ムラサキウニ 高級食材に 厄介者返上 大好物キャベツで養殖 神奈川県水産センター
2017年06月27日
廃棄される規格外のキャベツや外葉(神奈川県三浦市で)
キャベツを好んで食べるムラサキウニ(神奈川県三浦市で)
流通しない規格外のキャベツが救世主に――。海藻を食い荒らす海の厄介者として駆除されるムラサキウニを、地元特産のキャベツで養殖して特産化するプロジェクトが進んでいる。神奈川県水産技術センター(三浦市)が甘味のある良質なウニに変身させることに成功した。出荷できない規格外品が使え、地元農家にとっても朗報だ。
同県の三浦半島西岸では10年前から海藻が減る「磯焼け」で、サザエやアワビが減るなどの問題が発生していた。一因として挙げられたのがムラサキウニの大量繁殖。同センターでは「地球温暖化による海水温の上昇で、冬場も海水温が下がらず、ムラサキウニが生息しやすい環境になったため」とみる。
食用ウニはバフンウニが主流。天然のムラサキウニは身の部分である生殖巣が育たないことから食べられず、「漁獲対象でなく、駆除するしかなかった」(同センター)。
「生態系に悪影響を与えるムラサキウニを何とかしなければ」と考えていた同センターの主任研究員、臼井一茂さん(48)が2年前、周辺で捕ったムラサキウニを育て始めた。先輩のウニ専門家が「ウニは何でも食べる」と話していたのがヒントになった。水槽で、パンの耳やマグロの切れ端などを与えてみた。
特に好んで食べたのはキャベツ。ダイコンなどは表面の硬い部分しかかじらなかったが、キャベツは1玉を、80匹のムラサキウニがたった3日でほぼ食べ切ったという。
キャベツを与えた結果、ムラサキウニの身が充実。成分検査では甘味やうま味の成分が多く、食用に流通するキタムラサキウニと同等の成分構成だった。食味試験でも食用として通用すると判断した。
三浦半島は、キャベツの大産地。三浦市農協とJAよこすか葉山の共販推進組織「特産・三浦野菜生産販売連合」は今年5月末までに、342万ケース(1ケース約10キロ)を出荷した。柔らかく甘いのが特徴だ。
しかし、出荷されない割れたキャベツや外葉は捨てるか、畑にすき込んで緑肥にするしか処理方法がなかった。
今回、県農業技術センター三浦半島地区事務所が週1回、規格外のキャベツや外葉など計30キロを提供した。同事務所主任研究員の太田和宏さんは「捨てるものが新たな特産作りにつながり、地域振興に役立つのは良いこと」と期待する。三浦市農協も「規格外や廃棄される春キャベツを使って、ムラサキウニをおいしい食材として商品化するのに役に立てる」(営農課)と、取り組みを歓迎する。
今後の実証実験では、うま味成分のあるグルタミン酸を含むブロッコリーの利用も検討。どのタイミングで与えるべきか、研究を進める方針だ。他の野菜や海藻を与えたときに、どう食感が変化するのかも調べる。
センターでは、三浦市内で28日にムラサキウニの試食会を行う。臼井さんは「養殖したウニは甘さが強いので、スイーツなどにも使えると考える。今後は、地元の三崎のマグロなどと組み合わせて、オール三浦産の料理を生み出したい」と展望する。(中村元則)
甘味も うま味も
同県の三浦半島西岸では10年前から海藻が減る「磯焼け」で、サザエやアワビが減るなどの問題が発生していた。一因として挙げられたのがムラサキウニの大量繁殖。同センターでは「地球温暖化による海水温の上昇で、冬場も海水温が下がらず、ムラサキウニが生息しやすい環境になったため」とみる。
食用ウニはバフンウニが主流。天然のムラサキウニは身の部分である生殖巣が育たないことから食べられず、「漁獲対象でなく、駆除するしかなかった」(同センター)。
