[活写] 戦争の証し 風化させぬ
2017年08月15日
「コシヒカリ」が育つ水田の中に残る掩体壕(千葉県匝瑳市で)
今日は終戦の日。千葉県匝瑳市の農地に、太平洋戦争当時に作られた空襲から戦闘機を守る防空壕「掩体壕(えんたいごう)」が残る。
旭市に住む農家、品村初子さん(73)が所有し、「コシヒカリ」を作る水田に2基が並ぶ。戦時中、海軍が香取航空基地を造るため周辺の土地を接収し、このドームを築いた。コンクリート製で大きさは幅30メートル、高さ6メートル。翼を畳んだ戦闘機を1基に3機隠せた。
戦後、国から土地が戻る際、品村さんの家族は掩体壕を物置に使おうと考え、そのままにした。終戦から72年過ぎ、風化が進んだ今も農機などを置き続けている。
間近に立つ市の教育委員会の案内板には、戦争末期、ここから硫黄島に向けて特攻隊が飛び立ったと記されている。品村さんは「今も基地で働いた経験がある人が見に来る。このまま、ずっと残そうと思う」と話した。(富永健太郎)
旭市に住む農家、品村初子さん(73)が所有し、「コシヒカリ」を作る水田に2基が並ぶ。戦時中、海軍が香取航空基地を造るため周辺の土地を接収し、このドームを築いた。コンクリート製で大きさは幅30メートル、高さ6メートル。翼を畳んだ戦闘機を1基に3機隠せた。
戦後、国から土地が戻る際、品村さんの家族は掩体壕を物置に使おうと考え、そのままにした。終戦から72年過ぎ、風化が進んだ今も農機などを置き続けている。
間近に立つ市の教育委員会の案内板には、戦争末期、ここから硫黄島に向けて特攻隊が飛び立ったと記されている。品村さんは「今も基地で働いた経験がある人が見に来る。このまま、ずっと残そうと思う」と話した。(富永健太郎)
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農産物輸出4.5%増 米、牛肉、茶が好調 17年上半期
農水省は、2017年上半期(1~6月)の農林水産物・食品の輸出額が前年同期比4.5%増の3786億円だったと公表した。海外の日本食人気や販売促進の強化で米や牛肉、茶などの輸出が好調だった。2019年に輸出額1兆円の政府目標を達成するには、輸出拡大のペースを加速させる必要があるが、動植物検疫など障壁も多い。
加工食品を含む農産物全体では2284億円で前年同期から2%増。米は27%増の15億円(5600トン)。玄米はシンガポールや香港などの高所得者層向けの販売を強化。「日本食ブームで現地の和食レストランなどが仕入れを強めている」(農水省輸出促進課)。
牛肉は57%増の78億円で米国などが好調だった。すき焼きなど日本の食べ方も含めた販売促進の効果が出ている。茶も健康食ブームで68億円と27%増えた。一方、リンゴは昨年の青森県産の作柄が悪く、輸出額、量共に3割減少した。
林産物は中国や米国で需要が増え、173億円で34%と大幅に増えた。水産物は6%増の1328億円だった。
だが、1兆円目標の達成には、輸出拡大のペースの加速が必要。達成には10%の伸びが必要で、今回の4.5%とは開きがある。
課題の一つとなるのが検疫だ。輸出拡大の期待が大きい中国向けの米は、輸出可能な精米施設が一つに限られている。果実は、検疫条件が整わないために輸出できない国もある。
農産物輸出に詳しい明治大学専任講師の中嶋晋作氏は、目標達成には輸出に取り組む産地の広がりが欠かせないと指摘。「政府と民間が連携してオールジャパンで輸出拡大に取り組む必要がある」と語る。
2017年08月11日
植物性乳酸菌 配合食品が続々 みそ、せんべい、しょうゆ・・・ メーカー、付加価値化狙う
