『夏嫌い』


１　表紙
２
１・２・３・４
路地俯瞰　小雨シトシト　傘をさして歩くボツ
　　ボ「♪ ドゥードルーッドゥ　ドゥードゥ
　ドゥードルー　ドゥードゥドゥードゥ」
５・６　店の階段を降りるボツ
　　ボ「はっはっはっは」
７・８　店内　いつものジョーと小藪
　　ボ「あーっはっはっはっは」
　　ジョ「いらっしゃいませ」
３
１・２　ジョ「ずいぶん上機嫌ですね。
　　　どうしたんですか？」
　　ボ「最近いい天気でしょ。6月7月と暑かったのにさ。
　あ、毎度のジンフィズネ」
３・４　ボ「ボクの念が通じたのか、8月になってからは
　　連日曇りや雨で、すっかり梅雨に逆戻り。
　　いつもなら30度台後半でもおかしくないのにさ、
　　今日はなんと、真昼間でも最高気温26度だって！」
　　うひゃひゃひゃ
５　ボ「空よ、やればできるじゃんか」天井にグッ
　　ほっほっほっほ
６　小「でも湿気があると不快だねえ。
　ばらく歩くと汗だくだよ」
　　ジョ「洗濯物もかわかないし」
　　ボ「いいじゃん、生乾きで。
　どうせ汗だくなんでしょ、湿気てればいいって」
７　ジョ「でも、明日からまたしばらく
　30度越えるそうですよ」
　　ジョー、ジンフィズ出す
　　ボ「それは言わんでよ。気が滅入る」ぶー
８　ボ「気象庁だって外れたりするし、
　 ボクの念力の方が強いかもネ」うぬぬぬ〜



４
１　小「こうなると農作物は被害も多かろうな」
　　ジョ「野菜も高くなってるようですね」
　　ボ「それを言われると弱いねぇ」
２　ボ「せめて近所だけでも････ボクんちだけでも
　････ボクの部屋でもいいや。温度は25度、
　いや、23度以下で」
　　小「控え目のような図々しいような」
３・４・５・６
　　ボ「やっぱり夏は北海道がいいね。
　広い大地に青い大空で、すっきり涼しそうだし」
広大な農場と青空　photo 小林央　ぱくたそ

