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【社会】

表現の自主規制 つまんない世の中 漫画家クミタ・リュウさん 投句で警鐘

「平和の俳句」に込めた思いを語る汲田隆彦さん=東京都練馬区で

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 <共謀罪三鬼不死男(さんきふじお)を又(また)泣かす>。八月十九日の語呂で「俳句」の日の本日、一面「平和の俳句」の作者、汲田隆彦(くみたたかひこ)さん(77)=東京都練馬区=はクミタ・リュウのペンネームで知られる漫画家だ。俳人の西東(さいとう)三鬼、秋元不死男らが治安維持法違反容疑で検挙された一九四〇年代前半の「新興俳句弾圧事件」に、「共謀罪」法が施行された現在を重ね合わせる。(小佐野慧太)

 汲田さんは、政治・社会を風刺する一コマ漫画を半世紀にわたって描き続けてきた。きっかけは中学生の時、米国による水爆実験で日本人の乗組員たちが被ばくした第五福竜丸事件だった。当時、事件を風刺する漫画を数多く発表していた故横山泰三さんにあこがれた。「漫画家ってすごい。しっかりと社会にメッセージを発信できるんだなあって。これに一生をかけてみようと思ったんです」

 俳句は長年の趣味だったが、七十歳の頃から俳人の松川洋酔(ようすい)さんに師事して基礎から習い始めた。「一コマ漫画って、言いたいことを全部言っちゃうより、半分くらい手の中に隠しておくと深みが出る。俳句も似たところがあるんですよ」

 「平和の俳句」は今回の四回目の投句で初入選。題材にした新興俳句弾圧事件を十年ほど前、知った。「投獄される俳句ってどんなものかなと思ったらね、それほど恐ろしい句じゃないですよ」。三鬼と不死男の二人なら「共謀罪」法をどう見るかと考えてみた。「天国で泣いているんじゃないかなと思ってね」

 汲田さんは今回、「共謀罪」をテーマにした漫画を本紙に寄せてくれた。漫画家が背後に迫る手錠におびえ、ぶるぶる震えている。「漫画家は自分の理性で、これは描いてええ、よくないっていうのを判断している。それが上から縛られて、はたして表現がまともにできるのかって」

 終戦から七十二年を経て、漫画は表現の幅を広げ、影響力を増した。「漫画家が自主規制するようになったりしたらとても悲しいことだし、つまんない世の中になりますよ。ええ」

 自身は絵の中の漫画家とは反対に「『共謀罪』ができて、熱い作品を描きたいと思うようになりました」と笑う。「風刺された当人が一本とられたな、文句言いたいけれど言えないなっていう作品を目指して、これからも描き続けますよ」

 <くみた・たかひこ> 岐阜県大野町出身。広告代理店に勤めながら漫画の発表を続け、四十一歳で上京と同時に独立した。モントリオール国際漫画展一位(一九七七年)、中日マンガ大賞(九三年)など国内外で多数の受賞歴がある。三十年以上にわたり、本紙に閣僚の似顔絵や風刺漫画を描いている。

 <新興俳句弾圧事件> 「新興俳句」は無季や自由律を試みる1930年代からの新しい俳句運動のことで、日中戦争勃発後は<砲音に鳥獣魚介冷え曇る>(西東三鬼)など戦争を題材にした作品も多く書かれた。俳誌「京大俳句」の同人だった三鬼ら15人が検挙された40年の「京大俳句事件」を皮切りに、秋元不死男が参加する俳誌「土上(どじょう)」など俳句結社が次々に摘発を受けた。特高警察は43年までに治安維持法違反容疑で計40人以上を検挙、うち13人が有罪判決を受けた。

 

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