「生態系に悪影響を与えるムラサキウニを何とかしなければ」と考えていた同センターの主任研究員、臼井一茂さん(48)が2年前、周辺で捕ったムラサキウニを育て始めた。先輩のウニ専門家が「ウニは何でも食べる」と話していたのがヒントになった。水槽で、パンの耳やマグロの切れ端などを与えてみた。
特に好んで食べたのはキャベツ。ダイコンなどは表面の硬い部分しかかじらなかったが、キャベツは1玉を、80匹のムラサキウニがたった3日でほぼ食べ切ったという。
キャベツを与えた結果、ムラサキウニの身が充実。成分検査では甘味やうま味の成分が多く、食用に流通するキタムラサキウニと同等の成分構成だった。食味試験でも食用として通用すると判断した。
外葉や規格外活用 三浦の農家 「歓迎」「期待」
三浦半島は、キャベツの大産地。三浦市農協とJAよこすか葉山の共販推進組織「特産・三浦野菜生産販売連合」は今年5月末までに、342万ケース(1ケース約10キロ)を出荷した。柔らかく甘いのが特徴だ。
しかし、出荷されない割れたキャベツや外葉は捨てるか、畑にすき込んで緑肥にするしか処理方法がなかった。
今回、県農業技術センター三浦半島地区事務所が週1回、規格外のキャベツや外葉など計30キロを提供した。同事務所主任研究員の太田和宏さんは「捨てるものが新たな特産作りにつながり、地域振興に役立つのは良いこと」と期待する。三浦市農協も「規格外や廃棄される春キャベツを使って、ムラサキウニをおいしい食材として商品化するのに役に立てる」(営農課)と、取り組みを歓迎する。
今後の実証実験では、うま味成分のあるグルタミン酸を含むブロッコリーの利用も検討。どのタイミングで与えるべきか、研究を進める方針だ。他の野菜や海藻を与えたときに、どう食感が変化するのかも調べる。
センターでは、三浦市内で28日にムラサキウニの試食会を行う。臼井さんは「養殖したウニは甘さが強いので、スイーツなどにも使えると考える。今後は、地元の三崎のマグロなどと組み合わせて、オール三浦産の料理を生み出したい」と展望する。(中村元則)
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中家全中体制始動 組織力の源泉は組合員
JA全中新体制が始動した。組織の司令塔である全中の行方は多難そのものだ。JAグループによる自己改革の着実な実践は待ったなしの最重要課題である。第15代会長に就任した中家徹氏は「組織の力の源泉は組合員だ」と強調する。原点回帰と組織結集と求心力こそが問われている。難局への突破力と、協同組合運動者を自負する熱い思いに期待したい。
「全中会長は最前線で翻っている軍旗である」。中家会長は第4代会長・宮脇朝男氏の言葉をいつも思い浮かべるという。中央協同組合学園の第1期生である中家会長は、宮脇氏から直接薫陶を受け“協同の火”を絶やさず燃やし続けた。
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日本列島は相次いで異常気象に見舞われている。今週前半、日本列島を縦断した台風5号に象徴されるように、いつどこでどんな災害が襲い掛かるか分からない。同様に、なぜ農業・農協だけに“線状降水帯”が居座り集中豪雨が続くのか。全国の農業者・JA組合員の先行き不安と懸念は一向に消えない。そんな波乱含みの中で、中家会長をトップとした新生・全中丸が船出した。
また何時、政府の規制改革推進会議による実態無視の農協改革が迫られるかもしれない。「想定外」は通じない。全中新執行部にとって欠かせないのは、JAへのあらゆる攻撃に備える情報力と、それを打破する理論武装と胆力である。むろん農政改革は必要だが、昨秋、全農が標的にされたように、農協改革にすり替えられては本末転倒である。理不尽な暴論には毅然(きぜん)として反論し、守るべきは守るべきだ。政府との是々非々の対応も問われる。
