福島第一原発 「凍土壁」の最終凍結始まる

福島第一原発 「凍土壁」の最終凍結始まる
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福島第一原子力発電所の汚染水対策の柱で、建屋の周囲の地盤を凍らせて地下水の流入を防ぐ「凍土壁」について、東京電力は安全のため凍らせずに残していた最後の部分の凍結を22日始めました。去年3月に最初の凍結が始まってから1年5か月たち凍土壁はようやく完成のめどが立ったことになります。
福島第一原発の「凍土壁」は、汚染水が増える原因となる建屋への地下水の流入を抑えるため、建屋の周りに埋めたパイプに氷点下30度の液体を流して長さおよそ1.5キロの氷の壁を作るものです。

すべての部分を凍らせると建屋の周囲の地下水の水位が急激に下がり、汚染水が漏れ出すおそれがあったため、山側の幅7メートルの場所は凍らせずに残されていましたが、今月15日、原子力規制委員会は安全対策が整ったとして、この部分の凍結を認可していました。

これを受けて福島第一原発では、22日午前9時に3人の作業員が氷点下30度の液体を流す地下のパイプにつながる11か所のバルブを順次開き、残されていた部分の凍結が始まりました。凍土壁は、去年3月に最初の凍結を始めてから1年5か月たちようやく完成のめどが立ったことになります。

凍結にかかる期間について、東京電力はこれまでの実績を当てはめると2か月程度になるものの、地下水の流れが速いため、それより時間がかかる可能性があるとしています。

東京電力は、凍土壁が完成すれば、建屋に流れ込んでいる1日およそ140トンの地下水を100トン以下まで減らせるとしていて、規制委員会は効果を慎重に見極めることにしています。

原子力規制庁 汚染水の状況を監視

凍土壁の最後の凍結が始まったことについて、原子力規制庁の大熊一寛総務課長は「仮に建屋周辺の地下水の水位が下がると建屋内の汚染水が外に出てしまうので今後、しっかりと状況を監視していく」などと述べ、凍土壁の運用を慎重に確認していく考えを示しました。

一方、国費およそ345億円をかけて建設した凍土壁の費用対効果が明確でないという指摘については、事業者の東京電力などが検討するべきだとしたうえで、「規制委員会はあくまで原発の周辺の環境に影響を及ぼさないように監視する立場で、コメントすることはない」と述べました。

資源エネルギー庁の木野正登廃炉・汚染水対策官は「万が一、地下水の水位が下がった場合の対応など、建屋から汚染水が漏れないよう対策をとっている。安定的に凍土壁を運用するとともに、さまざまな対策を組み合わせて汚染水対策の効果をあげていきたい」と話していました。

維持費は年間十数億円 問われる説明責任

福島第一原発では、1号機から4号機の建屋に流れ込む地下水の量を抑えるため、凍土壁を含む複数の対策を組み合わせて行っています。

このうち、平成26年には、建屋の上流側で地下水をくみ上げて、水質に問題がなければ水を海に排水する「地下水バイパス」を設けたほか、よくとしには、建屋周辺の「サブドレン」と呼ばれる井戸で地下水をくみ上げ、建屋に流れ込む地下水の量を抑える対策を始めました。

そして、去年3月からは、建屋の下流側から順次、凍土壁の凍結を始めました。東京電力によりますと、現在、99%の区間が凍っているということです。こうした複数の対策の効果で、建屋に流れ込む地下水の量は1日当たり400トンから140トンほどに抑えられているとしています。

しかし、凍土壁だけで地下水の流入を防ぐ効果がどれだけあるのか、東京電力は明らかにしていません。凍土壁の建設費用は345億円の国費で賄われ、凍結し続けるには、年間十数億円ほどの維持管理の費用がかかり、この費用は私たちの電気料金から賄われています。

東京電力は、凍土壁が完成すれば、1日当たり100トン以下まで建屋に流れ込む地下水を減らせるとしていて、凍土壁は、建屋内の汚染水の処理を終える計画の2020年ごろまで運用することにしていますが、効果がどれくらいあるのか、東京電力と国には、しっかりと説明することが求められます。

