「10倍株」を3回つかむ 底値を見抜く投資家の眼力 大化け株で稼ぐ投資家のワザ(上)
日経マネー
「株価が100分の1になった株が好きなんですよ」
関西地方の閑静な住宅地にある一戸建て。中に通してもらい、書斎で話を聞いていると、相手は突然こう切り出した。
声の主は、2003年に株式投資を本格的に始めた40歳の男性。既に数億円の資産を築き、インターネット上では「たーちゃん」というハンドルネームで知られる個人投資家だ。「たーちゃんファンド」と題するブログで、自身の投資手法や運用成績を公開して、人気個人投資家の一人となった。
■バリュー投資は実は「守り」
株式投資で傾倒したのが、米国の伝説的投資家、ベンジャミン・グレアム。今や古典となった著書『賢明なる投資家』を読み、彼の提唱するバリュー(割安株)投資の手法に感銘を受けた。
それからというもの、バリュー投資関連を中心に専門書を読みあさった。そして日本の株式市場の実情に合う形にアレンジを加えて、独自のバリュー投資の手法を編み出し、実践してきた。
まず、前期の営業キャッシュフローから設備投資額を差し引いて、会社が自由に使えるフリーキャッシュフローを算出する。そして売上高の伸びに応じて、無成長企業の場合は10倍、低成長企業は12倍、高成長企業は15倍にして、キャッシュフローの総額を計算する。
次に、企業の現預金と有価証券の合算から有利子負債を差し引いてネットキャッシュを求め、キャッシュフローの総額と足し合わせ、「企業価値」を割り出す。これが時価総額の2倍ある企業を「割安」と判定し、投資対象にする。
こうした独自のバリュー投資について詳しく説明を受けている途中で、冒頭の言葉が突然に飛び出したのである。
面食らいつつも、どういうことなのか、さらに説明を求めた。彼によると、独自のバリュー投資による株の購入は、売却益を着実に積み上げる守りの投資なのだという。対する攻めの投資が、「株価がピークから100分の1以下に下がったどん底業界の株を買う」ことなのだ。
「ピークから10分の1の水準まで戻れば、それでテンバガー(10倍株)になるでしょう」
こう言って、たーちゃんは屈託のない笑顔を見せる。だが、もちろん話は言うほど簡単ではない。そうした投資に踏み切れるのは、彼の洞察力と入念な業界分析があってこそだ。
■先の先を読み暴落株を拾う
この投資手法で文字通りテンバガーを出したのは、株式投資に本格的に取り組む前のこと。たーちゃんは、現在は1トロイオンス=1200ドル台で推移する金の価格が同300ドルに下落し、金の採掘会社が赤字に転落して、鉱山労働者たちが採掘をしなくなったというニュースに注目した。
「このまま金が採掘されなくなるのか。それはないだろう。金の価格はまた上昇するはずだ」
こう読んで、株価が100分の1を割り込んで、5セントまで下がっていた豪州の鉱山会社の株を購入した。思惑通りこの会社の株は上昇し、10倍の50セントになったところで売却した。この時点でたーちゃんの金融資産は1億円を超えたという。
成功体験が心の奥底に残っていたのだろう。07年に彼は再びテンバガーを目指す投資に動いた。着目したのは、消費者から敬遠されて、業績が悪化していた外食チェーンだった。
「低価格で勝負する外食チェーンは、景気が良いと客足が落ち込み、景気が悪化すると客足が伸びる。今は景気が良いが、景気が再び悪化すれば、客が戻るはずだ」
今度はこうした読みがあった。上場している全ての外食チェーンの業績や財務状況、予想PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった株価の指標、原価率などを徹底的に分析した。
そうした中で、外食チェーンには、回転ずしのカッパ・クリエイトや居酒屋のワタミ、牛丼チェーンの「すき家」を展開するゼンショーホールディングスなど、過去に株価が10倍以上になった銘柄があることも分かり、確信を深めた。
全てのチェーンを食べ歩き、商品の味や接客姿勢、店舗の内装なども調べて回った。最終的に残ったのが、とんかつチェーンの「かつや」を展開するアークランドサービス(東1・3085)だ。
08年3月頃に平均268円で購入。5年後の13年5月に約9倍の2400円前後で売却し、1億円近い利益を手にした。
「他に買いたい株がいくつか出てきたので、購入資金を出すために9倍の時点で売った」
同株はその後、16年6月7日に上場来高値の3550円を付けた。たーちゃんの購入価格の13.2倍と、テンバガーになった。[注]
■4回目の機会をじっと待つ
12年には、3回目のテンバガー狙いの投資を仕掛ける。注目したのは、個人ローンで借り手が払い過ぎた利息を指す「過払い金」の返還問題で経営が悪化していた消費者金融の大手、アイフル(東1・8515)だった。株価は09年に入って06年初めの100分の1を割り込んでいた。
無理もない。巨額の過払い金の返金で10年に武富士が経営破綻。アイフルも最終赤字が続き、倒産が懸念されていたからだ。しかし、12年3月期に最終黒字に転換。「営業利益が過払い金の返金残高を上回って倒産しないと確信した時点で、信用取引も利用して大量に購入した」。結局、7倍に値上がりした時点で売り抜けた。
今は株は資金の6割にとどめ、4割を現金で持つ。米シェール関連に流入した巨額の融資が焦げ付いて再び金融危機が起きると読み、その後に訪れるテンバガー投資の機会を待ち構えているそうだ。
(日経マネー 中野目純一)
[日経マネー2016年8月号の記事を再構成]
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