兄が失踪した。
理由はおそらく就職した会社のことで、毎日疲れて帰ってきては、いつの間にか座椅子なんかで寝てしまっているような、そんな生活を送っていた。
出て行く前夜、普段はふざけて頭を叩くような兄が珍しく、本当に珍しく私の頭を撫でた。その撫で方があまりにも優しくて、兄じゃない誰かに撫でられたような心地さえして、居心地の悪くなった私は「どうしたの?こわいよ〜」なんて笑って返した。兄も笑っていた。その翌日、朝ごはんを食べて出社するふりをしてそのまま兄はいなくなった。
いま、どこで何をしていますか。貴方がいなくなって、家が少し広くなって、一緒に見ようって撮りためた録画も、買いだめしたお菓子も消費されません。元気でやってますか。のんびり休んでいますか。