10日の就任会見で中家会長はJA自己改革の完遂を強調するとともに、「農家や地域にとってなくてはならないJA組織を目指す」と言葉を重ねた。JAの力の源泉、最大の強みは組合員だ。その声を聞き事業や活動に反映し、改めて正・准全ての組合員とのつながりを強めたい。組織の前提は理解と納得である。組合員が多様化する中、確かに「声」は多重音となり聞き取りにくくなっている。だが、複雑に絡み合う声を解きほぐす努力こそが欠かせない。
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2017年08月11日
食料自給力 必要熱量の7割未満 16年度状況農水省試算 基盤強化が急務
農水省は、国内の農林水産業の潜在的な生産力を示す「食料自給力」について、2016年度の状況をまとめた。作付けを変えた4パターンで、国内の農地が供給できるエネルギーを試算。いずれも前年度より供給エネルギーは低下した。現状の食生活を保つことを念頭に置いて主要穀物を中心に作付けた場合は、1日に必要なエネルギー量の7割に満たなかった。16年度は6年ぶりに食料自給率(カロリーベース)も低下しており、食料安全保障の確保に向け、生産基盤の強化が待ったなしの課題であることを浮き彫りにした。
食料自給率は、国内の食料消費を国内の農業生産でどれだけ賄えるかを示す指標のため、国内生産が減っても、高齢化で消費量が減れば釣り合いが取れ、国内生産の実力が見えにくい。そのため同省は食料自給力の公表を14年度に始めた。
自給力は、再生可能な荒廃地も含めて農地を活用することを前提に、①現在の食生活に近い、一定の野菜や果物を取り入れるなど栄養バランスを考慮しながら主要穀物(米、小麦、大豆)中心②主要穀物中心③栄養バランスを考慮して芋類中心④熱量効率を最大化して芋類中心――に作付けする4パターンで示した。
16年度で供給カロリーが最も低かったのは、①の1日・1人当たり1449キロカロリーで前年より1.3%減った。1日に必要な推定エネルギー量(2147キロカロリー)の67%にとどまる。②の場合も供給できるのは前年比0.7%減の1814キロカロリーで、同84%だった。
一方、③は2.3%減の2339キロカロリー、④は1%減の2660キロカロリーで必要な推定エネルギー量を上回った。だが、いずれも芋類が中心のため、国内生産だけで食料を満たすのは非現実的な状況だ。
自給力の低下には、農地面積の減少が大きく響いている。16年度の農地面積は447万ヘクタールで3万ヘクタール減。ピーク時の1961年には609万ヘクタールあった。担い手への農地集積率は16年度は54%で2ポイント増えてはいるものの、高齢化による離農が加速する中で、担い手が農地を受け切れていない状況だ。
一方、新規就農者は15年で6万5030人で6年ぶりに6万人を超え、うち、49歳以下は2万3030人で07年以降最多となっている。農地を守るには、こうした新たな担い手確保の流れを、さらに加速させることが必要になる。
2017年08月13日
植物性乳酸菌 配合食品が続々 みそ、せんべい、しょうゆ・・・ メーカー、付加価値化狙う
米や麦など植物由来の乳酸菌を配合した食品が増えている。整腸作用など健康効果が期待できる乳酸菌は牛乳由来が一般的だったが、メーカーが付加価値販売の手法として採用。みそや菓子など多様な商品作りに生かしている。植物性乳酸菌を豊富に含む発酵調味料を売りにした和食店も登場するなど、盛り上がりを見せる。
