ニッカウヰスキーの復刻版第二弾として、ハイニッカの復刻版が発売されました。

1964年、東京オリンピックが開催された年に、より多くの人にウイスキーを飲んでもらいたいと、ジャスト500円の価格で発売されたのがハイニッカでした。

当初は2級ウイスキーとして販売されましたが、1964年当時の酒税法では2級ウイスキーで使えるモルトウイスキーの割合の上限に制限がかけられていて、最低限の割合は明記されていませんでした。
つまり、1%もない割合しかモルトウイスキーを入れてなくても2級ウイスキーとして販売できていました。
ウイスキーの等級の変遷については、こちらのサイトに詳しく載っています

ニッカ創業者でマスターブレンダーでもあった竹鶴政孝は、このような等級制度に反抗するかのごとく、自由に原酒の使える特級ウイスキーのみを販売していましたが、酒税などの影響で高級な価格帯のものしか出せず、苦戦を強いられることとなりました。
自らのポリシーに反する中で苦心の末に出した等級の低いウイスキーも出したものの、やはり最後の抵抗でモルト原酒の上限ギリギリまで入れたことでコストが上がってしまい、好転することはありませんでした。

その後、アサヒビールが筆頭株主になると、同社の営業担当者が、価格を下げて利益率が低くなっても、多く売ることで売り上げを伸ばし、結果的に多額の利益を得られる、と助言し、1956年に、2級ウイスキーでモルト原酒の割合ギリギリ(当時ではまだ5%未満が限界だった)まで配合した「丸びんニッキー」を低価格で販売したことで、やっとニッカの経営が軌道に乗るようになりました。

そして酒税法が1962年に改正されて、2級ウイスキーにおけるモルト原酒の割合が10%未満まで引き上げられると、竹鶴は新しい限界ギリギリの原酒配合率とアルコール度数(40度未満)を持つ、低価格の新しい2級ウイスキーとしてハイニッカを開発しました。

竹鶴は当初、ラベルに書いているように「ハイハイニッカ」として出したかったようです。
今はオーディオ用語として一般的になった「Hi-Fi」(高い再現性、充実度)という意味合いを出すとともに「はいは~い」と、気軽に持ち出されるような親しまれるウイスキーにしたいという思いを込めたようです。
しかし当時の経営陣に反対され、ラベルに「HiHi」と書かれつつも、ハイニッカとしてデビューしました。

竹鶴自身はこのハイニッカに思い入れをしており、晩年の晩酌用のウイスキーとして常飲し、宮城峡蒸溜所の場所を選定する際にも、近くにあった新川川の水でハイニッカを割ったときの味を決め手にしたほどです。
一番売れているウイスキーこそ一番大事にしなければいけない。
スコッチウイスキーに負けない本格的なウイスキー作りを夢見た若者が、最後には一番親しまれるウイスキーを大事にしたのは興味深いです。

hi_nikka_firstさて、当時は2級ウイスキーとして売られていて、主原料としてモルト原酒は少なく、スピリッツを多く含んだものでしたが、今回の復刻版では使わず、モルトとグレーンのみの構成になっています。
おそらくはスピリッツではなく、グレーンウイスキーのニューメイク(蒸留して熟成させていない原酒)を代用しているのではないかと思われます。

比較として、現行品も飲んでみます。

初号の方は、飲み始めからアルコールの刺激と辛みが強く出ています。それ以外の香りも少なく、わずかにナシのようなさわやかな香りが少しくるほどです。
味わいはアルコールの刺激を除けば比較的甘めです。

加水されていくと、アルコールの刺激が少なくなって、ナッツやカラメルの香りがやってきます。しかし引き立つほどの香りの出方はせず、すぐ飲んだときには感じにくくなっています。
味わいもアルコールの辛さがなくなってとてもスムーズになります。

現行品では、飲み始めで初号ほどのアルコールの刺激は少なく、最初からカラメル、ナッツ、ウッディな香りがやってきます。
味わいは甘さがメインですが、アルコールの辛みが少ないのでストレートやロックでも飲みやすくなっています。 
加水しても華やかな香りは衰えず、味わいも甘さが継続していて十分に味わえます。 

比較すれば、酒税法の改正でスピリッツを使わずに済む現行品に軍配が上がりますが、復刻版で当時のニッカの苦心を舌と鼻で感じていくことが本意でしょう。

しかし、現在のスピリッツを混ぜた安物ウイスキーや、サントリーのトリス、レッドと比べても、ウイスキーとしての最低限の香り、味を残し、体をなしているのはさすがだと思います。
実際には、当時のハイニッカのコスパに慌てふためいたサントリーがレッドを出し、1280mLのダブルサイズサイズで900円の価格を打ち出して対抗しました。

価格は720mL、39度で1400円。現行品が1000円ほどですから、コスパだけで考えるとつらいところです。

評価については、あえてマッサンの影響で買った人の気持ちで辛くつけたいと思います。 

<個人的評価>
・香り D: アルコールの刺激が強い。ナシの香りがするが心許ない。 加水でカラメルやナッツがくる。
・味わい C: ストレートではアルコールの辛さが勝る。割ることで甘さが引き立ってくる。
・総評 D: 現在のスピリッツを混ぜたウイスキーよりもまし。割って飲むのがいい。当時の苦労を体感することを念頭に入れるべき。