『ボツの春』


１　表紙
２
１・２　店外　雨
３・４・５・６　店内　ジョー、小藪、ボツ
　　ボ「六月なんてもう夏と変わらないネ。
　昨日も今日も30度越えたってさ。
　春と秋で充分なのになあ。嫌がらせばっかりだ」
　ブツブツ
７　ボ「もう二度と地球には
　生まれ変わってやんねえ」チッ
　　ジョ「もっと酷いとこ行ったりして」
８　ボ「そうだ、近所のコンビニでさ、
　えらい美人の店員がいたよ」
　　ジョ「ほう」



３
１・２　ボ「新人らしいんだけど、
　色白で人形みたいだったな。
　まあ、ジーッと見るわけにもいかんから、
　はっきりわかってないんだけどね。
　なんだか久しぶりにあーいう子見たから
　ちょっと刺激的だったよ」
　　小「このジメジメした季節に何を言い出してんだ」
３・４　小「おめえの色気話なんぞ鬱陶しくて
　聴く気になれんよ」
　　ボ「ヤブさんも無縁だもんネ。お察ししますよ」
５　ボ「でも、なんであんな子がコンビニバイト
　なのかな。アイドルとか声優なら
　もっと儲かるだろうにな」
　　ジョー、グラス磨きながら、
　　ジョ「美人がみんな芸能人になるわけではないし、
　多くは普通に暮らしてるでしょう」
６　ジョ「若い新人なんでしょ？ 高校か大学に進んで
　バイトも始めたってとこでしょうね」
　　ボ「あ〜、そうかもね」
７　小「まさかちょっかい出す気か？ やめとけよ。
　分不相応ってやつだ」
　　ジョ「18歳未満は特に危ないですね」
　　ボ「べつに何もしてないよ。
　ストーカー呼ばわりされるのもやだし」
８　ジョ「そういえば、知り合いにいましたよ。
　店員にほれた奴」
４
１・２　ジョ「頻繁に通って、意を決して話しかけたりで、
　数回目でデート誘おうとしたら、『やっと好きな人が
　出来たんですよー』と言われたそうです」
　　ボ「あ〜、おめえじゃねえよって意味ネ」
３　ボ「でも思ってるだけじゃどうにもならんもんね」
　　小「で？ ボツはどうすんだ？ アタックすんのか」
４　ボ「おや？ 聴きますか。興味津々？」
　　小「相手の子が心配でね」
５　小「その子はまだ20歳前後の娘なんだろ？
　おめえはその子の親の代だ。おめえが相手
　できるのはせいぜい40過ぎだろう」
　　ボ「え〜、40？」
６　ボ「でも、40過ぎっておばちゃんぽくない？」
　　小藪、マティーニ吹く
７・８　小「 ････おめえは自分を何だと思ってんだ？
　おめえは齢50の紛（まご）うことなきオヤジだぞ。
　若い娘に一目惚れなんかしてる場合か、自覚しろ」
　　ボ「ところが精神年齢は10代のままなのよね〜」
５
１　小「こんなのが50代のオヤジかと知ったら
　がっかりする若者も多かろうぜ」
　　ボ「だから目立たずひっそり生きてるわけですよ」
２　小「薄らハゲても心は若い、か」
　　ボ「ハゲると一気に老けて見えるよね。
　納得行かないなあ」
３　ボ「股毛や脇毛やすね毛は多いのになあ。
　無駄なことしてるよなあ」
　　ジョ「じゃあ、その部分を頭に移植してみれば？」
４　ボ「やるにしても金かかるな････そういえば
　ヤブさんはハゲてないね。ハゲればいいのに」
　　小「････それよりさ、
　一時の気の迷いで迷惑かけちゃいかんぞ」
５・６　ボ「ところが、その気の迷いは世間に
　よくあるようで、アメリカでの集計結果だってさ」