米や麦など植物由来の乳酸菌を配合した食品が増えている。整腸作用など健康効果が期待できる乳酸菌は牛乳由来が一般的だったが、メーカーが付加価値販売の手法として採用。みそや菓子など多様な商品作りに生かしている。植物性乳酸菌を豊富に含む発酵調味料を売りにした和食店も登場するなど、盛り上がりを見せる。
サッポロホールディングス傘下で、みそ製造の神州一味噌(東京都東久留米市)は、系列企業のサッポロビールが開発した大麦由来の植物性乳酸菌「SBL88」を、既存のみそ商品に新たに配合して付加価値化を狙う。みそ汁用生みそ「おみそ汁で乳酸菌」(500グラム、486円)や6食入りの即席生みそ汁など5商品を、同乳酸菌入りとしてリニューアル。9月1日に発売する。「生みそ市場が減少する一方、発酵食品はブーム。和食で乳酸菌を取ろうと打ち出す」と同社。売り上げは従来品の2割増を目指す。
米菓製造の亀田製菓(新潟市)は、今年3月に刷新したクリーム入りソフトせんべい「白い風船」(238円)に植物性乳酸菌を加えたことで、販売量を1.5倍に伸ばした。1982年発売以来となる刷新で、同社が開発した米由来の乳酸菌「K‐2」を大袋一つ当たり100億個配合。従来は北海道や九州など地方中心の展開だったが、「関東や首都圏での扱いが伸びた」と手応えを語る。数量は3枚減らし価格を据え置いた。
関西を拠点に外食店を展開する大和串プランニング(大阪市)は今月、しょうゆやみそ、みりんなど、日本の伝統的な発酵調味料にこだわった和食店「麹(こうじ)と酒一献三菜」を都内に開業した。
「日本の食卓に欠かせない発酵調味料は植物性乳酸菌の宝庫。日本人の体質に合った植物性乳酸菌を常食することで腸内環境が整う」(同社)と、健康性を強調。しょうゆは広島県庄原市産の大豆、みそは滋賀産大豆「みずくぐり」、みりんは佐賀産もち米「ヒヨクモチ」などを用いる。当面は、月間売り上げ1000万円が目標。「原価率は従来業態の2~5割増しと高めだが、ニーズは十分」と意気込む。
2017年08月15日
欧州13カ国 非GM大豆振興へ 宣言署名 タンパク質源 自給
タンパク質源は外国に頼らず自分たちで作ろう――。欧州13カ国の農相は、域内の大豆生産振興を盛り込んだ欧州大豆宣言に署名した。輪作を奨励して生物多様性と農地を健全に保つと同時に、消費者の需要の高まりから拡大する非遺伝子組み換え(GM)市場を後押しする狙いだ。
輪作奨励、農地健全に
宣言に署名したのはオーストリア、フランス、ドイツ、ハンガリー、オランダ、ポーランド、スロバキアなど。英国やスペインなどは参加していない。
ヒマワリやナタネに比べ、欧州で大豆のなじみは薄い。しかし宣言は西欧はもちろん、中東欧で、大豆が、小麦やトウモロコシなど主要作物の一つとして拡大できるとして地域や国家レベルで取り組むことを7月の会合で決めた。
今後、ウクライナやセルビアなど、欧州連合(EU)加盟国以外にも署名、協力を呼び掛ける。宣言を主導したハンガリー政府は「中長期的に大豆の輸入依存を変えていく」との声明を発表した。欧州全域で大豆増産の機運を高める考えだ。
欧州は全体で年間3000万トンの大豆・大豆ミールを輸入し、飼料原料などに回している。大豆増産で地域のタンパク質源の自給を高める効果が期待できるとしている。輸入を減らすことで、森林破壊などにつながる海外の無理な生産拡大に歯止めをかけられるとも説明する。
欧州の大豆ミールの自給率は2割にすぎない。輸入の大半は既に利用を認めているGM大豆が原料だ。主要な大豆輸出国では、既にGM比率が9割以上。一方で消費者の間には、食用、飼料用とも非GM大豆を求める声が出ているという。
宣言は「署名国は消費者が非GM食品と飼料に関して選択肢が増えるようにする」ことを盛り込んだ。今回の大豆振興が消費者の要望に沿ったものだと強調する。
