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【社説】

水俣条約 名前が背負う重い意味

 水銀の使用や輸出入を規制する水俣条約が発効した。「繰り返すな」という願いをその名にこめて。フクシマやヒロシマ、ナガサキにも通じるミナマタの訴えに、世界は、日本は、どうこたえるか。 

 水俣条約。正式には、水銀に関する水俣条約-。二〇一三年に熊本市と熊本県水俣市で開催された国際会議で採択された。

 東南アジアやアフリカなどで深刻な健康被害につながる恐れが指摘される水銀の輸出を規制し、水銀を使った化粧品や血圧計、水銀が一定量以上含まれる蛍光灯などの製造、輸出入を二〇年までに原則禁止する。鉱山からの採掘も十五年以内にできなくなる。途上国の採掘現場で、金を抽出する際に使われる水銀の使用と排出を削減、廃絶をめざす-。

 条約制定と命名は、日本政府が主導した。

 “公式発見”以来六十年余、「公害の原点」とも呼ばれる水俣病は、化学工場が海に垂れ流した水銀が魚食を通じて無辜(むこ)の住民に摂取され、重い脳障害を引き起こした「事件」である。母親を通じて取り込んでしまった胎児にも、生涯残る深刻な影響を及ぼした。

 水俣の悲劇を繰り返してはならない、忘れてはならない-。そんな切なる願いがこもるその名前。患者とその家族の長年の思いを込めた約束なのである。

 その日本から、一三年には七十七トンの金属水銀が輸出されている。率先して廃絶へ向かうのは当然だ。

 水俣条約の名前は国内的にはもう一つ、重い意味を持っている。

 水俣病という病の定義はいまだ確定していない。従って被害の範囲も定まらず、患者としての認定を求める訴訟も後を絶たない。「病」の正体は未解明、「事件」は終わっていないのだ。

 「病」は恐らく終わらない。だが、原因と責任を明確にして、すべての被害者を救済すれば「事件」に決着はつけられる。

 九月にスイスで開かれる水俣条約第一回締約国会議には、胎児性患者の坂本しのぶさん(61)が参加して「水俣病は終わっていない」と訴える。不自由な体を励まし、痛みに耐えて、「今できることをしたい」と決意した。その勇気に心から敬意を表したい。

 忘却による清算は、繰り返しの土壌である。原発事故の救済や核廃絶にも通じることだ。

 世界は坂本さんと水俣の思いにこたえ、「今できること」をすべきである。 

 

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