いろんな金持ち、というか「成金」に出会ってきた。因みに僕の父も言わば「小成金」だ。

良く「大金持ちはこういう発想で金を稼ぐ!」とか、奇をてらうようなことを適当に書いた書物があるが、あんなの信用してはいけない。出鱈目だ。

金持ちの絶対的な条件はひとつだ。
「ケチであること」。
僕はオヤジから、既にそれを学んでいた。批判的にだが。


金持ちは絶対損をしない。させない。だから金がたまるのだ。当たり前の理屈だが。
天才的博打打ちならまだしも、そうではない凡人が金持ちになるには、この方法以外にない。
と言ったら言い過ぎか。最低限これを守る、と言った方がいいのか。

金持ちは必ず、収支にこだわる。
1円でも収入が支出を越えてなければならないのだ。
1円でも支出が収入を越えてはならないのだ。

そりゃまぁ、そうでしょう。


ただ、この業界の金持ちに関して言えば、決定的なことを見落としている。あるいは、知らないフリをしている。
「アニメは、滅多なことでは収支が合わない」という事実にだ。

これに対し、例えば徳間康快社長は、「金ならいくらでもあるよ、銀行に」と、捨て身の支援をして、ジブリを支えた。
そこまでして、そして空前の成功を収めたにもかかわらず、ジブリは呆気なく解体され、また人をかき集めようとしている。


世の金持ちよ、目覚めなさい。これが「アニメ」なんだよ。
ジブリでさえできないことを、どうしてお前らができると思い込めるのか?


だから、逆説的に言うが、今アニメに関わっている金持ちは、「道楽」でないとするならば、全員大バカだ。
それに彼らが気付くことはないだろう。
自分のノウハウ、セオリーをアニメにも応用できると、余りに傲慢で無知な発想を持っているからだ。
かつ、それ以前に「アニメは儲かる、儲けられる」という「迷信」に、意地でも固執するからだ。
中途半端に成功体験があるから、退くに退けない。

こうして「誰得?」と思われる作品は作られていく。


和田さんとアニメを作ろう、となった時、これだけは10回以上、いや20回近く、口酸っぱく言っておいた。
「アニメで儲かるとは思わないでください」。


それを前提で、討ち死に覚悟で、それでも1円でも儲けるために、僕らは『薄暮』を作る。
それは久しぶりに「健全」なアニメ制作となることだろう。