サッポロホールディングス傘下で、みそ製造の神州一味噌(東京都東久留米市)は、系列企業のサッポロビールが開発した大麦由来の植物性乳酸菌「SBL88」を、既存のみそ商品に新たに配合して付加価値化を狙う。みそ汁用生みそ「おみそ汁で乳酸菌」(500グラム、486円)や6食入りの即席生みそ汁など5商品を、同乳酸菌入りとしてリニューアル。9月1日に発売する。「生みそ市場が減少する一方、発酵食品はブーム。和食で乳酸菌を取ろうと打ち出す」と同社。売り上げは従来品の2割増を目指す。
米菓製造の亀田製菓(新潟市)は、今年3月に刷新したクリーム入りソフトせんべい「白い風船」(238円)に植物性乳酸菌を加えたことで、販売量を1.5倍に伸ばした。1982年発売以来となる刷新で、同社が開発した米由来の乳酸菌「K‐2」を大袋一つ当たり100億個配合。従来は北海道や九州など地方中心の展開だったが、「関東や首都圏での扱いが伸びた」と手応えを語る。数量は3枚減らし価格を据え置いた。
関西を拠点に外食店を展開する大和串プランニング(大阪市)は今月、しょうゆやみそ、みりんなど、日本の伝統的な発酵調味料にこだわった和食店「麹(こうじ)と酒一献三菜」を都内に開業した。
「日本の食卓に欠かせない発酵調味料は植物性乳酸菌の宝庫。日本人の体質に合った植物性乳酸菌を常食することで腸内環境が整う」(同社)と、健康性を強調。しょうゆは広島県庄原市産の大豆、みそは滋賀産大豆「みずくぐり」、みりんは佐賀産もち米「ヒヨクモチ」などを用いる。当面は、月間売り上げ1000万円が目標。「原価率は従来業態の2~5割増しと高めだが、ニーズは十分」と意気込む。
2017年08月15日
米生産調整で秋田県大潟村 2年連続 目標達成へ 転作促す交付金必要
秋田県大潟村で、米の生産調整が2年連続で達成する見通しとなった。長年、過剰生産が続いてきたが、10アール当たり7500円の米の直接支払交付金や産地交付金によって転作が進み、生産調整の参加は9割を超える。村地域農業再生協議会は、国による目標配分や米の直接支払交付金がなくなる2018年度以降も転作を促す方針。農家からは転作作物への交付金の充実を求める声が上がる。
2017年08月13日
水稲高温耐性品種 20年度作付け10% 拡大傾向 着実に推進 農水省 初の数値目標
農水省は、水稲の高温耐性品種の作付面積割合を2020年度に10%にする目標を決めた。温暖化対策施策の一つで、15年度実績の6%から引き上げ、全国的に増える水稲の高温障害を減らす狙い。作付け割合の数値目標を明らかにするのは初。高温耐性品種の作付けは国や県の育成品種が増えて拡大傾向にあるが、着実に進める姿勢を明確にした。
2017年08月15日
地域の新着記事
来年度の営農再開信じて… 黙々と水田整備 立ち入り許可区域で 地割れ発生から3カ月 大分県豊後大野市
大分県豊後大野市朝地町綿田地区の地割れ災害は16日、発生確認から3カ月を迎えた。地滑りの危険性から立ち入りが制限され、田植えができなかった水田は今年、8.2ヘクタールに及ぶ。復旧工事に時間がかかるため来年度に作付けできるかは不透明だが、農家は再開を信じ、立ち入りが許可された一部の水田の整備に汗を流している。
例年なら水稲が青々と育つ同地区の棚田の一部には今、雑草しか生えていない。その光景に心を痛めていた米農家の工藤良孝さん(81)は、立ち入り許可が出るとすぐに自身の50アールの水田に向かった。
雑草のヒエに穂が付き、種が地面に落ちてしまうと来年以降、稲を作付けしても成長が阻害されてしまう。工藤さんは炎天下で刈り払い機を黙々と動かし「今の時期に作業ができたのは不幸中の幸いだ」と汗を拭った。
地割れは、降雨で地下水が増えて地滑りが生じたことが原因。復旧には地下水の排出が必要となる。同市によると、排出は2018年度中までかかる見通し。地割れで傷んだ水田や水路の復旧工事はその後だ。そのため「来年、営農再開できるかは分からない」(総務課)という。
