それとも執行猶予にすべきか。
どうすればいいんだろう？
（木づちの音）それでは開廷します。
ある裁判が始まろうとしている。
私は瀬戸香織。
裁判員の一人に選ばれた。
私たち裁判員はこのちょっと不思議な裁判の判決を考えなくてはならない。
裁かれる被告人はヘンゼルとグレーテル。
魔女を殺して金貨を奪った罪に問われている。
検察官今回２人がどんな罪を犯したというのか述べて下さい。
はい。
起訴状を読み上げます。
ヘンゼルとグレーテルは生活に困った両親に捨てられました。
森の奥深く三日三晩さまよった２人は白い鳥に導かれお菓子で作られた家にたどりつきました。
そしてそこに暮らす年老いた魔女に保護されました。
しかしひとつき後魔女が多額の財産を所有している事を知った２人は強奪を計画。
魔女を燃え盛るかまどの中に押し込んで殺害し山のような金貨を奪って親元に帰りました。
これは刑法第２４０条の強盗殺人罪にあたります。
（裁判長）被告人今検察官が読み上げた事実に間違いはありませんか？確かに僕らは魔女を殺し金貨を家に持って帰りました。
でもお金が欲しくて殺したんじゃありません！そうです！僕は魔女に食べられるところだったんです！弁護人の意見はいかがですか？魔女の殺害は人食いから身を守るための正当防衛であり罪に問われるものではありません。
２人が犯した罪は魔女を殺したあとに出来心で金貨を盗んだ事だけです。
強盗殺人か？単なる窃盗か…？そのカギになるのは２人が魔女を殺した理由だ。
金貨を奪うため？それとも自分の身を守るため…？検察官が証人に呼んだのは２人をお菓子の家に導いた白い鳥だ。
あなたはどうして２人をお菓子の家に連れていったのですか？森で迷子になっていた２人をたまたま見つけたんです。
友達の魔女に保護してもらおうと連れていきました。
２人はそこで魔女に食べられそうになったと言っています。
そんなのウソですよ！あの人は人食いなんかじゃありません！人食いではない？
（白い鳥）そうです！裁判員の皆さんこれは魔女の家で見つかった病院の診断書です。
魔女が肉アレルギーであった事がはっきり記載されています。
魔女は２人の事をかいがいしく世話していたに違いありません。
あの人は本当に優しい人でしたから…。
だとしたら２人の言う事は罪を逃れるための作り話って事…？改めてお聞きします。
魔女は人食いではないんですね？そうです！しかしあの森には昔から人食いの魔女がいるといううわさが後を絶たない。
これはどう説明するんですか？そのうわさは森に子どもを捨てた親たちがその事を隠すために流したんですよきっと。
取って付けたような話ですね。
では先ほどの診断書についてお尋ねします。
これ日付を見る限り２００年以上前のものですよね？２００年！？魔女は長生きですからそれは若い時の…。
古すぎませんか？これでは誰がどんな方法で診断をしたのか分からず信用できません。
でも魔女は肉を…。
ウソをついているのはあなたの方ではありませんか？迷子の子どもを見つけては人食いの魔女に差し出していたその罪がばれるのを恐れて！そんな事してません！ウソをついているのはどっち…？続いて兄のヘンゼルへの質問だ。
まずは弁護人から。
魔女に出会った時の事を教えてもらえますか？最初魔女はとても優しかったんです。
疲れていた僕たちをふかふかのベッドで眠らせてくれました。
それはあなたたちを油断させるためのワナだった？はい。
僕は魔女に捕まって家畜小屋の檻に入れられました。
「たっぷり太らせてから食べてやる」って言われて…。
毎日グレーテルの作るごちそうを食べさせられました。
妹さんは魔女の召し使いにされたんですね。
それから…？魔女は目が悪いので僕がどれだけ太ったかこうして指を触って知ろうとしたんです。
でも僕は食事に出された鶏の骨を触らせてまだ痩せているとだまし続けたんです。
恐ろしかったでしょう。
はい…。
いつばれてしまうか生きた心地がしませんでした…。
あなたが魔女をだますために使ったという鶏の骨は…このようなものでしたか？そうです。
いくら目が悪いといっても…。
（たたく音）この硬い骨を触って指と勘違いするでしょうか？そ…そうかもしれないけどでも魔女は間違えたんだ！それに目の悪い魔女がすばしっこいあなたを捕まえて檻に入れる…。
そんな事ができるんでしょうか？それは！寝ているところを捕まったので…。