欧州内では既に、域内産大豆の需要拡大に向けた取り組みが始まっている。ドナウ川流域で「ドナウ大豆」という地域限定のブランドづくりはその一つ。非GMなどを定めた栽培基準を守った大豆を対象にラベルの利用を認める。一定量を飼料に混ぜて育てた畜産物もラベルを使うことができる。食用、飼料用の両面から域内大豆の振興を進める方針だ。
欧州での「自給率向上」に懸念を強めるのは米国やブラジルなど大豆輸出国だ。署名国の一つオランダの場合、大豆と大豆ミールを合わせて700万トン以上を輸入し、中国に次ぐ世界第2位の輸入大国。米農務省は最近まとめた海外情報報告で「拡大する非GM大豆、有機食品市場が、オランダの署名の背景にある」などと分析。欧州の大豆振興に関心を寄せている。
ただ、欧州の農業側の足並みは必ずしもそろっていない。畜産飼料業界は自給に伴って原料コストの上昇を警戒する。同業界団体は宣言が署名される3日前、「大豆振興には賛成だが、慎重な対応が望まれる」との共同声明を発表した。有機農業団体などの間には「欧州になじみのない大豆増産は大規模生産者だけに恩恵がある」という批判もくすぶっている。(特別編集委員・山田優)
2017年08月14日
経営統合 相次ぐ 来春、丸果札幌と札幌ホクレンも 集荷力向上が急務 青果卸
青果卸で経営統合が相次いでいる。札幌市中央卸売市場で営業する丸果札幌青果と札幌ホクレン青果が来年4月の経営統合に向け、協議を始めた。青果卸では昨年、名古屋市中央卸売市場北部市場の卸2社が合併。広島市中央卸売市場でも卸2社が合併するなど、経営統合が活発化している。専門家は「卸売市場法の抜本見直しも議論されており、この動きはさらに加速する」とみる。
2017年08月15日
樹木葬 じわり浸透 墓荒れさせるより 自然回帰 子孫不在や独身増、土地不足・・・
墓石でなく樹木を墓標にして遺骨を土に埋葬する樹木葬がじわじわと広がっている。自然回帰や未婚者の増加、都市の墓地不足が背景にある。農村でも高齢化や子孫の不在で墓を守ることが困難になり、墓じまいをして森に返す動きが出ている。農山村の荒廃地を樹木葬の墓園として里山に再生する取り組みもあり、新しい墓のかたちとして注目を集めている。
放棄地再生兼ね 千葉県長南町「森の墓苑」
東京都心から車で1時間半、千葉県長南町の山間地に整備された丘陵地が広がる。日本生態系協会が2016年に開いた「森の墓苑」だ。墓地といっても墓石はない。放棄され荒廃した土砂採掘場を里山に再生する計画で、遺骨を納める区画に墓標として樹木を植え、50年かけて“森に返す”構想だ。
大阪府から同墓苑を見学に来た服部文子さん(68)は、チョウが飛び交う情景を眺めながら「森に返るなんてすてき。自然が好きだった父も喜ぶ」と目を輝かせた。娘はいるが「遠方に嫁いだので面倒を見てもらうつもりはない」と、いずれは両親の遺骨と一緒に樹木葬を思案する。
同行した兄の五箇哲さん(71)は「子どもがいないので、両親の墓を継続して管理できない」と、現実的な課題から樹木葬に関心を持つ。妻の眞美子さん(64)も「誰かに墓を託すより、自然の中で永遠にまつられるのがいい」と魅力を感じている。
周辺の住民も、新たな墓地に注目する。自営業の渡辺一雄さん(66)は「地元でも、高齢化や離村で墓を荒らしてしまう家が増えている」と話す。周囲は自宅に墓のある家も多く、空き家になって放置される墓もあり、遺骨を森の墓苑に移した家もあるという。
住民の同意取りやすい
同協会は12年から、墓地の開設について周辺の住民を訪問して理解を進めた。住民から「石の墓が周囲に広がるのは嫌だ」といった声もあったが、樹木葬で里山を保全する目的に住民の同意を得て、15年3月に地元の長南町から墓地の運営許可を受けた。
