ダイエットといえば、摂取カロリーと消費カロリーの差が体重増加を生むとするカロリー制限ダイエットが根強く残っています。
肉や脂などの高カロリー食品を避け、野菜などのカロリーの低い食べ物を積極的に食べて、総摂取カロリーを抑えるという考えです。
カロリーだけを追いかけて食事を考えると、たとえ高カロリーのお菓子やアイスを食べたとしても、あとでカロリー計算アプリを使って一日の摂取カロリーの帳尻を合わせればOKということにもなります。
また、肉や脂肪などの高カロリーな食べ物を食べてしまっても、その分運動して消費カロリーを増やせばOKということにもなります。
一方で、糖質制限やMEC食などでは「カロリーは関係ない」「太る要因は糖質だ」という主張が盛んに行われています。しかし、高タンパク食を長く実践すると太ってしまう人がたくさんいることに対しては、十分な説明ができているとは言えない状況です。
そうすると「やはりカロリーの摂り過ぎは太る」という概念が再び浮かび上がってきます。
残念ながら今まで常識とされていたこれらの考え方は、全て誤った理論に基づいています。
ほとんどの場合、カロリー制限ダイエットでは成功できません。
それどころかカロリー制限に基づく考え方が、摂食障害や2型糖尿病の合併症などを生み出し、多くの悲劇を引き起こす要因となっています。
sponsored link
1日5000kcalを21日間取り続けたサムの実験
太る原因がカロリーでないことを示した有名な実験があります。
イギリス人のサム・フェルサムは毎日5000kcal以上の天然の食品のみを21日間食べ続け、体重がどのように変化するのか自分の身体で調べました。
高脂肪食:LCHF食(炭水化物10%脂肪53%タンパク質37%)で1日あたり5794kcalを21日間摂取した場合
一日のカロリーの半分以上を脂肪で摂取し、炭水化物を10%にしてトータル5794kcalを摂取し続けた場合、理論上では21日間で7.3kgの体重増加が起こることが予想されます(下記グラフ黄色)。
しかし、実際のサムの体重増加は僅か1.3kgでした(グラフ青)。また、21日後ウエストのサイズは始める前よりも3cm細くなっていました(グラフ赤)。
この結果は、体重は増えたものの実際には内臓脂肪が減っていることを示します。
また、経過写真を見たら分かる通り、高脂肪食(LCHF食)を続けても全く体型に変化がなかったことが分かります。
高炭水化物食(炭水化物64%脂肪22%タンパク質14%)で1日あたり5794kcalを21日間摂取した場合
一方、全く同じカロリーで、炭水化物の割合を増やし脂肪の割合を減らした食事を21日間取った場合、サムの体重はどうなったでしょうか?
この比率はいわゆるアメリカの栄養学会が推奨する「バランスの良い食事」の割合です(日本もほぼ同じ)。
結果は下のグラフの通り、サムの体重は理論値とほぼ一致して7.1kg増えました。またウエストサイズは9.25cm増加。
さらに、下の写真でも分かるとおり、腰には天然の浮き輪が付き始め、二重顎も成長し始めてきていることが分かります。
ヴィーガン食(菜食100%)で1日あたり5794kcalを21日間摂取した場合
ヴィーガンとは完全菜食主義のことで、一部有名人が行っていたりするため、健康に良いイメージが強い食事法でもあります。
サムがヴィーガン食で1日5794kcalを21日間摂取し続けたところ、体重は4.7kg増加、ウエストは7.75cm増加しました。体脂肪率も12.9%から15.5%に増加。
腰周りや顎に脂肪が蓄積していることがわかります。
これらの結果から、同じカロリーであっても、高炭水化物低脂肪では短期間でもすぐに太るのに、低炭水化物高脂肪(LCHF)では逆に脂肪の燃焼が進んでいることが分かります。
また、痩せるイメージの強いヴィーガン食でさえ、最も太るイメージの強い高脂肪食よりも太ってしまいました。
すなわち、ダイエットためには何を食べたかが重要であって、カロリーで太るわけではないということがこの実験から分かります。
サムの体重は高脂肪食(LCHF食)でなぜ増えなかったのか?
