自転車ブーム 鉄道への持ち込みは迷惑?

自転車ブーム 鉄道への持ち込みは迷惑?
夏の行楽シーズン。旅行や帰省で、長時間、鉄道に乗ったという人も多いと思います。そんな中、多くの人で混み合う車内に置かれていたある荷物が、ネット上で批判を浴びました。何が問題なのか、そして解決策は何か、探りました。(ネットワーク報道部記者 飯田耕太)
帰省ラッシュで混雑する今月12日。新幹線の車内で撮影されたある写真が、ネット上で話題になりました。

“迷惑だ!”と話題に

帰省ラッシュで混雑する今月12日。新幹線の車内で撮影されたある写真が、ネット上で話題になりました。
通路に横たわる大きな荷物。中身は自転車なんです。自転車を鉄道やバスなどの公共交通機関に持ち込んで運ぶことを「輪行(りんこう)」と呼ぶそうです。

写真を投稿した人は「車内販売のワゴンが通れない」とつぶやき、ネット上でも批判の声が相次ぎました。中には、「なんでチャリで新幹線のるの?普通に意味わかんない」という書き込みもあり、「そもそも鉄道の車内に自転車を持ち込んでいいのか」といった疑問の声もあがっていました。

規則では…

規則ではどうなっているのでしょうか。

JRグループの「旅客営業規則」では、手回り品について、

▽縦、横、高さの合計が250センチ以内、
▽長さ2メートル以内、
▽重さが30キロ以内のものは、
2個まで持ち込めるとされています。

新幹線も同じです。スーツケースや楽器、サーフィンやスキーの板なども、この規則が適用されます。自転車はそのまま押して乗ることはできず、折りたたむか解体するかして、すべて専用の袋に収めなければなりません。

ただ、大きな自転車の場合も、前輪と後輪をともに外して袋に入れれば、ほとんどの場合、持ち込めるということです。私鉄各社も多くが同じような条件で持ち込みを認め、そのうえで、ほかの乗客の迷惑にならないよう配慮を求めています。
JRグループのチラシより

なぜ自転車を鉄道に?

そもそも、移動手段である自転車を、なぜ鉄道に持ち込むのでしょうか。

ことし、サイクリングに適した坂道を紹介するサイトを立ち上げた、千葉県に住む自転車愛好家、永井直樹さんに聞いてみました。

永井さんによりますと、遠く離れた場所に出向いてサイクリングを楽しみたいときや、各地で開かれる競技大会やイベントに参加するときなど、鉄道を利用するということです。行きは自転車に乗った場合も、例えば100キロ以上の道のりを走破して疲れたときや、体調を崩したとき、また、行った先でお酒を飲んだときなどは、帰りに鉄道を利用することがあるそうです。

永井さんは、「『健康のため』や『格好よくなりたい』など、動機はさまざまですが、旅先でそれぞれ違った風景を楽しめるのが魅力です」と思いを語ってくれました。遠くまで足を運んででもサイクリングを楽しみたいという愛好家が多いようです。
自転車愛好家の永井直樹さん

広がる自転車人気 観光振興も

今、こうした愛好家が増え、サイクリングブームとなっています。自転車産業振興協会の統計によりますと、愛好家などが乗る「ロードバイク」や「クロスバイク」の販売台数は、平成15年度には1つの店舗あたりの平均が6.4台でしたが、平成23年度にはおよそ4倍の24.9台に増えました。その後、統計の取り方が変わりましたが、最近は30~40台ほどにのぼるということです。
ブームを受けて、サイクリングを目当てにした人たちを呼び込み、観光振興につなげようという地域も出ています。広島県と愛媛県を結ぶ「しまなみ海道」は、瀬戸内海の風景を眺めながら自転車で走れる「サイクリストの聖地」として知られています。地元の県などは、大規模なサイクリング大会を開くほか、道路に推奨ルートを示したり、休憩やパンク修理のための施設を整備したりしています。

滋賀県では、びわ湖の周りを自転車で1周する「ビワイチ」が人気で、周辺では、自転車を部屋に持ち込める宿泊施設があるほか、地元の自治体が自転車専用道路の整備を進めるなど、地域ぐるみで愛好家を呼び込もうとしています。

