男子生徒の性被害 相談対応は? 「信じて聞く」「1人で抱え込まない」 大分市で養護教諭ら勉強会

 ●自助グループの玄野さん助言 「適切な支援で人生は取り戻せる」

 先月施行された改正刑法は、被害者を女性に限っていた「強姦(ごうかん)罪」を、男性も対象とする「強制性交等罪」に改めた。男性も女性と同等に、性被害者として認められるようになったわけだが、支援態勢の構築はこれからだ。「男性の性犯罪被害を考える(下)」(7月12日付)で紹介した、男性性被害者の自助グループ「RANKA」主宰の玄野(くろの)武人さんが今月、大分市を訪れ、大分県高校教職員組合養護教諭部の勉強会に参加した。子どもたちの性の悩みに接する機会が多い養護教諭たちは、初期段階の支援、「ファーストサポート」の重要性を学んだ。

 養護教諭など約30人を前に玄野さんは冒頭、「支援者が『性被害からの回復が可能だ』と知っていることが大切」と主張した。

 「被害に遭ったら人生大変なんだ、ということだけでは被害に遭った子どもたちは絶望する。『適切な支援を受けたら人生は取り戻せる』というメッセージを伝えていきたい」

 玄野さんは、近親者や知人、援助者の3人の女性から性被害を受け、回復に約16年かかった当事者だ。2001年に「RANKA」を立ち上げ、11年には「男性の性被害者から相談を受ける電話相談員のための指針」を公表。性被害者を支援する各地の「ワンストップ支援センター」などで講演や研修もしてきた。

 玄野さんは、男性の性被害者への支援は女性への支援と大きく変わらないと説明した上で、「男性は性被害に遭わない」「男性はセクハラされても傷つかない」などの偏見をまず取り除く必要があると語った。

 男子生徒から玄野さんに寄せられる相談で多いのは「ズボン脱がし」。これは性暴力であり、少年期の経験で50歳を過ぎても苦しむ人がいるといい、「相談を持ち掛けられたら軽視しないで」と呼び掛けた。また、男子生徒が「性的少数者とばらされたくなければ」と脅され、同級生から性行為を強要された事例を紹介。「社会の同性愛差別と共犯関係にある」と差別意識をなくす必要性も語った。

   ◇   ◇

 教諭や家族など周囲の人たちは、相談を受けたときどう対応したらよいのか。「『信じて聞く』だけで心の応急手当てができる」と玄野さんは紹介する。

 相談を受ける際は、(1)被害内容によっては密室を怖がることもあるので安心して話せる場所を生徒に選ばせる(2)「それは怖かったね」などと冷静に話を聞く(3)被害者を非難しない-などのポイントを説明=図参照。支援に必要なことだけを尋ねるのも重要だと指摘した。言ってはならないのは「なぜ逃げなかった」「男ならやりかえしてこい」「性的いじめを受ける方にも原因がある」などの言葉。二次被害を与えてしまう。「ファーストサポート」はとても大切なのだ。

 こうした事後の対応とは別に、被害を拡大しないための予防策も必要だ。普段から学校や地域で「被害者は悪くない」「被害に遭ったら信じてくれる人に相談する」ということを伝えておくべきだ、と玄野さんは強調する。被害のケアが早いほど、生徒の抱える問題は大きくなりにくいという。

 参加した養護教諭から、自身の抱えるケースの支援の難しさについて質問があった。玄野さんは具体的に助言した上で、教諭が保健所やワンストップ支援センターなどと連携しておくことも大切だと語る。「1人で抱え込むと健全で適切な対応ができなくなる。守秘義務が守れる相手に相談することが大切です」


=2017/08/22付 西日本新聞朝刊=

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