山川豊、デビュー18年目夢かなった 平尾昌晃さん、山口洋子さんとコラボ

2017年8月22日12時0分  スポーツ報知
  • ボクシング歴30年を誇り、ファイティングポーズを決める山川豊(カメラ・頓所 美代子)

 歌手・山川豊(58)の1998年のヒット曲「アメリカ橋」は、作詞を山口洋子氏(14年死去、享年77)、作曲を平尾昌晃氏(7月死去、享年79)という両ヒットメーカーが手掛け、50万枚突破。同年のNHK紅白歌合戦では、平尾氏とデュエットで披露した。2人とのカラオケ特訓、一発OKで約5分間で終わったレコーディング秘話など、名曲誕生の裏側を聞いた。

 山川にとって、数々の昭和の名曲を生みだしてきた平尾氏、山口氏の楽曲を歌うのは夢だった。

 「中学3年の時、五木ひろしさんの『よこはま・たそがれ』をテレビで聴いて歌手になりたいと思った。五木さんの楽曲を手掛けた平尾先生、山口先生の名コンビに書いてもらうのが、この世界に入ってからの目標だった。分かりやすいメロディーの中に深みのある詞が心に染みるね」

 デビュー10年目頃から、所属事務所会長の故・長良じゅんさんに懇願し続け、18年目に発表した「アメリカ橋」で思いは結実した。

 「やっと両先生に書いてもらえると、心の底からうれしかった。先に山口先生の詞が完成して、平尾先生は曲作りにめちゃくちゃ苦労してた。何か月間もかけて10曲以上書いたけど、採用されなくて。特に『最初の歌い出しの部分が出てこない』と頭を悩ませてた」

 長いトンネルを抜け出したのは、3人で通った「カラオケ特訓」だった。

 「タレントと作曲家の方がカラオケ店に行くって、普通はないでしょ(笑い)。一度行くと3時間くらい僕がひたすら歌って、先生たちはずっと聴いてた。演歌は絶対歌わせてくれず、郷ひろみ、安全地帯…、何十曲歌ったか分からないね。3回目のカラオケで井上陽水の『リバーサイドホテル』を歌ったら、平尾先生が『よし、これだ。帰ろう』と急いで店を出て行った」

 レコーディングでは、名コンビの“戦略”によって最高の歌声が引き出された。

 「1時間前にスタジオに入ると、2人はすでにいた。僕と平尾先生は巨人ファン、山口先生は阪神ファンで、野球の話を1時間くらいした。歌のことを完全に忘れた頃に、平尾先生が『ちょっと1回、練習で歌おう』と。気軽にふっと歌ったら、ブースの向こうで2人が握手して大喜びしてた」

 わずか5分で終了。絶妙な脱力感が「一発OK」の傑作を作り上げた。

 「平尾先生が『もう終わり、録音できた。これ以上は無理だよ』と。こっちは練習だと思ってたから、あっけにとられて。サビをもっと力強く歌いたいとか思ったけど、2人は『山川は力を入れ込んでくる』と見抜いてて、『肩の力を抜いて歌ってほしい』と言いたかったんだろうね。実際、10年前頃にインフルエンザにかかって頭クラクラになりながら歌った『アメリカ橋』が一番よかったと言われたよ(笑い)」

 「アメリカ橋」は、JR恵比寿~目黒駅間に実在する恵比寿南橋の通称。元恋人同士の再会、切ない別れを歌った。

 「まるで小説みたいで、今までにない歌詞だった。別れた2人が再会して『たばこやめたの いつからと それとなくきいて』と会話のキャッチボールをする情景がすぐ浮かんだ。サビの『石だたみ 石だたみ』もワルツのリズムに乗りながら淡々と歌うのが大事。兄貴(鳥羽一郎)の『兄弟船』のように力を入れすぎちゃダメね」

 鳥羽と、憧れの五木からの反応がうれしかった。

 「兄貴は『すごくオシャレな曲。俺は自分のイメージと違うから、歌えないな』と言ってたけど、けっこう好きで歌ってた(笑い)。五木さんは発売前に関係者を通じてレコーディングして、後にカバー曲で発売したくらい気に入ってくれた。『本当にいい曲』とコンサートでも歌ってくれてる」

 98年に中村玉緒(78)主演のTBS系ドラマ「いのちの現場から 第5シリーズ」の主題歌に起用され、50万枚超えを記録。オリコンでは通算80週で100位入りのロングヒットに。同年の紅白歌合戦では平尾氏とデュエットした。

 「平尾先生から『楽しもう、笑顔だよ』と励まされたけど、僕は緊張して隣でハモる先生の顔を見る余裕もなかった。7月に先生が亡くなった時に映像が流れた時、いろんなことが走馬灯のようによみがえって、本当に貴重な経験だった。当時、ドラマのおかげでいろんな世代の方に応援してもらって、小室ファミリーやポップス曲がヒットした時代にじわじわ売れて、うれしいご褒美になった」

 37年目を迎えた歌手生活を代表する一曲になった。

 「『アメリカ橋』は、新しい山川豊の世界を作り上げてくれた。最近でもうまく歌おうと思って力が入っちゃう時があるから、『力を抜いて歌えば伝わるんだよ』という2人の先生の言葉を思い出して歌い継いでいきたい」

 ◆山川 豊(やまかわ・ゆたか)本名・木村春次。1958年10月15日、三重・鳥羽市生まれ。58歳。職業訓練校卒業後に一度就職したが、歌手を目指して名古屋へ。カラオケ大会で優勝し、79年に上京。レコード会社の社員を経て、81年「函館本線」でデビュー。同年の日本レコード大賞新人賞。86年「ときめきワルツ」でNHK紅白歌合戦に初出場(通算11回)。ほか代表曲に「しぐれ川」「夜桜」など。92年に一般女性と結婚し、1男1女をもうける。血液型B。

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