2017年8月11日 06:00
リバーシブル仕様のコネクタを採用したUSBの新規格「USB Type-C」を採用したデバイスが増えつつある。スマートフォンやタブレットはもちろんのこと、ノートPCにおいてもUSB Type-Cを備えた製品は増加しつつあるほか、最近ではNintendo Switchにも採用されたため、身近に感じられるようになったという人も多いだろう。
ここ1年ほどで百均でもケーブルや変換アダプタの姿を見かけるようになったこの「USB Type-C」だが、一方ではデータ転送のほか給電、さらには映像信号の伝送など、幅広く対応することが災いして、ユーザーにとっては非常に難解な規格となっている。
たとえばUSB Type-Cケーブル1つを取っても、最大転送速度も違えばPC本体に給電できるものとそうでないものがあるほか、映像信号の伝送に対応するものとそうでないものがある。価格もピンキリで、1つのメーカーが仕様の異なる数種類ものUSB Type-Cケーブルをラインナップしていることも珍しくない。
「それなら最初から“全部入り”を買っておけば解決するのでは」となりそうだが、あらゆる規格に対応し、かつUSB-IFの正式認証も取得した製品は当然ながらコストも高くなる。スマートフォンを充電するためだけに、数千円はくだらない“全部入り”の製品を選ぶのは懐に優しくない。
しかし、規格への適合が不明瞭な安価なケーブルを選ぶとなると、期待していたパフォーマンスが発揮できない可能性もあるほか、発火や機器の故障といったリスクもある。
こうしたことから、利用目的をある程度明確にしたうえで、信頼性とコストパフォーマンスを兼ね備えた製品を選ぶというのが、USB Type-Cケーブルとの上手な付き合い方ということになるが、ある程度の知識がなければ、製品のパッケージに記されたアイコンや文言の意味すら把握できないこともしばしばだ。
本稿ではおもに初心者から中級者を対象に、この手の解説記事につきものの56kΩ抵抗やeMarker、パワールールといった専門用語を極力省きつつ、USB Type-Cケーブルを選ぶにあたって知っておきたい“基礎の基礎”をまとめてお届けする。
USB Type-CとUSB 3.1はまったく別物である
意外と誤解されているケースが多いのがこれだろう。規格が策定された時期が近かったこともあり、コネクタ形状がUSB Type-CであればイコールUSB 3.1だと誤解されている節があるが、USB Type-Cはそもそもコネクタの規格なのでこれらは誤りだ。
たとえば、エレコムの「U2C-CC5P05NBK」(実売価格1,516円)や「U2C-CC05BK」(実売価格927円)のように、両端がUSB Type-CコネクタのUSB 2.0ケーブルなども存在している。
また、9月に正式リリースが予定されている、USB 3.1の2倍の最大転送速度を持つUSB 3.2も、USB Type-Cを利用することが前提になっている。
USB Type-Cケーブルの最大転送速度はまちまちである
前述のように、USB Type-C=USB 3.1というわけではないので、コネクタ形状がUSB Type-Cだからといって最大転送速度は一定ではなく、ケーブル側の規格に依存する。たとえばUSB 3.1の場合、USB 3.1 Gen 1とGen 2という2種類の規格があり、前者は最大5Gbps、後者は最大10Gbps(いずれも理論値、以下同じ)となる。
例として、同じエレコムの0.5mのUSB Type-Cケーブルでも、「MPA-CC13A05NBK」(実売価格2,040円)はUSB 3.1 Gen 1、「USB3-CC5P05NBK」(実売価格1,436円)はUSB 3.1 Gen 2対応だ。これら規格および最大転送速度は、いずれも製品のパッケージにアイコンや注意書きで記されている。
すべてのUSB Type-CケーブルでPC本体の充電ができるわけではない
最新のMacbookなどはUSB Type-Cケーブルを使った本体の充電をサポートしている。これはUSBを使って最大100W(20V/5A)での電力供給を行なうUSB PD(USB Power Delivery)という規格に対応しているためで、ACアダプタ不要でケーブル1本あればPC本体を充電できる便利さゆえ、USB Type-Cのメリットとして大きく取り上げられることもしばしばだ。
ただしあらゆるUSB Type-CケーブルがUSB PDに対応するわけではないので、ケーブルを物理的に接続できたとしてもUSB PD非対応であればPC本体への充電は行なえない。
たとえばエレコムの「USB3-CC5P05NBK」(実売価格1,436円)はUSB PD対応で、パッケージにも「パワーデリバリー対応」とシールで表示されているが、同じエレコムの「U2C-CC05BK」(実売価格927円)は両端がType-Cコネクタであっても、USB PDには非対応だ。