契約条件に応じてコナラ、ヤマツツジなど地元由来の樹木を選べる。昨年2月の開設以来、契約数は28件、申し込み済みは10件で、既に納骨も始まっている。担当する服部仁美主任は「代々の墓は維持できない、という人が関心を持っている。森になるということに共感する人も多い」と話す。
森林活用の方策として樹木葬の普及に取り組むNPO法人・北海道に森を創る会の片山尚正監事は「近隣に墓地ができることを嫌がる住民は多く、行政の許可を得にくいのも事実」と課題を挙げる。墓地から農地への水の流入などを心配する声もあるという。一方で「子どもがいない世帯や未婚者など、墓を守れない人が増えており、今後も増える」と指摘する。
農村部でも今後ニーズ
農村部では、都市部に比べて樹木葬は浸透していないのが現状だ。長野県JAみなみ信州の子会社で、飯田市などで葬祭業を運営するジェイエイサービスの奥村充由社長は「田舎では墓を守るという考えが主流」と考える。ただ、高齢化や都会への移住などで墓の管理が困難な家が出ているのも事実で、「今後、ニーズは出てくる」(同)とみる。(福井達之)
<メモ> 樹木葬
墓地埋葬法に基づき、墓と認められた場所に遺骨を埋める埋葬法。墓地の運営と管理主体は、地方公共団体を原則に宗教法人、公益法人に限るとされている。
2017年08月11日
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2017年08月15日
[活写] 浮かぶ大玉 地域の目玉
宮崎県日向市の富高地区で、空き地を使ったスイカの空中栽培が、通り掛かる人の目を楽しませている。
まちづくりに取り組む住民組織、富高花と緑の会の会長を務める鈴木良雄さん(66)が「地域の目玉にしよう」と育てている。住民の通り道を兼ねる幅6メートルの細長い空き地の上に、格子状に組んだ竹などで長さ45メートルの棚を設置。スイカ17株のつるを伸ばし、育った実をビニールのひもでつっている。一緒にカボチャも植えている。
元会社員の鈴木さんは、同会で管理する空き地を生かそうと雑誌などで空中栽培を独学。8年前に作り始め、今では農家も見学に訪れるようになった。品種は大玉の「秀山」など。
今年は9月までに150個ほどを収穫し、近所の保育園などに配る予定。鈴木さんは「今年は天候に恵まれ玉の太りもいい。多くの人に見てほしい」と話す。(木村泰之)
2017年08月14日
幻のリンゴ 「カルヴィル・ブラン」 菓子用に 青森に1本だけ パティシエ高評価 新たな用途開発栽培研究に着手 弘前大
青森県の弘前大学は、国内ではほとんど出回らない幻のリンゴ品種で、酸味や香りが菓子に向く「カルヴィル・ブラン」の栽培研究に乗り出した。フランス菓子の研究家が、同大農場に1本だけ残るこの品種に着目。独特の酸味や香りが菓子に最適で、パティシエ(菓子職人)からも高評価を得た。2017年度は加熱調理に向く収穫適期を見極め、将来は産地化を目指す。
「カルヴィル・ブラン」はフランスの品種。果皮が薄緑色で、果実の下部に凹凸が出て渋味や酸味、香りが強い。リンゴを主に生で食べる日本では、甘味がある品種が好まれてきた。青果用として好まれる性質を備えていなかったため、遺伝資源として1本だけ、かつて農林省試験場だった同大農学生命科学部付属藤崎農場に50年以上、残されていた。
この品種に注目したのが、神戸市在住でフランス菓子文化研究家の三久保美加さんだ。19歳で渡仏して以来、約30年にわたってフランスの伝統菓子やその歴史、地方の伝統行事を研究。国内で手に入る調理用リンゴを探す中、16年に料理研究家やパティシエらが集まるリンゴ研究会に参加していた同農場の関係者から、この品種の存在を聞かされた。
「菓子に使う品種として、昔の文献などで名前は知っていたが、フランスでも見掛けたことはなかった。国内にあるとは思わなかった」と三久保さんは振り返る。