　　ボツ、iPhone 差し出し、
７・８
　ボ「20歳から50歳までの45歳を除いた
　すべての年齢の男性が、最も魅力的だと思う女性の
　年齢が20～23歳の4年間に集中しているそうです」
　（『ハーバード数学科のデータサイエンティストが
　明かすビッグデータの残酷な現実』）※
６
１・２
　ボ「一方女性は、各年代共にほぼ同年代に
　魅力を感じるそうで、ハーバード大学の数学科卒で、
　アメリカ最大の出会い系サイトの運営者が書いたと。
　本は読んでないけど、ネットでグラフがあったんよ」
３・４　小「統計はいつどこで誰がどのように調べたか、
　条件次第で変わるからな。ましてやアメリカだろ？
　人種や信仰や地域によっても意識の違いはあるもんだ。
　日本と同じと思ってんのか？」
　　ボ「まったく同じとは思わないけどさ、
　自分はこんな狭くはないし」
　　ジョ「各年代がそこまで揃うとはすごいですね」
５　小「各年代ほぼ一致てのも不自然だな。
　それぞれそれを好む奴もいるってことなら
　まだ説得力あるんだがねえ」
　　ボ「あくまでも平均なんでしょ」
６　小「そもそも20歳から23歳までってことは、
　24や25はダメってことかい？ 19もダメかね」
　　ボ「ボクに聞かれてもなあ」
７　ボ「まあ、日本でも口の悪い奴は30前後で
　ジジババ呼ばわりらしいからね。
　案外共通してんのかなと」
　　小「たしかに子供には20代も
　おっさんおばさんだわな。
８　ボ「そういや、27歳と32歳の女性だと
　男は27歳を選ぶ傾向にあるらしいよ。
　きのうネットで見た」
　　小「そりゃ関わりが無い状態での判断だろ。
　身近に30前後が何人もいれば変わるだろうさ」
７
１　ジョ「そういえば年上女房なんていますね。
　奥さんの方がだいぶ年上だったり」
　　小「先に死ぬ男には数年上なんか
　どうでもいいことさ」
２　ボ「年齢は気にしないの？」
　　小「20〜23歳にこだわらないってことだよ。
　120歳で世界最長寿だった泉重千代さんは、
　好みの女性を聞かれて『年上の人』と答えたってな。
　半分冗談だろうけどね」
３　小「条件にうるさいのは
　女性だけではなかったわけか」
　　ボ「条件たって、男の希望も
　昔から変わらんでしょう。
　若くて美人で優しいとか････」
４　ボ「まあ実際はそれも妥協したりだろうし、
　男はチョロいね」
　　小「女性も妥協してるらしいがな」
５・６　小「いや、そんな世間のことは
　どうだっていい、
　おめえの話してたんだぞ。どうすんだ、
　その店員にちょっかい出すのか？
　おめえに甲斐性はあるか？ 責任負えねえだろ」
　　ボ「あ〜う〜････」
７・８　小「昔は物書きであれ芸人であれ、
　人によっては貧乏にも耐えて付き添う女性が
　いたようだが、時代が違うからな」
　　ジョ「いたとしてもボツさんには
　関係なさそうですね」
　　ボ「はっきり言ってくれるネ」
８
１　小「仕事も安定してそこそこ収入があります、
　もしかしたらもっと売れるかも、てことなら
　可能性はあるんじゃねえかな」
　　ジョ「一番いいのは売れて
　有名になることでしょうね」
２　小「女釣るには苦労はいらぬ、
　富と名声あればよい、ってな。
　そうなりゃボツでも余裕だろうさ」