凍土壁は巨大な氷の壁

「凍土壁」は、廃炉に向けて大きな課題となっている汚染水対策の柱と位置づけられ、福島第一原発1号機から4号機の建屋の周りの地盤を凍らせる巨大な氷の壁です。

福島第一原発の1号機から3号機では、メルトダウンで溶けた核燃料を冷やすため、原子炉と原子炉を納めた格納容器に水を入れ続けていますが、この水が高濃度の汚染水となって建屋の地下などにたまっています。さらに、建屋の山側からは、大量の地下水が流れ込み、この汚染水と混じり合うためその量は増え続けています。

これに対して国と東京電力は平成25年、汚染水の増加を抑える対策をいくつか打ち出し、なかでも抜本的な対策の柱とされたのが凍土壁でした。凍土壁は、1号機から4号機の建屋全体を囲むように凍結管と呼ばれる鋼鉄のパイプおよそ1600本を深さ30メートルまで1メートル間隔で打ち込みます。そのパイプに氷点下30度の冷却液を流して土壌を凍らせる仕組みで、全長は1.5キロにおよびます。

3年前の平成26年から建設が始まり、去年3月から建屋の下流側から凍結を始め、これまでに99%の区間を凍結しました。国の専門委員会によりますと、これだけ大規模に長期間にわたって地盤を凍らせて作る壁は海外でも例がありません。

東京電力によりますと、これまでの実績では、地盤が凍るまでは2か月ほどかかっているということですが、まだ凍っていない区間に地下水が集中して流れ込んでいる可能性があり、完全に凍るまでにはさらに時間がかかるおそれもあります。

全面凍結までの経緯

凍土壁は、平成25年、国の専門委員会が建屋に流れ込む地下水を減らし、汚染水の増加を食い止める抜本的な対策として採用するよう提言し、国と東京電力が実施することを決めましたが、全面凍結に向かうまでは、う余曲折がありました。

凍土壁の採用については、その効果を疑問視する声もありました。しかし、コンクリートなどの巨大な壁を地中に設けた場合、トラブルがあると後戻りができないのに対し、凍土壁は、凍結をやめれば現状復帰できることなどから、採用が決まりました。

建設工事は平成26年6月に始まり、去年2月に設備は完成しましたが、東京電力と原子力規制委員会の間で凍土壁の運用に伴うリスクへの対策を巡って意見が対立しました。

原子炉建屋などにたまっている汚染水の水位は、周囲の地下水より低く保たれています。もし地下水の水位が下がりすぎて水位が逆転した場合、建屋の中の汚染水が外に漏れ出すおそれがあります。

東京電力は、少しでも早く汚染水の増加を抑えたいとして、凍土壁全体を一気に凍らせる方針を示しました。これに対して規制委員会は、汚染水が建屋の外へ漏れ出さないようにする対策を先に施すべきだとしました。

結局、東京電力が規制委員会に従う形で、建屋の下流側から段階的に凍結を進めるとする計画を示し、去年3月に凍結が始まりました。

ただ、建屋の中の汚染水が漏れ出すリスクへの対策は十分、説明されていないとして、山側の幅7メートルほどの区間は凍らせずに残されていました。

その後、東京電力は緊急時の対応などを説明し、今月15日、規制委員会が残りの区間を凍結することを認可しました。凍土壁は最初の凍結から1年5か月がたって、ようやく完成に向けて動き出しました。

課題と対策

原子炉建屋などにたまっている汚染水の水位は、周囲の地下水より低く保たれています。これは、汚染水が建屋の外へ漏れ出すのを防ぐためです。ただ、凍土壁が完成し、建屋周囲の地下水の水位が下がりすぎて水位が逆転した場合、汚染水が外に漏れ出すおそれがあります。

このため、地下水位の厳重な監視が必要で、建屋周辺の計器で水位を常に監視することや、水位が急激に下がった場合、建屋の中の汚染水を移送したり、周辺の井戸に水を入れて地下水の水位を上げたりする対策を行うとしています。

ただ、今月2日には、井戸を掘る工事の影響で、地下水をくみ上げている別の井戸の地下水位が一時急激に下がり、建屋の中の汚染水の水位が井戸の水位より高くなるなど、地下水がどのように変化するかを完全に把握することは難しいのが現状です。