三久保さんは果実60キロを大学から提供してもらい、甘く煮た果肉にタルト生地をかぶせて焼き上げる、フランスの代表的な伝統菓子「タルトタタン」に調理。東京のパティシエや製菓学校講師ら10人にも分けると「日本で手に入るなら今後も欲しい」「もっと生産を増やしてほしい」と大反響だった。
こうした評価を受け、同大は17年度、同品種の加熱調理に向く収穫適期の見極めの研究に着手。複数の時期に収穫し、最適な時期を探る。将来は、大学と連携協定を結ぶ同県板柳町などに産地化を呼び掛ける方針だ。
同大の林田大志助教は「国内でこの品種を保有する研究機関や農家がいると聞いたことはない。料理用として、ここまで高く評価されていることを生かし、新しい用途のリンゴとして確立したい」と展望する。(鈴木琢真)
2017年08月12日
樹木葬 じわり浸透 墓荒れさせるより 自然回帰 子孫不在や独身増、土地不足・・・
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同行した兄の五箇哲さん(71)は「子どもがいないので、両親の墓を継続して管理できない」と、現実的な課題から樹木葬に関心を持つ。妻の眞美子さん(64)も「誰かに墓を託すより、自然の中で永遠にまつられるのがいい」と魅力を感じている。
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住民の同意取りやすい
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2017年08月11日
グローバルGAP 米174ヘクタール332戸 団体認証 国内最大規模 滋賀・JAグリーン近江管内4法人
米のグローバルGAP(農業生産工程管理)で認証規模が日本最大級の組織が、滋賀県のJAグリーン近江管内で誕生した。4法人などでつくる「JAグリーン近江老蘇集落営農連絡協議会」が認証取得した。栽培面積約174ヘクタール、生産量約870トン、332戸が所属し、地域の8割近くの農地をカバーする。JAは、内部検査を担う人材育成による更新費の軽減などで支援体制を整える。認証取得と、生産量の多さを“武器”に販路開拓を狙う。
2017年08月09日
のろのろ台風 自転車並み速度で列島縦断 長時間の風雨 広範囲に被害 河川氾濫 農地水浸し 滋賀
発生から18日と観測史上3位の「長寿台風」となった5号は8日、ゆっくりした速度で日本列島を進んだ。各地で長時間の大雨と暴風をもたらし、九州、近畿、東海地方で農業被害が出ている。滋賀県長浜市では同日、河川が氾濫し水稲などが冠水した。9日午後には秋田県・男鹿半島付近を通過する見込みで、気象庁は河川の氾濫や土砂災害、暴風への警戒を呼び掛けている。
姉川があふれた滋賀県長浜市では、周辺の農地が泥で埋まるなどの農業被害が出ている。
「今回の水害はきつい。70年以上生きてるけれど、こんな被害は初めてだ」。同市の農家、米田庄一さん(76)は驚きを隠さない。農地が川沿いにあったため、出荷を控えていたゴボウやトウガラシ、サツマイモなどの野菜全てが水に漬かり、2ヘクタールが濁流で埋まった。数日前にソバを1・5ヘクタールで種まきしたがほぼ流され、水路には土砂が流れ込んでいる。「水稲と果樹以外は、ほぼ全滅や」と肩を落とした。
「この畑を見たら、おばあちゃんはどう思うだろうか」と、同市の丹部弥生さん(90)の畑を、孫の藤野牧子さん(43)は無念そうに見つめた。手塩にかけたネギやトマトの畑には土砂やがれきが入り込み、無残な姿となった。
県によると、8日午後3時現在で長浜市や米原市を中心に水稲、大豆などの倒伏や冠水などの被害が計75ヘクタールに上る。ビニールハウスなどの損壊は、県内6市町村で確認されている。