「輪行」でトラブルも

こうした中、自転車を鉄道に持ち込む人が増え、一部でトラブルも起きているのです。鉄道会社には、車両の出入り口付近に置いてほかの乗客の乗り降りが難しくなったり、通路を塞いでしまったりしたケースが報告されているということです。また、袋の生地が薄いため、ほかの乗客が、中のハンドルやペダルなどのパーツに体をぶつけて痛い思いをした、というクレームが駅員に寄せられることもあるそうです。
JR四国では、愛好家に気兼ねなく利用してもらおうと、ことし3月から、愛媛県の松山市と宇和島市を結ぶ特急「宇和海」に、自転車専用のスペースを導入しました。自転車をそのまま持ち込めるということですが、こうした列車は限られていて、愛好家たちは、大きな袋を抱え、一般の鉄道を利用しているのです。
自転車専用スペース

求められるマナーとは

それでは、トラブルを避けるにはどんな対応が必要なのでしょうか。全国で35店舗を展開する自転車販売会社では、購入した人に適切な「輪行」の方法を紹介し、動画をインターネットで公開しています。

この中で、次のようなことを呼びかけています。

▽解体の作業は、迷惑にならない安全な場所で行うこと。
▽自転車は前輪だけでなく後輪もフレームから外し、できるだけコンパクトにすること。
▽乗車する際は、混んでいる時間帯や車両を避けること。
▽乗車したら邪魔にならない場所に置いて、そばから離れないこと。
▽特急などでは車両の一番後ろの座席を予約して、その後ろのスペースなどに保管すること。
▽ベビーカーや車いす用のスペースに置いた場合は、必要になったらすぐに場所を空けること。
▽袋の中のパーツがほかの乗客にあたらないよう、十分配慮すること。
松坂佳彦さん
この自転車販売会社「ワイズロード」の広報宣伝チームの松坂佳彦部長は、「自転車を持ち込む『輪行』は、40年ほど前は、競輪選手が移動する場合などにしか認められませんでした。その後、一般の乗客や鉄道会社の理解が進み、愛好家などにも認められるようになったという経緯があります。マナーや心遣いを忘れて迷惑をかけてしまうと、以前のように持ち込めなくなるかもしれません。どこに乗ればいいか迷ったときは、駅員に相談するなどして細心の注意を払ってほしい」と話していました。

サイクリング中だけでなく、行き帰りも互いに爽快な気分で過ごせるよう、自転車とともに、ぜひ、心遣いも持ち込んでほしいと思います。
自転車ブーム 鉄道への持ち込みは迷惑?

News Up 自転車ブーム 鉄道への持ち込みは迷惑?

夏の行楽シーズン。旅行や帰省で、長時間、鉄道に乗ったという人も多いと思います。そんな中、多くの人で混み合う車内に置かれていたある荷物が、ネット上で批判を浴びました。何が問題なのか、そして解決策は何か、探りました。(ネットワーク報道部記者 飯田耕太)

“迷惑だ!”と話題に

帰省ラッシュで混雑する今月12日。新幹線の車内で撮影されたある写真が、ネット上で話題になりました。
“迷惑だ!”と話題に
通路に横たわる大きな荷物。中身は自転車なんです。自転車を鉄道やバスなどの公共交通機関に持ち込んで運ぶことを「輪行(りんこう)」と呼ぶそうです。

写真を投稿した人は「車内販売のワゴンが通れない」とつぶやき、ネット上でも批判の声が相次ぎました。中には、「なんでチャリで新幹線のるの?普通に意味わかんない」という書き込みもあり、「そもそも鉄道の車内に自転車を持ち込んでいいのか」といった疑問の声もあがっていました。

規則では…

規則ではどうなっているのでしょうか。

JRグループの「旅客営業規則」では、手回り品について、

▽縦、横、高さの合計が250センチ以内、
▽長さ2メートル以内、
▽重さが30キロ以内のものは、
2個まで持ち込めるとされています。

新幹線も同じです。スーツケースや楽器、サーフィンやスキーの板なども、この規則が適用されます。自転車はそのまま押して乗ることはできず、折りたたむか解体するかして、すべて専用の袋に収めなければなりません。

ただ、大きな自転車の場合も、前輪と後輪をともに外して袋に入れれば、ほとんどの場合、持ち込めるということです。私鉄各社も多くが同じような条件で持ち込みを認め、そのうえで、ほかの乗客の迷惑にならないよう配慮を求めています。
規則では…
JRグループのチラシより

なぜ自転車を鉄道に?