　　小「夏は北海道　広き大地に広く高き青空の下
　涼やかな風流れて　遠く大入道居坐りたる、てね」
７　ジョ「札幌辺りでも30度越えはあるようですよ」
　　ボ「温暖化か知らんけど迷惑だなあ」
８　小「北方領土だけでなく、
　千島樺太も日本領ならよかったな。
　そうあってもおかしくないんだが」
　　ボ「あ〜、あっちなら涼しいだろうね。
　冬はいらんけど」
５
１　小「ロシアは統治能力もないのに
　無駄に土地欲しがるからな。
　あ、中国もそうだったな」
　　ボ「韓国もそうだネ」
２　ジョ「もっと涼しい南極は？」
　　ボ「涼しいどころじゃないし」
３・４・５・６　小「外国ならアメリカのアラスカ、
　カナダ、北欧三国に、アイスランドに
　グリーンランドかな」
　　ボ「外国もいいよねえ」
７・８　ボ「でも、景色だけなら国内で
　間に合うね。広い北欧や北米なら
　北海道辺りで足りるでしょ。山なら長野や
　飛騨高山辺りでいいし」
　　小「安上がりでいいね」
６
１・２　小「なんにしても、
　　　夏は夏の良さがあるんじゃないかい？
　　　入道雲、海水浴、かき氷、蝉の声、
　　　花火、蚊取り線香、蛍････」
３・４　ボ「猛暑、熱中症、水難事故、
　　　土砂降りの夕立、落雷、洪水、
　　　蚊、ゴキブリ････」
　　ジョ「ボツさんの夏はたしかにイヤですね」
５・６　ボ「♪ 海〜でおぼれて　川〜で流され
　　　プールでケガして　救急車走る〜
　　　雷落ちて 停電になって 呼びーかけるよ
　　　大雨洪水注意報 ホイ
　　　こーいうのばかり浮かぶネ」
　　ジョ「いわゆる陰気キャラ、
　陰キャってとこですかね」
７　小「♪ おー 亡骸（なきがら）緑〜ってどうだい」
　　ボ「♪ よく腐ったーもーのーだ、オエ、てネ」
８　小「♪ 皮膚ーが溶けてー蛆ーが涌いてー」
　　ボ「♪ 腹ーが膨れて 屍臭漂う」
７
１　小「♪ 近所も気づいて ドアーを叩き」
　　ボ「♪ 呼びーかけるよ 遺体に、か」
２　小「これはなかなかじゃねえか？」
　　ボ「いいネいいネ！」
　　ジョ「ほんとに仲良いですね」
３・４　ジョ「夏はイヤでも夏のカクテルは
　いいでしょう。気分変えてモヒートや
　ミントジュレップはどうですか」
　　ボ「ミント風味のやつでしょ？
　今ひとつなんだよなあ」
５・６　小「イギリスではミントチョコが
　定着してるらしいよ。好まれてるんだろうな」
　　ボ「ミントチョコは食べたことあるよ。
　歯磨きしながらチョコ食べてる感じ。
　二度といらねえ」 うえ〜
７・８　小「まあ、イギリスは食いもんについては
　評判悪いからな。夏のカクテルてのは要するに、
　南国で作られたり、南国をイメージしたのが
　夏ものってわけだな。シンガポールスリングとか
　ブルーハワイとか青い珊瑚礁とか」
　　ボ「♪ あ〜 小便濃いわ〜、か」
　　小「？」
８
１・２　ボ「いや、青い珊瑚礁って言うから････
　　　松田聖子の曲････たしか1980年とき」
　　　小「『青い珊瑚礁』は1948年の
　　アメリカの青春映画だな。1980年に作り直してる。
　　ブルック・シールズてのが主演だ。
　　それがヒントになったかもな」
３・４　小「曲だったらズー・ニー・ヴーの
　　『白いサンゴ礁』もあるよ」
　　ボ「あー、それも知ってる。
　『ど根性ガエル』の終わりんときの歌と
　ゴッチャになるの。
　男の意〜地を 群れ飛ぶカモメ〜
　カラスが鳴いて〜 白い珊瑚礁〜で、
　どっちもほとんど七文字ずつ」
５・６　小「それで言えば、あれだ、
　　ビートルズやカーペンターズで有名な
　　『プリーズ・ミスター・ポストマン』
　　という曲があるだろ？
　　それによく似た歌が日本にもあるんだよ。
　　美空ひばりの『車屋さん』だ」
　　ボ「ほう」
７・８　小「『車屋さん』は、惚れた男への手紙を、
　　彼女が車屋さんに届けるように頼むという内容だ。
　　で、ポストマンの方は、若い男が郵便屋を呼び止めて、
　　彼女からの手紙が来てないか尋ねるという内容だ」
９
１・２　小「相手に話しかけるという
　　設定もそっくりだ。歌の冒頭も、
　　『待ってくれよ郵便屋さん』
　　『ちょいとお待ちよ車屋さん 』、
　　似てるだろ」
　　ボ「それはもしかして盗作？」
３・４　小「曲調は違うし盗作とは言えないが、
　　偶然とは思えない共通性だ。
　　車屋さんは1961年4月発売、
　　ポストマンは1961年8月にマーヴェレッツ
　　というグループで売り出した。国も分野も違うから、
　　今ひとつ話題になっていないようだがね」
５・６　小「欧米の曲をヒントに作曲てのもあることで、
　　盗作騒ぎになったのもあるし、今思い出したが、
　　有名なサンタナの『哀愁のヨーロッパ』と
　　『悲しい色やね』は出だしは同じだ」
　　ボ「逆に日本の曲をパクっていた可能性もあると？」
７・８　小「当時のひばりだからね。
　　日本歌謡界のトップだ。アメリカの音楽業界が
　　ジャズだロックだブルースだロカビリーだ
　　カントリーだフォークだボサノヴァだと何でも
　　大量生産やってるときに、向こうの作り手が
　　アジアや日本の曲を聴いたり、それで
　　ヒントにするくらいおかしくはないわな」
　　ジョ「そういえば『スキヤキ』
　（上を向いて歩こう）は大ヒットしましたね」
１０