工藤さんの水田は地割れの発生こそないが、水を引けない部分がある。それでも来年度の再開を信じて作業を進める。「今やっていることは無駄にはならない。後悔しないために、今できることをしたい」と願いを込める。
2017年08月16日
[活写] 戦争の証し 風化させぬ
今日は終戦の日。千葉県匝瑳市の農地に、太平洋戦争当時に作られた空襲から戦闘機を守る防空壕「掩体壕(えんたいごう)」が残る。
旭市に住む農家、品村初子さん(73)が所有し、「コシヒカリ」を作る水田に2基が並ぶ。戦時中、海軍が香取航空基地を造るため周辺の土地を接収し、このドームを築いた。コンクリート製で大きさは幅30メートル、高さ6メートル。翼を畳んだ戦闘機を1基に3機隠せた。
戦後、国から土地が戻る際、品村さんの家族は掩体壕を物置に使おうと考え、そのままにした。終戦から72年過ぎ、風化が進んだ今も農機などを置き続けている。
間近に立つ市の教育委員会の案内板には、戦争末期、ここから硫黄島に向けて特攻隊が飛び立ったと記されている。品村さんは「今も基地で働いた経験がある人が見に来る。このまま、ずっと残そうと思う」と話した。(富永健太郎)
2017年08月15日
[活写] 浮かぶ大玉 地域の目玉
宮崎県日向市の富高地区で、空き地を使ったスイカの空中栽培が、通り掛かる人の目を楽しませている。
まちづくりに取り組む住民組織、富高花と緑の会の会長を務める鈴木良雄さん(66)が「地域の目玉にしよう」と育てている。住民の通り道を兼ねる幅6メートルの細長い空き地の上に、格子状に組んだ竹などで長さ45メートルの棚を設置。スイカ17株のつるを伸ばし、育った実をビニールのひもでつっている。一緒にカボチャも植えている。
元会社員の鈴木さんは、同会で管理する空き地を生かそうと雑誌などで空中栽培を独学。8年前に作り始め、今では農家も見学に訪れるようになった。品種は大玉の「秀山」など。
今年は9月までに150個ほどを収穫し、近所の保育園などに配る予定。鈴木さんは「今年は天候に恵まれ玉の太りもいい。多くの人に見てほしい」と話す。(木村泰之)
2017年08月14日
幻のリンゴ 「カルヴィル・ブラン」 菓子用に 青森に1本だけ パティシエ高評価 新たな用途開発栽培研究に着手 弘前大
青森県の弘前大学は、国内ではほとんど出回らない幻のリンゴ品種で、酸味や香りが菓子に向く「カルヴィル・ブラン」の栽培研究に乗り出した。フランス菓子の研究家が、同大農場に1本だけ残るこの品種に着目。独特の酸味や香りが菓子に最適で、パティシエ(菓子職人)からも高評価を得た。2017年度は加熱調理に向く収穫適期を見極め、将来は産地化を目指す。
「カルヴィル・ブラン」はフランスの品種。果皮が薄緑色で、果実の下部に凹凸が出て渋味や酸味、香りが強い。リンゴを主に生で食べる日本では、甘味がある品種が好まれてきた。青果用として好まれる性質を備えていなかったため、遺伝資源として1本だけ、かつて農林省試験場だった同大農学生命科学部付属藤崎農場に50年以上、残されていた。
この品種に注目したのが、神戸市在住でフランス菓子文化研究家の三久保美加さんだ。19歳で渡仏して以来、約30年にわたってフランスの伝統菓子やその歴史、地方の伝統行事を研究。国内で手に入る調理用リンゴを探す中、16年に料理研究家やパティシエらが集まるリンゴ研究会に参加していた同農場の関係者から、この品種の存在を聞かされた。
「菓子に使う品種として、昔の文献などで名前は知っていたが、フランスでも見掛けたことはなかった。国内にあるとは思わなかった」と三久保さんは振り返る。