ではなぜ、サムは高脂肪食でも体重が増えなかったのでしょうか?ここに最も重要な事実が隠されています。
摂取カロリーと消費カロリー
カロリー制限ダイエットは、摂取カロリーと消費カロリーが完全に独立した値であるという前提があります。
例えば、財布に5000円が入っていて、3000円の洋服を買えば残りは2000円になります。
仮に6000円の服が欲しかったとしても、突然財布の中身が6000円に増えることなんてないですし、店員さんがこちらの財布の中身が5000円だと分かった途端、3000円の洋服の値段を5000円に値上げするようなことも現実にはありません。
財布の中のお金も、洋服の価格も完全に独立していて、相互作用することのない値です。
しかし、摂取カロリーと消費カロリーにおいては、これとは異なります。
摂取カロリーが増えれば消費カロリーも増え、消費カロリーが増えれば食欲として摂取カロリーを増やそうと働きかけます。
サムの体重が高脂肪食でも増えなかったのは、エネルギー源である脂肪がが増えたために体が基礎代謝を上げて消費カロリーを増やしたためです。
これにより、サムが食べた脂肪は蓄積されることなく、どんどんエネルギーに使用されていきました。
体重のセットポイント理論
人の身体には高感度サーモスタットのような体重セットポイント機構が存在します。
エアコンを20℃に設定したら、常に部屋の温度が20度になるように風を強めたり弱めたりするのと同じように、体重セットポイントが60kgなら、身体は常に60kgを維持しようと働きかけます。
摂取カロリー(食事量)が増えて、体重が増えそうだと身体が判断すれば、消費カロリーを増やし60kgを維持しようとします。
このように、摂取カロリーと消費カロリーは常に連動していて、独立した値ではないことがカロリー理論の根本的に間違っている部分です。
レプチンの機能
サムが高脂肪食を食べ続けても太らなかったのは、レプチンが正常に機能していたということも重要です。
レプチンは脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの一つで、食欲を抑制しエネルギー代謝を活性化させる機能があります。
エネルギー代謝を抑制し脂肪を蓄積させるインスリンとは本質的には相反する働きをします。
問題となるのは、インスリンが持続的に分泌され続ける場合です。
なぜならインスリンはレプチンの阻害剤として機能しているのではないかと考えられているからです。
インスリンが持続的に分泌され脂肪の蓄積が進むと、本来であればエネルギー代謝を促そうとしてレプチンも分泌され続けます。しかし、インスリンの影響でレプチンの本来の機能が阻害されると、レプチンレベルはさらに高くなります。レプチンが持続的に高い状態が続くと、レプチン抵抗性(レプチンの効きが悪くなる)が出現してしまいます。
高炭水化物食でサムの体重が増えたのは、持続的にインスリンレベルが高い状態が続いたために、レプチンの機能が弱められたこと(あるいは抵抗性が出現したこと)によって、蓄積される脂肪の方が多くなってしまったことが原因です。
カロリーは一切関係がありません。
基礎代謝と運動による消費エネルギーの関係
1日に消費されるエネルギー量の割合
人の体内で使われるエネルギーには、基礎代謝と活動誘発性体熱産生(身体活動代謝)と食事誘発体熱産生の三つがあります。
- 基礎代謝とは心臓や肝臓などの内臓を機能させるのに必要なエネルギーで、何も活動しなくても消費されるエネルギー
- 活動誘発性体熱産生とは日常的な身体的活動によって消費されるエネルギー
- 食事誘発体熱産生とは、食べ物を消化・吸収する際に発生するエネルギー
|
これらの割合は、基礎代謝が60-70%、活動誘発性体熱産生が20-30%、食事誘発体熱産生が10-20%程度です。
つまり、体のエネルギーの多くは基礎代謝に使われていて、活動(運動)によるエネルギー消費は考えている以上に少ないことが分かります。
運動しても痩せない
「痩せるためには運動が必要」という考えはあまりにも常識過ぎて、これがウソだと言ってもなかなか信じてもらえない現実があります。
しかし、どんなに有酸素運動を頑張っても痩せることはありません。
正確に言えば、体重は一時的に落ちます。でもほとんどの場合はリバウンドするか、リバウンドをしなくても常に空腹感(過食欲)を感じながら過ごすことを強いられます。
例えば、一日の総消費エネルギーが3000kcalで基礎代謝が2000kcalの人が、運動を始めて1500kcalの活動誘発性体熱産生を生み出したとします。
すると、体は基礎代謝のエネルギー500kcalを削り、運動の方にエネルギーが回るように促します。
もしそれでも追いつかない場合は、食欲を高め摂取エネルギーを増やそうとします。体重のサーモスタットが機能するからです。
さらに消費エネルギーを増やせば(あるいは摂取カロリーを減らせば)、体重は減っていきます。多くの人はこれをダイエット成功と捉えるかもしれません。
しかし実際は、基礎代謝も減少するので、非常にリバウンドしやすくなります。さらに、リバウンドした後も基礎代謝はすぐに回復しないので、元の体重に戻っても体脂肪だけが上昇し太りやすい体が出来上がってしまいます。
もし運動で痩せて常に空腹感や過食欲を感じる場合は、基礎代謝が落ちていて体重のセットポイントと実際の体重に差が生じていることが考えられます。
人体では熱力学第一法則は成り立たない
カロリー制限ダイエットは熱力学第一法則に基づいています。
熱力学第一法則とは、系が得たエネルギーと外界が失ったエネルギーは同じであるという法則です。
例えば、ガスバーナーを使って水を温める場合、水が得たエネルギーと消費したガスのエネルギーは等しいということになります。
カロリー制限理論も得たエネルギーと失ったエネルギーで成り立っているので、熱力学第一法則に基づいていると言えるわけです。
しかし、熱力学第一法則には大事な前提条件があります。
それは「熱力学的孤立系において」という条件です。
熱力学的孤立系とは、物質もエネルギーも外界とやり取りがない系のことを言います。宇宙で最も大きな孤立系は宇宙です。近似的にみれば、ガスバーナーと水という系も孤立系になります。
一方、人の体はどうでしょうか?
