのようなものって偶然出てくるものなんですよね。そういう意味では、時間をかけて作ったからこそ偶然を待てた。時間をかけることで、その偶然のリビドーを感じてもらえたんじゃないかなと思いますね。
音楽を作る上で大事なのは偶然出てくる気合いみたいなものだと思うんですよ。ただ、気合いって毎日入るものじゃないですよね。1日8時間働いてても、本当の意味で8時間働いているかというと怪しいところがあるじゃないですか。「本当にいいぞ」と思えるものが出てくるのは、1日のうちでも1〜2分、あるいは5〜10秒くらいだと思うんです。今回はそうした瞬間を吟味しながらキープできた。それに自分は磨かれたピカピカのものより荒々しいものが好きだったことも再確認できましたね。