さらに、USB PDには3Aと5Aの2種類があり、対応ケーブルについてもエレコムの「USB3-CC5P05NBK」(3A対応、実売価格1,436円)と「USB3-CCP05NBK」(5A対応、実売価格1,417円)のように同一メーカーで別型番に分かれていることが多いため、USB PD対応ケーブルを購入する際は3Aか5Aかも併せて確認する必要がある。
なお、USB PDによる充電を行なうには、本体、ケーブルに加えて、充電器の側もUSB PDに対応している必要がある。USB PD対応のUSB Type-C×1を備えたAnkerの急速充電器「PowerPort+ 5 USB-C USB Power Delivery」(実売価格4,099円)などがこれに該当する。
すべてのUSB Type-Cが映像の外部出力を行なえるわけではない
USB Type-Cはデータ転送および充電のほか、HDMIやDisplayPortなどの映像信号を流すこともできる。現状ではUSB Type-Cに対応したディスプレイは数えるほどだが、たとえばAppleの「USB-C VGA Multiportアダプタ」(実売価格7,400円、税別)を使えば、USB Type-CからVGAディスプレイに、「USB-C Digital AV Multiportアダプタ」(実売価格7,400円、税別)を使えばUSB Type-CをHDMIディスプレイに映像を出力できる。
USB以外の信号を流すための拡張規格は「オルタネートモード(Alternate Mode)」としてまとめられているが、USB Type-Cを備えたすべてのPCがオルタネートモードによる映像の外部出力に対応しているわけではない。またケーブルについても、あらゆるUSB Type-Cケーブルが対応するわけではない。
Thunderbolt 3とUSB Type-Cはコネクタ形状は同じだがイコールではない
両端ともにUSB Type-Cコネクタを備えたケーブルとして「Thuderbolt 3ケーブル」なるケーブルが存在する。これは通常のType-Cケーブルとして利用できることに加え、前述のオルタネートモードを使って最大40Gbpsのデータ転送が行なえる。
ただし最大40Gbpsに対応するには、Thuderbolt 3専用に設計されたType-Cケーブルが必要となり、通常のType-CケーブルをThuderbolt 3に用いた場合は最大20Gbpsとなる。
USB-IFの正規認証ロゴがあれば一定の信頼性が担保されている
USB Type-Cケーブルの中には、パッケージなどで「正規認証品」「規格認証品」をアピールする製品がある。これは業界団体であるUSB-IF(USB Implementers Forum, Inc.)の認証テストをパスした製品で、その証として5Gbps対応では「Certified SuperSpeed USB」、10Gbps対応では「Certified SuperSpeed+ USB」のロゴの使用が認められている。
たとえばエレコムの「MPA-CC13A05NBK」(実売価格2,040円)はUSB 3.1 Gen 1対応であることから「SuperSpeed USB」のロゴが、「USB3-CCP05NBK」(実売価格1,417円)はUSB 3.1 Gen 2対応であることから「SuperSpeed+ USB」のロゴが、それぞれ表示されている。これらのロゴが表示されているUSB Type-Cケーブルは、一定の信頼性が担保されていると見なして問題ない。
ただしあらゆるUSB Type-Cケーブルがこのテストを受けているわけではなく、このロゴがないからといって必ずしも規格に適合していないわけではない。また一般的に、正規認証品は取得のコストが原価に上乗せされているため、そうでない製品に比べると割高であることが多い。
以上のように、USB Type-Cはデータ転送のほか給電、さらには映像信号の伝送など、さまざまな機能を盛り込んだ優れた規格だが、コネクタの形状をみればその挙動が判断できるわけではなく、またコストなどの面からも“全部入り”のケーブルに統一するのは現実的でないことが分かる。かつてUSB 1.1をUSB 2.0に置き換えた時とは、かなり状況が異なることが理解いただけるはずだ。
つまり、ユーザーはUSB Type-Cの機器やケーブルを購入/使用するにあたって、これまで以上の注意が必要だ。パッケージや製品情報をよく読み、ニーズにあった製品選びをしていく必要がある。
次回は実際にUSB Type-Cを搭載したPCやスマートフォン、電源アダプタ、ケーブルを用意し、規格に沿った充電や転送が行なえるかどうかをチェックしていく。