　　ボ「ボツでもってなんですか」
３・４　ボ「こっちだって女なら何でもいいわけじゃ
　ないし、結婚して後悔した人もザラなのは知ってるし」
　　小「そうだよ、女は星の数ほどってぇが、
　星には手が届かねえし、やっとつかんだと思ったら
　災いの元だったりな。
５・６　小「好きで不幸になる奴はいねえからな。
　ましてや女性はみんな生活が第一だ。
　そんなこと言ってた俗物政治家もいたがな」
　　ボ「つまり可能性はないってことだネ。
　現実は厳しいなあ」
７　ジョ「でも、ボツさんが本気なら応援しますよ」
　　小「マスター、そんな調子いいこと
　言うもんじゃないよ」
８　ジョ「いえ、このままだと一度もモテず
　相手にされず、何事もパッとしないまま
　老いぼれて、雑然とした部屋の中か路上で
　枯葉が埋もれるように一人寂しく
　息絶えるんでしょう？
　あまりにも哀れじゃないですか。
　何のために生まれてきたやら、気の毒過ぎますよ」
　　ボ「････そんなに酷いかネ」
９
１　ジョ「男一代、これも一生をかけた
　チャレンジでしょう。レッツトライです！」 グッ
２　夜　裏通り
　　ボ「マスターは結構熱い男なんだネ。
　口悪いけど」
３・４　
　　路上、ボツと小藪歩く
　　小「俺としても闇雲に反対する気はないが、
　なにぶん相手のあることだし、まだ娘だってぇからな。
　気が進まねえんだよなあ」
　　ボ「まるで向こうの父親ですネ」
５　ボ「はっ！ まさかあの子の父親は！？」
　　と小藪に振り返り、
　　小「俺はずっと独りもんだよ」
６　ボ「だよネ。全然似てないし」
　　小「色恋沙汰は気まぐれで失敗も多いからな」
７　ボ「ボクがうまくいったら、
　今度はヤブさんに協力しましょうかネ」
　　小「ふん、いらんお世話だよ」
８　小「で、その子にどう相対するわけかね」
　　ボ「いや〜、それがどうにもどうしよ････」
９　小「手紙でも渡したらどうだい」
　　ボ「手紙？ 今時？」
１０
１・２　小「まずは手紙で自己紹介とかさ。
　まあ、いきなりは警戒されるか。時期を見てかな。
　向こうも手っ取り早く理解が深まるだろ」
　　ボ「手紙はどうかなあ。今時ならメール交換とか
　LINE 使うとか」
３・４　ボ「といっても無理そうだなあ」
　　小「さすがに相手の個人情報は難しいな。
　まずはおめえの直接の言動と、
　手紙の内容によるわな。
　親しくなれば妥協してくれるさ」
５・６　ボツ自宅部屋
　　積んだ本に囲まれてボツが
　　パンツ一丁で座布団に座り机に向かう
　　ボ「手紙なんか書いたことないなあ。
　字も下手なのに」 う〜ん
７　ボ「拝啓　ジメジメの季節の中、股間もジメジメ、
　人生もジメジメの50歳です････こりゃ嫌われるネ」
８　カラーレス店内
　　ボ「手紙なんて文才なきゃ無理でしょう」
　　小「見栄張るからだよ、
　普通に自己紹介でいいんだよ」
１１
１　ジョ「ボツさん、漫画家志願なら絵も
　描けるでしょ。似顔絵でも贈ったらどうですか。
　よく描ければ喜ぶかも」
　　ボ「じっくり見てるわけじゃないからなあ。
　似顔絵苦手だし」
２　小「プロになろうって奴が苦手なんて言ってる
　場合か。ここでササっと描いて見せろよ」
　　小藪、手帳と万年筆を渡す
３　ボ「え〜と、こうでこうかな････」
４　ボ「こんなもんかな」