三久保さんは果実60キロを大学から提供してもらい、甘く煮た果肉にタルト生地をかぶせて焼き上げる、フランスの代表的な伝統菓子「タルトタタン」に調理。東京のパティシエや製菓学校講師ら10人にも分けると「日本で手に入るなら今後も欲しい」「もっと生産を増やしてほしい」と大反響だった。
こうした評価を受け、同大は17年度、同品種の加熱調理に向く収穫適期の見極めの研究に着手。複数の時期に収穫し、最適な時期を探る。将来は、大学と連携協定を結ぶ同県板柳町などに産地化を呼び掛ける方針だ。
同大の林田大志助教は「国内でこの品種を保有する研究機関や農家がいると聞いたことはない。料理用として、ここまで高く評価されていることを生かし、新しい用途のリンゴとして確立したい」と展望する。(鈴木琢真)
2017年08月12日
樹木葬 じわり浸透 墓荒れさせるより 自然回帰 子孫不在や独身増、土地不足・・・
墓石でなく樹木を墓標にして遺骨を土に埋葬する樹木葬がじわじわと広がっている。自然回帰や未婚者の増加、都市の墓地不足が背景にある。農村でも高齢化や子孫の不在で墓を守ることが困難になり、墓じまいをして森に返す動きが出ている。農山村の荒廃地を樹木葬の墓園として里山に再生する取り組みもあり、新しい墓のかたちとして注目を集めている。
放棄地再生兼ね 千葉県長南町「森の墓苑」
東京都心から車で1時間半、千葉県長南町の山間地に整備された丘陵地が広がる。日本生態系協会が2016年に開いた「森の墓苑」だ。墓地といっても墓石はない。放棄され荒廃した土砂採掘場を里山に再生する計画で、遺骨を納める区画に墓標として樹木を植え、50年かけて“森に返す”構想だ。
大阪府から同墓苑を見学に来た服部文子さん(68)は、チョウが飛び交う情景を眺めながら「森に返るなんてすてき。自然が好きだった父も喜ぶ」と目を輝かせた。娘はいるが「遠方に嫁いだので面倒を見てもらうつもりはない」と、いずれは両親の遺骨と一緒に樹木葬を思案する。
同行した兄の五箇哲さん(71)は「子どもがいないので、両親の墓を継続して管理できない」と、現実的な課題から樹木葬に関心を持つ。妻の眞美子さん(64)も「誰かに墓を託すより、自然の中で永遠にまつられるのがいい」と魅力を感じている。
周辺の住民も、新たな墓地に注目する。自営業の渡辺一雄さん(66)は「地元でも、高齢化や離村で墓を荒らしてしまう家が増えている」と話す。周囲は自宅に墓のある家も多く、空き家になって放置される墓もあり、遺骨を森の墓苑に移した家もあるという。
住民の同意取りやすい
同協会は12年から、墓地の開設について周辺の住民を訪問して理解を進めた。住民から「石の墓が周囲に広がるのは嫌だ」といった声もあったが、樹木葬で里山を保全する目的に住民の同意を得て、15年3月に地元の長南町から墓地の運営許可を受けた。
契約条件に応じてコナラ、ヤマツツジなど地元由来の樹木を選べる。昨年2月の開設以来、契約数は28件、申し込み済みは10件で、既に納骨も始まっている。担当する服部仁美主任は「代々の墓は維持できない、という人が関心を持っている。森になるということに共感する人も多い」と話す。
森林活用の方策として樹木葬の普及に取り組むNPO法人・北海道に森を創る会の片山尚正監事は「近隣に墓地ができることを嫌がる住民は多く、行政の許可を得にくいのも事実」と課題を挙げる。墓地から農地への水の流入などを心配する声もあるという。一方で「子どもがいない世帯や未婚者など、墓を守れない人が増えており、今後も増える」と指摘する。
農村部でも今後ニーズ
農村部では、都市部に比べて樹木葬は浸透していないのが現状だ。長野県JAみなみ信州の子会社で、飯田市などで葬祭業を運営するジェイエイサービスの奥村充由社長は「田舎では墓を守るという考えが主流」と考える。ただ、高齢化や都会への移住などで墓の管理が困難な家が出ているのも事実で、「今後、ニーズは出てくる」(同)とみる。(福井達之)
