事例) 上智大女性英語教授解雇事件

 Aは、昭和57年に嘱託講師として上智大学に就職し、平成11年4月以降は教授の地位にある。A教授について、学生Bの申立により懲戒委員会が設置され、懲戒委員会の答申に基づき、大学は解雇処分とした。

1  A教授には次のような問題があった。

(1) 無許可兼業

� 平成13年4月から18年8月まで、語学学校にて月3,4回のペースで通訳の講師を担当

� 語学講座の経営・・平成10年から、土曜日に会議通訳・コミュニケーション講座(土曜教室)を経営

� 通訳業・・就職前から通訳業に従事。主に国際会議(中央銀行総裁会議、WTO会議、など)において通訳を行っていた。

(2) 学生・講師による代講をさせたこと(無償で行わせた)。

� 平成17年6月に4回、教材ビデオを学生Bに操作させた。

� 平成18年5、6月に計9回、非常勤講師に代講させた。

(3) 休講の多さ

� 平成15年7回、16年9回、17年25回、18年22回を休講とした。休講の多くは同時通訳のためであったが、15年から17年の休講は大学の許可を得ていなかった。また渡航についても大学の許可を得ていない。

(4)研究室での語学講座開催・・ 無届けで、研究室において講座(土曜教室)を開講

(5)研究室における火気を使用しての宴会開催、学生Bを深夜まで同席させたこと

2 一方、大学側には次の事情がある。

 �上智大の就業規則には、無許可兼職禁止の定めがある。

 �上智大英語学科では、A教授が開催する土曜学校について公式サイトに載せていた。またAについて、Aの通訳者としてのプロフィールとともに、「トップクラスの現役会議 通訳者として活躍」などと同サイトで紹介していた。

 �同大学教員の中には、公的職務に就いている者も数多くいる(ただし休講はしていない)

(問題) 上記事情の下での、A教授の解雇は適法か?

【解答】 懲戒は無効である。

東京地裁 平成20年12月5日判決(控訴中)

判例タイムズ1303号 P.158

(理由)

1 無許可兼職禁止について

  就業規則は使用者が事業活動を円滑に遂行するに必要な限りでの規律と秩序を根拠づけるにすぎない。労働者の一般的支配までも生じさせるものではない。   原告の就職は、原告の大学での労務提供に支障が生じたとはいえない。

                  ↓

無許可兼職ではない

2 無断渡航も労務提供には影響していない。

3 休講の多さについて

 被告のサイトからみても、被告は原告の活動を容認していたと、原告が考えたとしても無理からぬところである。

 公的な通訳については、被告大学教授会はそれほど問題視していなかった。

                 ↓

 Aにおいて許されると考えたとしてもやむを得ないものであり、解雇は重すぎ。

4 結論

  本件懲戒権の行使は、権利の濫用として無効である。

あすか法律情報 平成21年11月号-1

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— posted by infoaska at 01:24 pm  

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