本当は檻になんか入れられていないんじゃないんですか？食べられるどころか優しい魔女に手厚く保護されていた。
異議あり！意見を押しつけています！以上です。
確かにヘンゼルの言う事は怪しい。
でも鶏の骨でだまし続けたなんて実際に体験してないと言えないんじゃないかな…。
今度はグレーテルへの質問だ。
まずは弁護人から。
事件の日の事を教えてもらえますか？はい。
あの日兄がなかなか太らない事にいらだった魔女は「もう待ちきれない！こんがり焼いて食べてやる」と大きな包丁を研ぎ始めました。
私は魔女に命じられかまどの火をおこしました。
兄を焼くための火をおこしているんだと思うと涙が止まりませんでした…。
そのあとどうなりましたか？魔女に「火の加減を確認しろ」と言われました。
私が「どうすればいいか分からない」と言うと魔女は「こうやるんだ」とかまどの中をのぞき込んだんです。
その時「今しかない！」と思って魔女に体当たりしてかまどの中に押し込んだんです。
魔女はどうなりましたか？大きな叫び声が聞こえてそのあと静かになりました。
そうですか。
では最後にお聞きします。
あなたたちは金貨を奪うために魔女を殺した訳ではないのですね？はい！金貨があるなんて知りませんでした。
森を抜けるための地図を探していたら金貨を見つけて…。
つい盗んじゃいました。
ごめんなさい！これは魔女の等身大パネルです。
魔女は体重が９０キロもあったといいます。
その1/3にも満たないあなたがたった一人でかまどの奥まで押し込めるものでしょうか？思いっきり体当たりしたんです。
それでもせいぜいつんのめるくらいでしょう。
しかしヘンゼルが檻に入れられていなければ話は別です。
本当は２人がかりでかまどの奥に押し込んだのではないですか？違うよ！異議あり。
臆測です。
検察官質問を変えて下さい。
あなたの家は明日食べる物に困るくらい貧しかった。
そうですね？…はい。
裁判員の皆さんこれは押収したグレーテルの日記です。
事件３か月前の記述を読み上げます。
「一枚だけど金貨を家に持って帰った。
お父さんとお母さんがとても喜んで頭をなでてくれた。
とてもうれしかった！」。
その金貨をどうやって手に入れたかはあえて聞きません。
しかし金貨１枚では生活は楽にならずとうとうあなたたちは両親に捨てられた。
恨んだんじゃないですか？なんとかしてお父さんとお母さんとまた一緒に暮らしたいと思いました。
そんな時に出会った魔女が山のような金貨を持っている事を知った。
あなたたちは思ったのではありませんか？これだけあれば両親とずっと一緒に暮らす事ができると。
私は…。
だから！金貨があるなんて帰る時まで知らなかったって言ってんじゃん！終わります。
裁判員の皆さん魔女が人食いだというヘンゼルとグレーテルの話は信用できません。
これは捨てられてもなお親に愛されたいその思いが暴走した悲しい事件です。
２人は金貨を奪うために魔女を殺したのです。
裁判員の皆さん２人は人食いの魔女に襲われました。
自分たちの身を守るためには殺すしかなかったのです。
これは正当防衛であり罪に問う事はできません。
２人が償うべきは出来心で金貨を盗んだ事だけです。
これで全ての審理が終わりました。
これから裁判員の皆さんと判決を話し合います。
２人が犯した罪は強盗殺人か？単なる窃盗か？どっちなんだろう？2017/08/14(月) 09:30〜09:46
ＮＨＫＥテレ１大阪
昔話法廷「“ヘンゼルとグレーテル”裁判」[字]
昔話の登場人物を裁判にかける法廷ドラマ。今回は「ヘンゼルとグレーテル」。ヘンゼルとグレーテルが、魔女をかまどに押し込み焼殺し金貨を奪った強盗殺人の罪に問われる。
詳細情報
番組内容
「昔話の登場人物が訴えられたら？」という設定のもと、丁々発止のやり取りを描く法廷ドラマシリーズ。今回は「ヘンゼルとグレーテル」。お菓子の家に暮らす魔女がかまどの中で焼殺され、金貨が全て奪われた事件。強盗殺人の罪に問われたのは、親に捨てられお菓子の家で保護されていたヘンゼルとグレーテルの兄妹だ。しかし、２人は、魔女殺しについては「正当防衛」を主張。“人食い”から身を守るための行為であったと訴える。
出演者
【出演】小西真奈美，志賀廣太郎，松本穂香，平川和宏，二宮慶多，新井美羽，大柿友哉，【声】浜野謙太
ジャンル :
趣味／教育 – 中学生・高校生
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