５　小藪、絵を見て、
　　小「････････」
６　小「････漫画には疎くてなあ。
　マスターわかるかい？」
　　小藪、ジョーに手帳渡し、
７・８　ジョ「････アメリカのアニメか何かに
　あるような絵ですね。こういう絵柄でしたっけ？」
　　ボ「いや、似顔絵だから調子違うんだよ、
　ちょっと写実風にネ」
　　小「贈っていいやら悪いやら････」
１２
１　ジョ「いっそ少女漫画風にしたらどうですか？
　美人にすればその子も喜ぶでしょ」
　　ボ「だから美人に描いてるのに。
　少女漫画は分野違うからなあ」
２　ボツ、再び描き、
　　ボ「少女漫画で美人ね････」
３　ボ「ま、こんなもんかな」

４　ジョー、手帳をみて、
　　ジョ「････これはさっきのと同一人物ですか？」　
　　ボ「だから、少女漫画風だよ」
５　ジョ「やっぱりまじめに描いた方が････」
　　ボ「だから似顔絵は難しいんだってば」
６　ボ「ま、あとで色紙に立派なの描いて贈りますよ」
７・８　路上　ボツと小藪
　　ボ「迷っていても仕方ないもんね。
　為せば成る、為さねばならぬ何事も、
　ナセルはアラブの大統領！」
　　小「古いの知ってんね」
１３
１　自室　ボツ、机に向かい、
　　ボ「真面目に上品に自己紹介を書いて････」
２　ボ「あ、間違った、やりなおしだ」
３　ボ「････我ながら汚い字だネ。書き直すか」
４・５　カラーレス店内
　　小「今日もボツは欠席か」
　　ジョ「ここ数日来てないですね」
６　小「手紙で試行錯誤してんのかな」
７　店内にボツの声
　　ボ「♪ アイムシーンギインザレン、か。
　ごぶさた〜」
８・９　ボツが入店
　　ボ「ついに手紙渡しましたよ！
　色紙もばっちりネ」はっはっは
１４
１・２　小「思い切ったな」
　　ジョ「反応はどうでした？」
　　ボ「そりゃあ驚いたろうけど、
　笑顔で受け取ってくれたよ」
３　ジョ「仲良くなったら
　その子を連れて来て下さいよ」
　　ボ「んなこと言って、横取りはダメだよん」
４　ジョ「では、ボツさんの最初の成功を祝って
　乾杯しましょうか」
　　ボ「おー、いいネ、乾杯しよう！」
　　小「････」
５　ジョ「ヤブさん、どうしたんですか？」
　　小「彼女が出来るとなれば、これまで通りって
　わけには行かねえやな」
６　小「覚悟は出来てんのか？」
　ボ「････わかっておりやす」
７　ボ「ニート稼業から足を洗い、
　カタギとなって妻子を養う。
　これが男の生きる道でござんす」
８　ボ「 ････時は来た！ それだけだ」
　　小「ついに決意したか」
１５
１　ボ「ま、仕事を持ってもたまには店に来ますよ」
２　路上
　　ボ「でも、手紙渡して終わりのわけないし、
　次の段階へ進まねば」
３　夕方　コンビニ店前
　　ボ「まずはあの子の店で
　お買い物でもしようかな〜」
４　店内　レジで男性店員がボツに、
　　店員 「あー、あの子はやめましたよ」
５・６　夜　雨　カラーレス前
７・８　店内
　　ボ「まったく、仕事を何だと思ってんだ！
　世代に関係なく労働というものは････」
　　小「 ････そろそろ帰るわ」
　　ジョーはグラスを磨き、
　　ジョ「おやすみなさい」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　終

Manhattan Jazz Orchestra - RHYTHM OF THE RAIN


※
『ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす
ビッグデータの残酷な現実』
Amazon

数字どおりなら「幸せな結婚も可能？」
データサイエンティストの悲しき性癖
| ビッグデータの残酷な現実
| ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/articles/-/97528?display=b

2017年06月24日
コンビニバイトの初日に
10万円盗んでトンズラした女を逮捕

1 名前：記憶たどり。 ★
2017/06/24(土) 05:53:25.02 ID:CAP_USER9
愛知県刈谷市で、コンビニエンスストアのアルバイト
初日に店の売上金10万円を盗んだとして、
23歳の女が逮捕されました。

窃盗の疑いで逮捕されたのは、刈谷市丸田町の無職
奥谷采音容疑者（23）です。警察によりますと
奥谷容疑者は、刈谷市内のコンビニエンスストアで
アルバイト初日の勤務だった5日に、レジから金庫に
移す途中だった現金10万円を盗んだ疑いです。

奥谷容疑者は、午前9時半前から店にいましたが、
午後4時ごろに姿が見えなくなくなり、他の店員が現金が
無くなっているのに気づいたということです。

警察の調べに対し、奥谷容疑者は「間違いありません」
と容疑を認めているということです。
　https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170623-00167366-nbnv-l23
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1929949.html

ボ「あの子も何か悪いことしたのかな」
小「おめえが何かしたからだろ」