食べ物と運動、基礎代謝以外にエネルギーや物質のやり取りはないでしょうか?
いえ、そんなことはないはずです。
私達の体は37℃という体温を維持することによって、外気を暖めています(エネルギーを放出している)。
汗や便によって、物質を体外に放出しています。
つまり、人の体は熱力学第一法則を適用する前提条件が整っていません。
言い換えれば、熱力学第一法則に基づくカロリー理論は、人体に適用できないということになります。
食品成分表のカロリーはでたらめ
市販されている食品を手に取って裏の成分表を見たとき、最初に目が行く項目はどこでしょうか?
糖質?タンパク質?
恐らく、多くの人がカロリーを最初に見てしまうのではないでしょうか。
実はこのカロリーの値、でたらめです。
成分表のカロリーはどうやって測定されているのか?
一般的に脂肪は1g=9kcal、炭水化物・タンパク質は1g=4kcalと言われています。これはどうやって測定されたのでしょうか?
これらは大気中で食品を完全に灰になるまで燃焼させ、その時に得られるエネルギー量によって定義されています(他にも測定方法はあります)。
私達が食べ物を食べて、体内で本当に火が付くわけではないことはみんな知っています。つまり、これらの数値は体内で生み出されるエネルギー量とは異なります。
実際に体内では何kcalが生み出されるのか?
脂肪1gが体内でAPT(アデノシン三リン酸)を作り出し、私達が活動に必要なエネルギーを得るとき、いったいどれくらいのカロリーになるのでしょうか?
これを計算したサイトがこちらですが、パルチミン酸を用いた計算によると、脂肪1gで得られるエネルギー量は3.97kcalとなるようです。
これは、一般に言われている1g=9kcalよりずっと小さい値です。
上記サイトでは、「エネルギー効率が100%ではない」と考察されていますが、この計算ではそもそも脂肪酸が100%エネルギーに変えられた場合を仮定しているので、1g=3.97kcal以上になることはありえません。
もちろん、1gの脂肪を食べたら3.97kcalが出てくるかどうかは、インスリンとレプチンの機能に委ねられるので、この数値を用いてカロリーを計算することもナンセンスです。
結論
結局のところ、食べたものが体内でどれくらいエネルギーに回されてどれくらい脂肪として蓄積されるのかなんてことを、あらかじめ見積もることはできないということになります。
私達の身体がその時々の状態を判断し、インスリンとレプチンのバランスによって脂肪蓄積とエネルギー代謝の比率が決定されます。
つまり、ダイエットに最も関係するインスリンとレプチンという二つのホルモンを正常に機能させることこそ、ダイエットの成功の秘訣と言えます。
ホルモンの正常化には、間欠的ファスティングも有効です。
しかし、それ以上に自分の「食欲」という応答に正しく耳を傾ける訓練をする必要があると私は考えています。
まとめ
- サムの実験から、同じカロリーでも食べる内容が変われば、太ることも痩せることもある。
- 高炭水化物低脂肪食では、インスリンが持続的に分泌されることによって、レプチン抵抗性が出現し、エネルギー代謝が抑制されることによって体重増加が起こる。
- 一方、高脂肪低炭水化物では、インスリンとレプチンが正常に機能し、脂肪を大量に摂取してもエネルギー代謝によって脂肪の蓄積は起こらない。
- 人の体には、エアコンの設定温度のように、体重のセットポイントが存在し、そのセットポイントを維持しようとする機能がある。
- 摂取カロリーが増えれば、消費カロリーを増やす。消費カロリーが増えれば食欲を通じて摂取カロリーを増やす。
- 人体の消費エネルギーの多くは基礎代謝。運動による消費エネルギーは僅かであり、やりすぎると基礎代謝を下げることになる。
- 人体では熱力学第一法則は成立しない。したがってカロリー理論も成立しない。
- 食品成分表のカロリーは外で測定された燃焼エネルギーであり、体内で産生されるエネルギー量とは異なる。
- 巷で言われている脂肪1g=9kcalは体内で生み出される値とは異なる。
- インスリンとレプチンを正常化させることがダイエットの成功の鍵
sponsored link
reference