近く本格捜査 愛媛県警など
再生医療安全性確保法違反容疑 厚労省も刑事告発へ
全国のクリニックががん治療などの名目で、他人のさい帯血を無届けで投与していた問題で、2009年に破産した茨城県つくば市の民間さい帯血バンクが保管していた約1500人分のうち少なくとも約800人分が、ブローカーなどを経由してクリニックに転売されていたことが分かった。流出ルートの解明を進めている愛媛、茨城県警などの合同捜査本部は、再生医療安全性確保法違反容疑で近く本格捜査に乗り出す。一方、厚生労働省も、複数のクリニックが無届けで投与していたと認定し、刑事告発する方針を固めた。【加藤栄、木島諒子】
バンクの元社長の女性(64)ら複数の関係者が毎日新聞の取材に明らかにした。女性は筑波大教授(故人)らの協力を受け、1998年に親族と共に民間バンク「つくばブレーンズ」を設立。02年11月から一般市民から預かったさい帯血の保管事業を開始。1人分あたり10年間で30万~36万円の保管料を受け取った。
だが液体窒素を使った凍結設備の購入や施設建設に多額の費用がかかり、投資ファンドなどから出資を受けるようになった。それでも経営は好転せず、債権者の申し立てを受けた水戸地裁土浦支部は09年10月、破産手続きの開始を決定。当時、病院から無償提供を受けた約500と、預かった約1000の計約1500人分を保管していた。
液体窒素で凍結して保管するさい帯血は返還しても一般家庭では保管ができないため、10年初め、一部の債権者が設立した企業が保管先に選定された。病院の提供分は1人分3万円ほどで譲渡され、預かり分も1人分10万~20万円の追加保管料を徴収し計約1000人分が移されたという。その後、この企業がブローカーなどに販売したとみられる。女性は「債権者の目的は初めからさい帯血だったと思う」と振り返った。
問題を巡っては、愛媛、茨城、京都、高知の4府県警の合同捜査本部が今年7月、松山市の民間医学研究所を運営する男(70)を医師法違反などの容疑で逮捕。この捜査の過程で、男が京都市のクリニックに患者を紹介し、国に必要な届け出をせずさい帯血が投与された疑いが浮上した。
捜査本部は、つくばブレーンズから流出した約800人分が京都市のクリニックなどを介して販売され、東京や大阪など複数のクリニックで無届け投与が行われたとみている。今年4月には再生医療安全性確保法違反容疑で関係先を家宅捜索。厚労省も同法に基づき今年6月、がん治療や美容を名目に、患者から百数十万~数百万円を受け取り、無届けでさい帯血を投与したとして、全国11のクリニックに対し治療を一時停止させる緊急命令を出していた。
さい帯血
出産時に出るへその緒や胎盤に含まれる血液。造血幹細胞が豊富で、白血病など血液疾患の治療に有効とされる。2014年施行の「再生医療安全性確保法」は、他人のさい帯血を使って再生医療を行う場合、厚生労働省認定の審査会で安全性などの意見を聞いた上で、治療計画を同省に提出することを義務付けている。