忘却からの帰還

Zivilverteidigungsbuch

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Zivilverteidigungsbuch (スイス民間防衛, 1969)


英国のAdvising the Householder on Protection Against Nuclear Attack (1963)とProtect and Survive(1976, 1980)の間ごろの1969年に、スイスで民間防衛ブックレットZivilverteidigungsbuch (俗称は赤い本)が出版された(主筆者はAlbert Bachmann)。
Das Zivilverteidigungsbuch war ein vom Schweizer Bundesrat im Rahmen der Geistigen Landesverteidigung herausgegebener Ratgeber über den zivilen Schutz des Landes, um die Widerstandskraft des Volkes zu stärken und die Unabhängigkeit der Schweiz zu sichern. Das Buch wurde im September 1969 vom Eidgenössischen Justiz- und Polizeidepartement im Auftrag des Bundesrates gratis an alle Haushaltungen der Schweiz abgegeben.

「スイス民間防衛」は、「国民の抵抗力を強め、スイスの独立を守るために、精神的国土防衛のコンテキストで、民間防衛のガイドを提示する」ために、スイス連邦参事会により作成された)。この本はスイス法務省により1969年9月に出版され、連邦参事会になりかわってスイスの全世帯に配布された。



[ wikipedia:Zivilverteidigungsbuch ], [ ricardo ]
この「精神的国土防衛」とは全体主義からスイスを守るために1930年代にスイス政府が始めた政治・文化運動で、1930年代から1960年代までアクティブだった。

Ralph A Stammによれば、1960年代に精神的国土防衛が運動が弱まっていくと、「スイス民間防衛」は発行時点で時代遅れとなり、1980年代には誰も省みなくなった。
The volume was known in Switzerland as the “red booklet“, which is a double irony: the ‘booklet’ is 320 pages long and full of anti-communist ideology. Zivilverteidigung (Civil Defense) was published in 1969 and 2.6 million copies were distributed to Swiss households for free. It served two purposes: 1) as a guide for the Swiss population about how to behave during, and prepare for, national disasters, including nuclear war; and 2) to instill a spirit of patriotism and resistance towards everything foreign and dangerous (at that time, mainly communism).

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Not so in Switzerland, where it was already out of fashion at the time of its original publication: when they started the project in the early 1960s, the Swiss authorities didn’t anticipate the social changes that would occur later in the decade. In the 60s, large parts of Swiss society began to open their minds and reject the ideology of “spiritual defense”, created by the government in the 1930s, first to resist fascism and later communism. Criticized for its harshness towards non-conformism of every kind, by the late 80s even the strongest proponents of “spiritual defense” would have laid Civil Defense aside.

この本はスイスでは「赤いブックレット」として知られるが、これは2つの意味でアイロニーになっている。ブックレットと言いながら、320ページもあり、反共イデオロギーに満ちている。「スイス民間防衛」は1969年に出版され、260万部がスイスの世帯に無償で配布された。それには2つの目的があった。1) スイス国民に、核戦争などの国家的災厄の際にどう行動し、そのような事態にどう備えるかのガイドとして。2) 愛国心及び外国と危険なもの(当時は主として共産主義)すべてに対する抵抗力を注ぎ込む。

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スイスでは最初に出版された時点で既に時代遅れになっていた。1960年代初頭にプロジェクトが始められたころ、スイス当局は1960年代後半に起きた社会の変化を予想できなかった。1960年代に、スイス社会の多くが、心を開き、もとはファシズム、その後は共産主義に抵抗するために、1930年代に政府によって作られた「精神的国土防衛」のイデオロギーを拒否し始めた。あらゆる種類の反体制に対する厳格さが批判を受け、1980年代後半には、「精神的国土防衛」の強力な支援者も、「スイス民間防衛」を放棄していた。

[ Ralph A Stamm: "Revival of the “Red Booklet”" (2011/08/31) ]