東京電力には、いざというとき、計画どおりに建屋の中の汚染水の移送など対策が取れるかどうかが課題となります。

福島第一原発 「凍土壁」の最終凍結始まる

福島第一原子力発電所の汚染水対策の柱で、建屋の周囲の地盤を凍らせて地下水の流入を防ぐ「凍土壁」について、東京電力は安全のため凍らせずに残していた最後の部分の凍結を22日始めました。去年3月に最初の凍結が始まってから1年5か月たち凍土壁はようやく完成のめどが立ったことになります。

福島第一原発の「凍土壁」は、汚染水が増える原因となる建屋への地下水の流入を抑えるため、建屋の周りに埋めたパイプに氷点下30度の液体を流して長さおよそ1.5キロの氷の壁を作るものです。

すべての部分を凍らせると建屋の周囲の地下水の水位が急激に下がり、汚染水が漏れ出すおそれがあったため、山側の幅7メートルの場所は凍らせずに残されていましたが、今月15日、原子力規制委員会は安全対策が整ったとして、この部分の凍結を認可していました。

これを受けて福島第一原発では、22日午前9時に3人の作業員が氷点下30度の液体を流す地下のパイプにつながる11か所のバルブを順次開き、残されていた部分の凍結が始まりました。凍土壁は、去年3月に最初の凍結を始めてから1年5か月たちようやく完成のめどが立ったことになります。

凍結にかかる期間について、東京電力はこれまでの実績を当てはめると2か月程度になるものの、地下水の流れが速いため、それより時間がかかる可能性があるとしています。

東京電力は、凍土壁が完成すれば、建屋に流れ込んでいる1日およそ140トンの地下水を100トン以下まで減らせるとしていて、規制委員会は効果を慎重に見極めることにしています。

原子力規制庁 汚染水の状況を監視

凍土壁の最後の凍結が始まったことについて、原子力規制庁の大熊一寛総務課長は「仮に建屋周辺の地下水の水位が下がると建屋内の汚染水が外に出てしまうので今後、しっかりと状況を監視していく」などと述べ、凍土壁の運用を慎重に確認していく考えを示しました。

一方、国費およそ345億円をかけて建設した凍土壁の費用対効果が明確でないという指摘については、事業者の東京電力などが検討するべきだとしたうえで、「規制委員会はあくまで原発の周辺の環境に影響を及ぼさないように監視する立場で、コメントすることはない」と述べました。

資源エネルギー庁の木野正登廃炉・汚染水対策官は「万が一、地下水の水位が下がった場合の対応など、建屋から汚染水が漏れないよう対策をとっている。安定的に凍土壁を運用するとともに、さまざまな対策を組み合わせて汚染水対策の効果をあげていきたい」と話していました。

維持費は年間十数億円 問われる説明責任

福島第一原発では、1号機から4号機の建屋に流れ込む地下水の量を抑えるため、凍土壁を含む複数の対策を組み合わせて行っています。

このうち、平成26年には、建屋の上流側で地下水をくみ上げて、水質に問題がなければ水を海に排水する「地下水バイパス」を設けたほか、よくとしには、建屋周辺の「サブドレン」と呼ばれる井戸で地下水をくみ上げ、建屋に流れ込む地下水の量を抑える対策を始めました。

そして、去年3月からは、建屋の下流側から順次、凍土壁の凍結を始めました。東京電力によりますと、現在、99%の区間が凍っているということです。こうした複数の対策の効果で、建屋に流れ込む地下水の量は1日当たり400トンから140トンほどに抑えられているとしています。

しかし、凍土壁だけで地下水の流入を防ぐ効果がどれだけあるのか、東京電力は明らかにしていません。凍土壁の建設費用は345億円の国費で賄われ、凍結し続けるには、年間十数億円ほどの維持管理の費用がかかり、この費用は私たちの電気料金から賄われています。

東京電力は、凍土壁が完成すれば、1日当たり100トン以下まで建屋に流れ込む地下水を減らせるとしていて、凍土壁は、建屋内の汚染水の処理を終える計画の2020年ごろまで運用することにしていますが、効果がどれくらいあるのか、東京電力と国には、しっかりと説明することが求められます。