<メモ> 樹木葬
墓地埋葬法に基づき、墓と認められた場所に遺骨を埋める埋葬法。墓地の運営と管理主体は、地方公共団体を原則に宗教法人、公益法人に限るとされている。
2017年08月11日
グローバルGAP 米174ヘクタール332戸 団体認証 国内最大規模 滋賀・JAグリーン近江管内4法人
米のグローバルGAP(農業生産工程管理)で認証規模が日本最大級の組織が、滋賀県のJAグリーン近江管内で誕生した。4法人などでつくる「JAグリーン近江老蘇集落営農連絡協議会」が認証取得した。栽培面積約174ヘクタール、生産量約870トン、332戸が所属し、地域の8割近くの農地をカバーする。JAは、内部検査を担う人材育成による更新費の軽減などで支援体制を整える。認証取得と、生産量の多さを“武器”に販路開拓を狙う。
2017年08月09日
のろのろ台風 自転車並み速度で列島縦断 長時間の風雨 広範囲に被害 河川氾濫 農地水浸し 滋賀
発生から18日と観測史上3位の「長寿台風」となった5号は8日、ゆっくりした速度で日本列島を進んだ。各地で長時間の大雨と暴風をもたらし、九州、近畿、東海地方で農業被害が出ている。滋賀県長浜市では同日、河川が氾濫し水稲などが冠水した。9日午後には秋田県・男鹿半島付近を通過する見込みで、気象庁は河川の氾濫や土砂災害、暴風への警戒を呼び掛けている。
姉川があふれた滋賀県長浜市では、周辺の農地が泥で埋まるなどの農業被害が出ている。
「今回の水害はきつい。70年以上生きてるけれど、こんな被害は初めてだ」。同市の農家、米田庄一さん(76)は驚きを隠さない。農地が川沿いにあったため、出荷を控えていたゴボウやトウガラシ、サツマイモなどの野菜全てが水に漬かり、2ヘクタールが濁流で埋まった。数日前にソバを1・5ヘクタールで種まきしたがほぼ流され、水路には土砂が流れ込んでいる。「水稲と果樹以外は、ほぼ全滅や」と肩を落とした。
「この畑を見たら、おばあちゃんはどう思うだろうか」と、同市の丹部弥生さん(90)の畑を、孫の藤野牧子さん(43)は無念そうに見つめた。手塩にかけたネギやトマトの畑には土砂やがれきが入り込み、無残な姿となった。
県によると、8日午後3時現在で長浜市や米原市を中心に水稲、大豆などの倒伏や冠水などの被害が計75ヘクタールに上る。ビニールハウスなどの損壊は、県内6市町村で確認されている。
この他、鹿児島県は同日午前10時現在でオクラやニガウリ、サトウキビ、果樹などに総額2億5428万円に上る被害が出たと発表。三重県では水稲やネギの倒伏、梨の落果など、岐阜県でも水稲が倒伏した。7日夕に竜巻が発生した愛知県豊橋市では、梨の落果やビニールハウスが破れるなどの被害が出ている。
総務省消防庁のまとめ(8日午後6時現在)によると、鹿児島県では風による転倒や海への転落で2人が死亡。同県や和歌山県では骨折する人も出た。三重、鹿児島県などで住宅62棟が一部損壊した他、鹿児島、山梨、滋賀県などで床上・床下浸水が103棟で発生した。
気象庁によると、8日午後4時30分までの24時間雨量は石川県加賀市で233.5ミリ、滋賀県長浜市で231ミリと、いずれも観測史上最高を記録するなど日本海側を中心に荒天となった。
発生18日、長寿3位
台風5号は8日、日本列島をゆっくりと縦断し、各地で田畑の冠水や強風による農業被害をもたらした。時速20キロと、自転車並みの“のろのろ台風”だったため、通過した地域では長時間、大雨や強風が続いた。
5号は7月21日朝に小笠原近海で発生してから8日で18日が経過し、観測史上3位の「長寿台風」となった。列島に高気圧が居座っており、進路を阻まれるなどして速度が遅くなったことも影響した。気象庁は、長寿台風は不規則な経路をたどる傾向があるという。