１・２　小「激しいロックばかり演奏してる一方で、
　　実はクラシックやジャズに詳しいとかさ」
　　ジョ「クイーンはオペラやってたし、
　最近の日本でもクラシックを元にしたJ-POPも
　ありましたね」
　　ボ「あ〜、なんか聴いたことある。
　ハラホロヒレハレみたいな名前の人だ」
３・４　小「アメリカで日本の曲を聴くなんて、
　　当時はマニアレベルだろうからな。取り入れても
　　バレないと思ったんじゃねえかなー、とね」
　　ボ「まあ、たしかに話題にはなってないねえ」
５・６　ジョ「当時も今も、ロック好きの人は
　　演歌とか聴かないでしょうね」
　　小「ひばりは演歌だけじゃないよ。
　垣根が無いのがひばりの強さだ」
　　ボ「『真っ赤な太陽』は演歌じゃないし、
　そういやジャズもあったね」
７　小「で、なんで音楽話なんかやってんだ？
　あ、そうか、ボツが白い珊瑚礁とか言うからだよ」
　　ボ「それはヤブさんでしょ、その前が青い珊瑚礁」
８　小「そうだ、夏のカクテルの話してたんだ」
　　ボ「ヤブさんが音楽について長話するとはねえ」
１１
１　ジョ「青い珊瑚礁もミント風味ですね。
　色は青だけでなく緑だったり」
　　小「日本は緑も青だからね」
２　ボ「マスター、白い珊瑚礁ってカクテルあるの？」
　　ジョ「････それは聞いたことないですねえ」
３　ジョー、スマホで検索
　　ジョ「たぶん無いと思う。無いんじゃないかな。
　ま、ちょっと覚悟はしておこう、と」
　　小「白い珊瑚礁ってのは死んだ珊瑚礁だな」
４　ボ「また作ったらどう？ 当店オリジナル」
　　ジョ「新たな夏のカクテルですか」 うーん
５・６　ジョ「『白い珊瑚礁』です」
　　短めのタンブラーに白色
７　ジョ「簡単に言うと、ミルクリキュールの
　　ソーダ割りです。甘くてスッキリ爽やか。
　　ホワイトチョコのリキュールでもいいと
　　思います」
　　小「名前は早いもん勝ちだからね」
　　ボ「カルピスソーダの存在が気になるね」
８　ジョ「････やっぱりカクテル・グラスで
　濃厚なのがいいかな････」
　　小「また迷い出したな」
１２
１　小「それはそれ、これはこれだよ」
　　ボ「そうだそうだ、心配ならたくさん作りなよ」
２　ジョ「ホワイトチョコ編、ジンベース編」
３・４　ジョ「テキーラ、ラム、甘口辛口、
　　　度の強いの弱いの、ノンアルコール」
５・６　ジョ「その中で初作を第一号ということで」
　　ボ「おめでとう！」
　　各種カクテルずらり
７・８　ボ「これだけの数飲めば酔いもするよネ。
　　　おごりでもきついネ」 ん〜
１３
１　ボ「こっちが夏に迷惑してるのに、
　世間にはウキウキワクワクの人もいるらしいね。
　世に異常者の種は尽きまじだネ」
　　ジョ「季節は好みが分かれますからねえ」
　　小「そういや四季の歌なんてあったね」
２　小「暑さ寒さが嫌いなボツは、心弱く狭い人だ」
　　ボ「はい、認めます、仰る通りですよ〜」
３　ボ「実際のとこ、ヤブさんはどうなのよ、
　マスターは？」
　　小「四季にはそれぞれ良さがあるだろうさ」
　　ジョ「ですねえ」
４　ボ「か〜、こりゃまた優等生的発言というか、
　いつもの鈍感力かネ」 へ〜
５　小「いつまでも暑いわけでなし、
　暑さ寒さも彼岸までってさ」
　　ボ「彼岸ていつだっけ」
６　小「9月23日の秋分の日の前後3日、
　その一週間がお彼岸の時期」
　　ボ「彼岸で僻んでない、どっちだ！ てネ」
　　ジョ「････」
７　ボ「思いついたら言わないと気が済まないのよ。
　つまり9月の半分以上が暑いわけだ。
　まったくとんでもねえネ」
　　小「彼岸もボヤキも毎年恒例だな」
８　ジョ「でも、ここなら問題ないでしょ？」
　　ボ「往復がつらいのよ。自宅も厳しいの」
１４
１　ボ「マスターはいいよなあ。自宅兼仕事場だもんな。
　いっそここで寝泊まりさせてくれないかな」
２　ジョ「毎日丁寧な掃除してくれますか？」
　　ボ「すんません、撤回します。汗かきそうだし」
３　ジョ「久々に二〜三日は猛暑になるそうですよ。
　明日は最高気温35度だそうで」
　ジョー、スマホ見る
　　ボ「35！？」ゲゲ！
４　ボ「おい地球、てめえいい加減にしろよ！」
　ガッと床を踏みつける
５　小「世界広しといえども、地球にケンカ
　売ってるのはボツくらいだな」
　　ボ「ケンカ売られてんのはこっちです！」
６　ボ「おうおう、そうかい、
　それならその後を見ておれだよ。絶対下げる、
　下げさせる。続いてたまるかい」ケッ
７・８　ボ「くそ〜、来いや、シベリア高気圧、
　蒙古やロシアの南下はお断りだが、
　高気圧は大歓迎だぞ！」うおおお
１５
１・２　翌日　店の前
３・４　店内　ジョーと小藪
　　ジョ「猛暑のせいか、珍しくボツさんはお休みです」
　　小「あいつのことだから、寝冷えで夏風邪でも
　引いてんじゃねえかな。まあ、
　『馬鹿は風邪引かない』というが････」
５・６・７・８
　　小「『夏風邪は馬鹿が引く』ともいうしな」
　　ボツ、部屋で全裸で
　腰にタオル乗せて横になっている
　　ボ「は〜、マンモスゲリピ〜」

　　　　　　　　　　　　　　　　　終

Singing In The Rain - Singing In The Rain
(Gene Kelly) [HD Widescreen]