凍土壁は巨大な氷の壁

「凍土壁」は、廃炉に向けて大きな課題となっている汚染水対策の柱と位置づけられ、福島第一原発1号機から4号機の建屋の周りの地盤を凍らせる巨大な氷の壁です。

福島第一原発の1号機から3号機では、メルトダウンで溶けた核燃料を冷やすため、原子炉と原子炉を納めた格納容器に水を入れ続けていますが、この水が高濃度の汚染水となって建屋の地下などにたまっています。さらに、建屋の山側からは、大量の地下水が流れ込み、この汚染水と混じり合うためその量は増え続けています。

これに対して国と東京電力は平成25年、汚染水の増加を抑える対策をいくつか打ち出し、なかでも抜本的な対策の柱とされたのが凍土壁でした。凍土壁は、1号機から4号機の建屋全体を囲むように凍結管と呼ばれる鋼鉄のパイプおよそ1600本を深さ30メートルまで1メートル間隔で打ち込みます。そのパイプに氷点下30度の冷却液を流して土壌を凍らせる仕組みで、全長は1.5キロにおよびます。

3年前の平成26年から建設が始まり、去年3月から建屋の下流側から凍結を始め、これまでに99%の区間を凍結しました。国の専門委員会によりますと、これだけ大規模に長期間にわたって地盤を凍らせて作る壁は海外でも例がありません。

東京電力によりますと、これまでの実績では、地盤が凍るまでは2か月ほどかかっているということですが、まだ凍っていない区間に地下水が集中して流れ込んでいる可能性があり、完全に凍るまでにはさらに時間がかかるおそれもあります。

全面凍結までの経緯

凍土壁は、平成25年、国の専門委員会が建屋に流れ込む地下水を減らし、汚染水の増加を食い止める抜本的な対策として採用するよう提言し、国と東京電力が実施することを決めましたが、全面凍結に向かうまでは、う余曲折がありました。

凍土壁の採用については、その効果を疑問視する声もありました。しかし、コンクリートなどの巨大な壁を地中に設けた場合、トラブルがあると後戻りができないのに対し、凍土壁は、凍結をやめれば現状復帰できることなどから、採用が決まりました。

建設工事は平成26年6月に始まり、去年2月に設備は完成しましたが、東京電力と原子力規制委員会の間で凍土壁の運用に伴うリスクへの対策を巡って意見が対立しました。

原子炉建屋などにたまっている汚染水の水位は、周囲の地下水より低く保たれています。もし地下水の水位が下がりすぎて水位が逆転した場合、建屋の中の汚染水が外に漏れ出すおそれがあります。

東京電力は、少しでも早く汚染水の増加を抑えたいとして、凍土壁全体を一気に凍らせる方針を示しました。これに対して規制委員会は、汚染水が建屋の外へ漏れ出さないようにする対策を先に施すべきだとしました。

結局、東京電力が規制委員会に従う形で、建屋の下流側から段階的に凍結を進めるとする計画を示し、去年3月に凍結が始まりました。

ただ、建屋の中の汚染水が漏れ出すリスクへの対策は十分、説明されていないとして、山側の幅7メートルほどの区間は凍らせずに残されていました。

その後、東京電力は緊急時の対応などを説明し、今月15日、規制委員会が残りの区間を凍結することを認可しました。凍土壁は最初の凍結から1年5か月がたって、ようやく完成に向けて動き出しました。

課題と対策

原子炉建屋などにたまっている汚染水の水位は、周囲の地下水より低く保たれています。これは、汚染水が建屋の外へ漏れ出すのを防ぐためです。ただ、凍土壁が完成し、建屋周囲の地下水の水位が下がりすぎて水位が逆転した場合、汚染水が外に漏れ出すおそれがあります。

このため、地下水位の厳重な監視が必要で、建屋周辺の計器で水位を常に監視することや、水位が急激に下がった場合、建屋の中の汚染水を移送したり、周辺の井戸に水を入れて地下水の水位を上げたりする対策を行うとしています。

ただ、今月2日には、井戸を掘る工事の影響で、地下水をくみ上げている別の井戸の地下水位が一時急激に下がり、建屋の中の汚染水の水位が井戸の水位より高くなるなど、地下水がどのように変化するかを完全に把握することは難しいのが現状です。

東京電力には、いざというとき、計画どおりに建屋の中の汚染水の移送など対策が取れるかどうかが課題となります。