そもそも、移動手段である自転車を、なぜ鉄道に持ち込むのでしょうか。

ことし、サイクリングに適した坂道を紹介するサイトを立ち上げた、千葉県に住む自転車愛好家、永井直樹さんに聞いてみました。

永井さんによりますと、遠く離れた場所に出向いてサイクリングを楽しみたいときや、各地で開かれる競技大会やイベントに参加するときなど、鉄道を利用するということです。行きは自転車に乗った場合も、例えば100キロ以上の道のりを走破して疲れたときや、体調を崩したとき、また、行った先でお酒を飲んだときなどは、帰りに鉄道を利用することがあるそうです。

永井さんは、「『健康のため』や『格好よくなりたい』など、動機はさまざまですが、旅先でそれぞれ違った風景を楽しめるのが魅力です」と思いを語ってくれました。遠くまで足を運んででもサイクリングを楽しみたいという愛好家が多いようです。
なぜ自転車を鉄道に?
自転車愛好家の永井直樹さん

広がる自転車人気 観光振興も

今、こうした愛好家が増え、サイクリングブームとなっています。自転車産業振興協会の統計によりますと、愛好家などが乗る「ロードバイク」や「クロスバイク」の販売台数は、平成15年度には1つの店舗あたりの平均が6.4台でしたが、平成23年度にはおよそ4倍の24.9台に増えました。その後、統計の取り方が変わりましたが、最近は30~40台ほどにのぼるということです。
ブームを受けて、サイクリングを目当てにした人たちを呼び込み、観光振興につなげようという地域も出ています。広島県と愛媛県を結ぶ「しまなみ海道」は、瀬戸内海の風景を眺めながら自転車で走れる「サイクリストの聖地」として知られています。地元の県などは、大規模なサイクリング大会を開くほか、道路に推奨ルートを示したり、休憩やパンク修理のための施設を整備したりしています。

滋賀県では、びわ湖の周りを自転車で1周する「ビワイチ」が人気で、周辺では、自転車を部屋に持ち込める宿泊施設があるほか、地元の自治体が自転車専用道路の整備を進めるなど、地域ぐるみで愛好家を呼び込もうとしています。

「輪行」でトラブルも

こうした中、自転車を鉄道に持ち込む人が増え、一部でトラブルも起きているのです。鉄道会社には、車両の出入り口付近に置いてほかの乗客の乗り降りが難しくなったり、通路を塞いでしまったりしたケースが報告されているということです。また、袋の生地が薄いため、ほかの乗客が、中のハンドルやペダルなどのパーツに体をぶつけて痛い思いをした、というクレームが駅員に寄せられることもあるそうです。
JR四国では、愛好家に気兼ねなく利用してもらおうと、ことし3月から、愛媛県の松山市と宇和島市を結ぶ特急「宇和海」に、自転車専用のスペースを導入しました。自転車をそのまま持ち込めるということですが、こうした列車は限られていて、愛好家たちは、大きな袋を抱え、一般の鉄道を利用しているのです。
自転車専用スペース

求められるマナーとは

それでは、トラブルを避けるにはどんな対応が必要なのでしょうか。全国で35店舗を展開する自転車販売会社では、購入した人に適切な「輪行」の方法を紹介し、動画をインターネットで公開しています。

この中で、次のようなことを呼びかけています。

▽解体の作業は、迷惑にならない安全な場所で行うこと。
▽自転車は前輪だけでなく後輪もフレームから外し、できるだけコンパクトにすること。
▽乗車する際は、混んでいる時間帯や車両を避けること。
▽乗車したら邪魔にならない場所に置いて、そばから離れないこと。
▽特急などでは車両の一番後ろの座席を予約して、その後ろのスペースなどに保管すること。
▽ベビーカーや車いす用のスペースに置いた場合は、必要になったらすぐに場所を空けること。
▽袋の中のパーツがほかの乗客にあたらないよう、十分配慮すること。
松坂佳彦さん
この自転車販売会社「ワイズロード」の広報宣伝チームの松坂佳彦部長は、「自転車を持ち込む『輪行』は、40年ほど前は、競輪選手が移動する場合などにしか認められませんでした。その後、一般の乗客や鉄道会社の理解が進み、愛好家などにも認められるようになったという経緯があります。マナーや心遣いを忘れて迷惑をかけてしまうと、以前のように持ち込めなくなるかもしれません。どこに乗ればいいか迷ったときは、駅員に相談するなどして細心の注意を払ってほしい」と話していました。

サイクリング中だけでなく、行き帰りも互いに爽快な気分で過ごせるよう、自転車とともに、ぜひ、心遣いも持ち込んでほしいと思います。