5号は発生後、太平洋を西に進み、5日ごろ奄美地方を通過し長時間雨をもたらした。その後、動きが遅いまま九州と四国の南海上を進み、7日午後に和歌山県へ上陸した。
同庁によると、発生から消滅までの「台風の寿命」は平均5.3日。統計がある1951年以来、最も寿命が長かったのは1986年の台風14号の19.25日だった。
2017年08月09日
台風5号 オクラに擦れ 収穫間近…無残 宮崎県串間市
日本に接近した台風5号は、九州、四国など広範囲に被害をもたらした。宮崎県串間市では、JAはまゆう管内のオクラに被害が出た。収穫間近だった7ヘクタールのほぼ全域で、暴風で実の表面が傷つく「擦れ果」が発生。被害の大きい「擦れ果」は廃棄するしかなく、2、3日間は出荷ができない見通し。
JA露地野菜部会オクラ専門部の原田俊一部長の12アールの畑には、10センチを超えるオクラが実っていたが、擦れて出荷できない状態。倒伏もあった。7日は、半日かけて木を起こす作業に追われた。原田部長は「少しでも無事な果実が多いことを祈るしかない」とこぼす。
JA営農指導課によると、収穫まで数日の小さい果実も被害を受けており、2、3日は出荷を再開できないという。被災前は日量2トンの出荷量が回復するのは早くても1週間後となりそうだ。被害額は400万円に達する見込み。
高知県は7日、第3回県災害対策本部会議を県庁で開き、被害や対応状況を協議した。農業被害は7日午後3時時点で、香南市、香美市でビニールハウスの被覆フィルムが破損した他、四万十市などで水稲が倒伏。宿毛市、土佐清水市でオクラの擦れなどを確認した。
2017年08月08日
[宮城全共] 高校“牛児”晴れ舞台へ 30年ぶり 一般枠出場
9月7日に仙台市で開幕する“和牛の五輪”第11回全国和牛能力共進会(宮城全共)の最終比較審査まで、1カ月。全国39道府県の予選を勝ち抜いた513頭に、高校2校から2頭が選ばれた。今回特設した「高校の部」ではなく、一般の農家と競う出品区で高校が出場するのは、1987年の第5回島根大会以来。30年ぶりの快挙に注目が集まる。
2017年08月08日
奈良のシカ 捕獲開始 農業被害に歯止め 市東部2地区
国の天然記念物「奈良のシカ」の捕獲が奈良市東部の2地区(田原、東里)で始まった。奈良公園周辺で食害による農業被害に歯止めがかからないためで、奈良県は文化庁の許可を得て、本年度は120頭を上限に捕獲する。頭数管理のための捕獲は天然記念物に指定された1957年以降初めて。
捕獲手法は箱わなで、おりの中に餌を置きおびき寄せ捕らえる。2地区は同公園から約5キロ離れ、農業被害が集中する地域。県猟友会の協力で7月31日、計6基のおりを設置した。県によると4日現在、鹿は捕獲されていない。
「奈良のシカ」は春日大社の神の使い「神鹿(しんろく)」とされ、観光資源として保護されてきた。
県によると、保護の対象区域は2005年の合併前の旧市内全域で約4000頭が生息するとみる。食害は稲を中心に柿、シイタケ、茶など多岐にわたる。
農家は実質追い払いしかできず、防護柵の設置も農地全てを囲むことは困難で、被害の根絶にはつながらなかった。
県の農業被害アンケートで、13年度までの5年間で「被害が増えた」と回答した旧市内を含む県北部の農家は7割を超えた。
過去には鹿害に苦しむ地元農家が行政を相手取り損害賠償請求を起こした他、地元農家が64年に結成した「奈良市鹿害阻止農家組合」が県知事へ鹿害対策の要望書を提出するなど、幾度となく被害抑制策を求めていた。同組合の福井甚三組合長は「捕獲は農家組合にとって大きな一歩」と力を込める。
担当する県奈良公園室は「農家とのあつれきをなくし、人と鹿との共存を図っていきたい」と話す。
2017年08月07日