この他、鹿児島県は同日午前10時現在でオクラやニガウリ、サトウキビ、果樹などに総額2億5428万円に上る被害が出たと発表。三重県では水稲やネギの倒伏、梨の落果など、岐阜県でも水稲が倒伏した。7日夕に竜巻が発生した愛知県豊橋市では、梨の落果やビニールハウスが破れるなどの被害が出ている。
総務省消防庁のまとめ(8日午後6時現在)によると、鹿児島県では風による転倒や海への転落で2人が死亡。同県や和歌山県では骨折する人も出た。三重、鹿児島県などで住宅62棟が一部損壊した他、鹿児島、山梨、滋賀県などで床上・床下浸水が103棟で発生した。
気象庁によると、8日午後4時30分までの24時間雨量は石川県加賀市で233.5ミリ、滋賀県長浜市で231ミリと、いずれも観測史上最高を記録するなど日本海側を中心に荒天となった。
発生18日、長寿3位
台風5号は8日、日本列島をゆっくりと縦断し、各地で田畑の冠水や強風による農業被害をもたらした。時速20キロと、自転車並みの“のろのろ台風”だったため、通過した地域では長時間、大雨や強風が続いた。
5号は7月21日朝に小笠原近海で発生してから8日で18日が経過し、観測史上3位の「長寿台風」となった。列島に高気圧が居座っており、進路を阻まれるなどして速度が遅くなったことも影響した。気象庁は、長寿台風は不規則な経路をたどる傾向があるという。
5号は発生後、太平洋を西に進み、5日ごろ奄美地方を通過し長時間雨をもたらした。その後、動きが遅いまま九州と四国の南海上を進み、7日午後に和歌山県へ上陸した。
同庁によると、発生から消滅までの「台風の寿命」は平均5.3日。統計がある1951年以来、最も寿命が長かったのは1986年の台風14号の19.25日だった。
2017年08月09日
台風5号 オクラに擦れ 収穫間近…無残 宮崎県串間市
日本に接近した台風5号は、九州、四国など広範囲に被害をもたらした。宮崎県串間市では、JAはまゆう管内のオクラに被害が出た。収穫間近だった7ヘクタールのほぼ全域で、暴風で実の表面が傷つく「擦れ果」が発生。被害の大きい「擦れ果」は廃棄するしかなく、2、3日間は出荷ができない見通し。
JA露地野菜部会オクラ専門部の原田俊一部長の12アールの畑には、10センチを超えるオクラが実っていたが、擦れて出荷できない状態。倒伏もあった。7日は、半日かけて木を起こす作業に追われた。原田部長は「少しでも無事な果実が多いことを祈るしかない」とこぼす。
JA営農指導課によると、収穫まで数日の小さい果実も被害を受けており、2、3日は出荷を再開できないという。被災前は日量2トンの出荷量が回復するのは早くても1週間後となりそうだ。被害額は400万円に達する見込み。
高知県は7日、第3回県災害対策本部会議を県庁で開き、被害や対応状況を協議した。農業被害は7日午後3時時点で、香南市、香美市でビニールハウスの被覆フィルムが破損した他、四万十市などで水稲が倒伏。宿毛市、土佐清水市でオクラの擦れなどを確認した。
2017年08月08日
[宮城全共] 高校“牛児”晴れ舞台へ 30年ぶり 一般枠出場
9月7日に仙台市で開幕する“和牛の五輪”第11回全国和牛能力共進会(宮城全共)の最終比較審査まで、1カ月。全国39道府県の予選を勝ち抜いた513頭に、高校2校から2頭が選ばれた。今回特設した「高校の部」ではなく、一般の農家と競う出品区で高校が出場するのは、1987年の第5回島根大会以来。30年ぶりの快挙に注目が集まる。
2017年08月08日
奈良のシカ 捕獲開始 農業被害に歯止め 市東部2地区
国の天然記念物「奈良のシカ」の捕獲が奈良市東部の2地区(田原、東里)で始まった。奈良公園周辺で食害による農業被害に歯止めがかからないためで、奈良県は文化庁の許可を得て、本年度は120頭を上限に捕獲する。頭数管理のための捕獲は天然記念物に指定された1957年以降初めて。