批判


Löffler(2004)によれば、出版前から政府内でも批判を受け、出版が10年遅延し、出版後も批判を招く状況だった。


赤い本の起源

1969年、スイス法務省は「民間防衛の本」を出版し、スイス全世帯に配布した。スイス連邦参事会(内閣)と行政機構は、有名な著者たちや高官の支援を受けて、Bachmann大佐が執筆した本を委ねられた。スイス議会は、このプロジェクトについて、ほんの少ししか関知していなかった。この本は、戦時や災害後の適切な行動や、共産主義や国内破壊工作の脅威に対する「正しい」態度について、取り扱っていた。「民間防衛」は政府内では強く反論され、記載内容についての疑義や、出版に関する問題や資金の問題が立ちはだかり、著者たちと編集者たちは、出版まで長い時間待たなければならなかった。最終的に出版までに10年を要した。フランス語とイタリア語に翻訳されると、徹底した批判を巻き起こした。最も重大な影響の一つは、1970-1971年のSwiss Author's Association内の分裂と、Group of Olternの設立だった。

[ Rolf Löfflerr: "Zivilverteidigung" : die Entstehungsgeschichte des "roten Büchleins", Schweizerische Zeitschrift für Geschichte = Revue suisse d'histoire = Rivista storica svizzera, 54, 2004, pp.173-187 ]

支持者


「Zivilverteidigungsbuch (1969)の内容は正しかった」という主張は、なかなか見当たらない。ようやく見つけたのは、スイスの週刊誌Die Welwocheの記事:

翻訳版


原書は出版時点(1969)で既に時代遅れとされ、Protect and Surviveよりも古いものだが、日本では1970年と1995年と2003年に翻訳版が原書房から出版されている。

1970 1995 2003

40年以上前のスイスのブックレットが、日本でそれなりに売れていることについて、Ralph A Stammは次のように見ている。
Why, then, is the book still so popular in Japan? The answer says a lot about the state of Japan today. There are nationalists in Japan who fear a cultural invasion by South Korea, military attacks by North Korea and even a military invasion by China. These people warn that the Japanese are not prepared to defend against such evils. Waving a book written during the Cold War they point to Switzerland and say: “Look at the Swiss, they know how to defend themselves. They have shelters. Everyone is trained in how to stockpile food for times of emergency and how to behave during a nuclear attack”.

What’s wrong with this? Forgive my chuckling, but they are confusing the centuries. In Switzerland, old bunkers have been turned into hotels and shelters are used as wine cellars, but some in Japan still look to Switzerland as a model of civil defense.

なぜ、今でも日本では、この本が人気があるのか? その答えは、今日の日本の状況について多くを語っている。韓国による文化侵略や、北朝鮮による軍事的攻撃や、さらには中国による軍事侵攻を怖れるナショナリストたちが日本にいる。この人々は、日本人が、そのような悪に対抗する準備ができていないと警告する。冷戦期に書かれた本を掲げて、「スイス人たちは、自分たちを守る方法を知っている。彼らはシェルターを持っている。誰もが非常時の備えて、食料備蓄する方法や、核攻撃の際にどう行動するか、訓練されている」と言う。

それのどこが問題なのか? 笑いをこらえられないが、彼らは時代を間違えている。スイスでは、古いバンカーはホテルに転換され、シェルターはワインセラーとして使われているが、日本には、いまだにスイスを民間防衛のモデルとして見ている人々がいる。

[ Ralph A Stamm: "Revival of the “Red Booklet”" (2011/08/31) ]

Zivilverteidigungsbuchが発行された1969年の翌年1970年の日本語版は、平和の国スイスのもう一面を知る材料として意味があったかもしれない。しかし、今は、Atomic ageのスイスの姿を垣間見る素材というべきもの。


なお、このZivilverteidigungsbuchは、google booksで見る限り、1979年に中国語版(瑞士民防手冊)が出版されたことがある。ネット上でほとんど言及されていないので、特に広く知られているわけでもなく、継続的に出版されているわけでもなさそうである。また、Ralph A Stammによれば、アラビア語版(エジプト)も出版されたことがあるというが、それらしい出版物は見当たらない。





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