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» 2017年08月16日 08時00分 更新

Enterprise IT Kaleidoscope:「Windows 10 Pro for Workstations」はなぜ生まれたのか (2/2)

[山本雅史ITmedia]
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ファイル共有のパフォーマンスが上がるSMB Directに対応

 Win10Pro WSでは、「SMB Direct」という機能もサポートされる。この機能は、ネットワークチップがiWarpやRDMA(Remote Direct Memory Access)という機能をサポートしていれば、ファイル共有のSMBの処理が、クライアントのCPUに負荷をかけずに行えるため、ファイル共有のパフォーマンスが大幅にアップする。

 以前は、RDMAをサポートしているInfinibandが使われていたが、イーサネットを利用するiWarpがイーサネットチップでサポートされてきているため、イーサネットでSMB Directが利用できるようになってきた(SMB Driectを利用するために、iWarp/RDMAをサポートしたネットワークチップ/カードが必要になる)。

SMB Direct Win10 Creators UpdateでもSMB Directがサポートされている。SMB Directを利用するには、RDMA/iWarpをサポートしたネットワークチップ/カードが必要になる

不揮発性メモリのサポートも

 また、Win10Pro WSでは、NVDIMMをサポートする。NVDIMMは、SSDに利用されるフラッシュメモリとDRAMを組み合わせたもので、メモリスロットに挿す新しいメモリDIMMだ。

 NVDIMMは、長時間処理を行っている場合に、突然電源が落ちても、DRAMのデータを瞬時にNVDIMM内のフラッシュメモリに転送する。これにより、再度電源を入れれば、処理途中の状態から、作業が始められる、いわゆる不揮発性メモリだ。

 ディープラーニングや機械学習、ビッグデータなどの、膨大な時間がかかる処理の場合、突然電源が落ちたりすると、再度同じ時間をかけて最初から処理を行う必要があるが、こういった無駄をなくす。もちろん、社員がいる日中は処理をして、社員がいなくなる退社時に、NVDIMMで処理途中のデータを保持していれば、朝電源を入れた時から処理を再開する、といったこともできる。

 NVDIMMに関しては、Windows Server 2016でもサポートしており、米Hewlett Packard Enterprise(HPE)が自社のサーバ向けにNVDIMMをリリースしている。現状では、一部のメーカーからしかNVDIMMは提供されていないが、2018年にはIntelが3D XPointベースの不揮発性メモリをリリースする予定だ。Intelの Presistent Memoryは、3D Xpointの高い性能を利用して、メモリ自体をDRAMから3D Xpointに変更する。つまり、オンメモリの領域をDRAMから3D Xpointに変える。

 これにより、HPEのPresistent Memory(不揮発性メモリ)のようにDRAMとフラッシュメモリを組み合わせたものではなく、3D Xpointだけで構成される(DRAMの内容をフラッシュメモリにコピーしてバックアップすることもない)。3D Xpointはデータを保持するのに電力は必要ないため、処理途中に電源をオフにしても、常にデータはメインメモリの3D XPointに保持されているため、再度電源オンにすれば、すぐに処理が始められる。

HPE NVDIMM HPEが提供しているサーバ向けのNVDIMM。フラッシュメモリとDRAMが混載されているため、メモリとしての容量はまだ小さい(HPEのWebページから転載)。
Intel 3D Xpoint Intelが2018年にリリースする、3D Xpointを使用した不揮発性メモリ。このメモリは次世代のXeon Scalable(Cascade Lake)プロセッサーで使用できるようになる(IntelのWebページから転載)

Win10Pro WSはサーバの機能を持つクライアントOSになる

 実は、Win10Pro WSが持つReFSやNVDIMM、SMB Directなどの機能は、現状のWindows 10 Proでもサポートされている(NVDIMMに関しては、ハードウェア側でのサポートなる)。ソケット数の増加、最大メモリ容量の増加はWin10Pro WSだけの機能だ。

 こういったことを考えれば、Win10Pro WSが新しいエディションとなるのかは、疑問がある。もしかすると、Win10 Proの追加ライセンスのような形態になるかもしれない。

 Win10 Pro自体にソケット増加、最大メモリ容量の増加を行わなかったのは、ハードウェアが異なるからだろう。プロセッサとしては、サーバ向けのIntel Xeonスケーラブルプロセッサや、AMD EPYCが前提となっているからだろう。メモリに関しても、デスクトップのCore iシリーズやRyzenシリーズが持つメモリソケットでは、容量が足りない。

 このような前提に立てば、Win10Pro WSが対象とするハードウェアは、サーバグレードのハードウェアになるのだろう。以前、誤ってMicrosoftがWebサイトに掲載したWin10Pro WSの情報によれば、グラフィックスカードやその他のデバイスを高い性能で動作するように最適化したWorkStation Modeが用意されているようだ。ただ、今回のブログではWorkStation Modeに関しての記述が無いため、実際にどうなっているかは不明だ。

 もう1つ指摘しておきたいのは、Windows ServerがLinuxなどと同じように、UIを廃止し、コマンドラインを前提としたサーバーOSに進化し始めていることだ。

 Windows Serverでは、ハイパーバイザーを使った仮想化だけでなく、コンテナ化を利用した仮想化など、よりクラウドインフラとなるべく機能を強化してきている。また、セキュリティ面を考えれば、セキュリティホールになりやすい機能をサーバに追加するのではなく、できるだけシンプル化していき、セキュリティ面での機能を高めていきたいはず。サーバOSの開発側からすれば、サーバOSにGUIなどは搭載したくないというのが本音かもしれない。

 こういった方向にサーバOSが進化していく場合、サーバOSを、高性能ワークステーションにインストールして使っていたユーザーは、機能が劣るWin10 Proに戻ることを強いられる可能性がある。こういったユーザーのニーズをカバーするために、Win10Pro WSが出て来たのかもしれない。

 今後、ディープラーニングや機械学習といった人工知能の処理、ビッグデータの処理などの一部は、サーバ側ではなくクライアント側で行うことも増えるだろう。サーバやクラウドなどではなく、手元にあるハードウェアを使って、開発者や研究者が自由に利用することで、画期的なシステムが開発される可能性もある。こういった用途に利用されるOSのインフラとして、Win10Pro WSがリリースされるのではないだろうか。

 Win10Pro WSに関する情報はまだあまり多くないが、Win10 FCUがリリースされる9月のタイミングで、より詳細な情報が公開されるだろう。そのときに、再度詳しい解説を行いたい。

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