捕獲手法は箱わなで、おりの中に餌を置きおびき寄せ捕らえる。2地区は同公園から約5キロ離れ、農業被害が集中する地域。県猟友会の協力で7月31日、計6基のおりを設置した。県によると4日現在、鹿は捕獲されていない。
「奈良のシカ」は春日大社の神の使い「神鹿(しんろく)」とされ、観光資源として保護されてきた。
県によると、保護の対象区域は2005年の合併前の旧市内全域で約4000頭が生息するとみる。食害は稲を中心に柿、シイタケ、茶など多岐にわたる。
農家は実質追い払いしかできず、防護柵の設置も農地全てを囲むことは困難で、被害の根絶にはつながらなかった。
県の農業被害アンケートで、13年度までの5年間で「被害が増えた」と回答した旧市内を含む県北部の農家は7割を超えた。
過去には鹿害に苦しむ地元農家が行政を相手取り損害賠償請求を起こした他、地元農家が64年に結成した「奈良市鹿害阻止農家組合」が県知事へ鹿害対策の要望書を提出するなど、幾度となく被害抑制策を求めていた。同組合の福井甚三組合長は「捕獲は農家組合にとって大きな一歩」と力を込める。
担当する県奈良公園室は「農家とのあつれきをなくし、人と鹿との共存を図っていきたい」と話す。
2017年08月07日
九州北部豪雨1カ月 田畑に土砂 今も厚く 水稲 分けつ進まず 福岡県朝倉市
7月の九州北部豪雨で田畑にたまった土砂が、1カ月たった今も農家を苦しめている。水田では稲の株を圧迫し、分けつを妨害。柿やブドウなどの果樹園では地表を厚く覆って根の呼吸を妨げ、根腐れの原因になっている。このままだと収量減や生育不良を免れない状況だ。強い台風5号も迫り、九州北部では7日にかけ、再び大雨の恐れがある。農家やJAは“二次災害”の拡大を強く警戒している。
「まるで分厚いれんがだ」。福岡県朝倉市で稲作を営む小川靖雄さん(80)は、連日の暑さで干上がり固まった土砂の塊を手に取った。小川さんが管理する水田1ヘクタールは川の氾濫で土砂が流入し、半分が壊滅した。残りの半分は稲が埋没することなく生き残ったが、土砂が6、7センチほどの硬い層になっている。稲は重い土砂に押さえつけられ、通常の分けつが進まない。例年ならこの時期、1株20~25本に増えるはずだが、ほとんどが2、3割少なく、出穂する数が大きく減る恐れがあるという。「水管理は、肥料は、どうすればいいのか。育ったとしても土砂の上から収穫できるのか」。小川さんは、考えるほどに不安が大きくなる。
JA筑前あさくら管内の朝倉地区では水田540ヘクタールのうち、6割が小川さんの水田のように土砂が堆積した状態という。朝倉普及指導センターは今後、今の水田の状態でも一定量の収穫を実現するため、栽培管理の指針を出す考えだ。ただ、水田ごとに流入した土砂の量や質が異なることもあり、指針作りは難航しているという。
今作の収穫が終わった後は、土砂の撤去が始まる。ただ、同地区では麦の輪作を営む農家が多い。米の収穫から麦の種まきまでは約1カ月。作業が終わらなければ、麦の栽培にも影響が出るのは必至だ。
果樹の影響も深刻だ。JA管内には、数十センチも土砂が堆積している柿やブドウの園地がある。根が酸欠状態で、このままだと木が枯死する恐れがある。同センター園芸課は、根が一部分でも呼吸できるよう、果樹の間にある作業路上の土砂に絞って撤去を呼び掛けている。5日も、日中の気温が35度に迫る厳しい暑さの中、農家の手で作業が進められた。
現在、強い台風5号が九州に迫っている。九州北部では6日午後6時までの24時間雨量が多い所で250ミリに上る見込みだ。同センターは「大量の雨でまた作業路が埋まってしまえば農家の心が折れてしまう。何とか、それてほしい」と願う。(金子祥也)
2017年08月06日