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法華狼の日記

2017-07-26 上げたのは1日後

[][]映画『軍艦島』が韓国で公開されたからと、さまざまな報道が動いているけれど、批評のたぐいを見かけない件Add Starseven_czrawan60NakanishiBGl17

きちんと映画としてのレビューもする気のない記事は手抜きでは?と思わざるをえないし、そんな記事しか見かけない。

私自身も日本の歴史学的な知見を紹介するエントリを書いてきたが、同時に映画としても興味があることを表明してきた。

韓国映画『軍艦島』を利用した歴史の否定がおこなわれつつある - 法華狼の日記

予告を見るだけでも、少なくとも映像はさすがに現代の韓国映画らしい力を感じた。春川市に約6000平方mという広大なセットを作った情景のスケール感もなかなかだし*2、薄汚れた炭坑内の圧迫感をきちんと表現した撮影技術もすばらしい。

映画『軍艦島』の最新予告を見ると、反乱映画としての出来は良さそう - 法華狼の日記

開始33秒の描写を見ると、当時としては近代的な集合住宅があったことや、そこで労働者の立場が階層的にわけられていたことも視覚的にわかる。

ここ最近、実際に見なければ批判する資格はないという反論を見かけたことが何度もある。限られた情報にもとづいて批判することも許される範囲はあると思うが、それなりに正しい反論とも考える。しかし、この『軍艦島』への批判に対しては同じような反論を見かけない。


たとえばNHKは観客の声までつたえており、取材者が映画を鑑賞することも可能だったはずだが、自身でレビューした記事が見当たらない。

朝鮮半島出身の徴用工題材の映画「軍艦島」 韓国で公開 | NHKニュース

このうち20代の女性は「映画を見て胸が痛くなった。軍艦島で起きたことについてまだ明らかになっていないこともあると思う」と話していました。

また、50代の男性は「韓国人としてこれまで深く考えていなかったことを考えさせられた。被害者の心の痛みはなくならないが、日本政府からの十分な謝罪が必要だ」と話していました。

また、「真実の歴史を追究する島民の会」による抗議の意図を伝えているが、徴用工が極端に虐げられたことが史実という指摘を忘れている。

エラー|NHK NEWS WEB

軍艦島の元島民の有志で作る「真実の歴史を追究する島民の会」は、映画の中で徴用工が極度に虐げられるなどの描写が、実際の島の暮らしとは異なり、例えフィクションだとしても、誤った歴史認識を伝えるおそれがあるなどとして、近くこの映画に対して抗議する声明を出すことになりました。

また元島民の証言を集め、インターネット上で公開する準備も進めているということです。

たとえばNHK自身による証言者を記録する活動「戦争証言アーカイブス」では、同時代の筑豊炭田における朝鮮出身炭鉱夫の苦難を記録している。

イ・ウンシクさん|証言|NHK 戦争証言アーカイブス

チェ・オナムさん|証言|NHK 戦争証言アーカイブス

日本人の未成年炭鉱夫だった証言者も、近隣の炭鉱における朝鮮出身炭鉱夫の苦難について、伝聞や目撃を証言している。

深田 糺さん|証言|NHK 戦争証言アーカイブス

だから、やっぱりちょいちょい逃亡者が出て、それが捕まったとかっちゅうような話はちょこちょこ聞いたことありますもんね。それで、やっぱり過酷な労働を強いられとったんじゃないですかね。

樋口炭鉱の事務所の前で手錠をかけられて、直接乱打されるっちゅうようなことじゃなかったですけどね、手錠をかけられて庭先に転がされとったちゅうのは見たことありますよね。

もちろん元島民の証言は何であれ、それはそれで貴重な資料となる。しかし自身の環境が良かったと証言しても、それは日本人炭鉱夫が見た範囲がそうだったという情報にとどまる。一般的に炭鉱労働がきわめて過酷だったことや、植民地出身者や敵国の捕虜はいっそう苦難をしいられたという歴史を簡単にくつがえせるわけではない。


産経新聞も「歴史戦」と題するキャンペーンのひとつとして、半年前から元島民団体による抗議の意図をつたえていた。

【歴史戦】「軍艦島は地獄島…」韓国映画・絵本が強制徴用の少年炭鉱員を捏造 憤る元島民たち「嘘を暴く」(5/5ページ) - 産経ニュース

 真実を伝えるには、端島で生まれ育った自分たちが口を開くしかない。こうした思いに突き動かされた元島民たちは「真実の歴史を追求する端島島民の会」を1月23日に設立した。

 当時のことを記憶する元島民たちの証言を動画で記録するなどして、後世に「正しい端島の歴史」を伝える考えだ。

この島民は、従軍慰安婦問題において日本が事なかれ主義できたという誤認も語っている。実際は国内外で否認しようとしては、その史実性と価値観の誤りを指摘されて折れることをくりかえしただけだったのに。

「日本は事実を明確にして反論しなければいけない。慰安婦問題もそうだが、日本は事なかれ主義できたが、もう少し毅然と事実を明らかにして言うべきことは言うという姿勢で臨んでいきたい」

そもそも産経新聞は、従軍慰安婦問題において証言は証拠にならないという立場ではなかったのか。過去の日本社会を免罪する証言だけは証拠になるという立場なのだろうか。


あきれたのは公開少し前の朝日新聞の記事だ。よりによって完成記者会見で「事実とどれくらい近いのか」*1と質問した記者が自己弁護していた。

(特派員メモ)日韓関係の難しさ @韓国:朝日新聞デジタル

最初の質問者に指名された。「映画は何%が史実なのか、日韓関係に影響を与えるか」と尋ねた。3年前、軍艦島で戦時中に過酷な労働を強いられた朝鮮半島出身の元労働者を取材したことがあるが、独立軍の助けで集団脱走するという映画の骨格の話は聞いたことがなかったからだ。

 柳昇完(ユスンワン)監督は「その時代を取材し、ありそうなことを考えて作った。本質的には人間と戦争の物語だ」と語った。誠実な印象を受けた。

この記者は2015年に軍艦島にまつわる取材記事を発表した人物ではある*2。しかし劇映画に対して史実との距離をパーセンテージで問おうとする発想は、映画の取材とは思えない。

もちろん映画がどの事実を反映して、どこで空想を展開していったかも重要な情報だ。あえて虚構という表現を選んで何を描こうとしたかを読みとる手がかりになる。しかしドキュメンタリーであれ史実そのままを描けるわけではないし、映画の根拠にした資料からして史実をそのまま伝えているとは限らない。史実と根拠の違いや、映画という媒体の特性を考えて質問してほしい。

さらにいえば、史実さえ描けば日韓関係に影響を与えないとか、フィクションであれば必ず日韓関係に影響を与えるというものではあるまい。歴史的な根拠がある描写でも、どこを抽出するかによって制作者の意図がくわわり、作品に反映されていく。冒頭のエントリで紹介したように、軍艦島でさまざまな集団脱走があったことは日本でも史実と考えられている。そこに独立軍の助けがあったか否かという論点で、どれほど日韓関係への影響が変わるというのだろうか*3

*1日帝強制徴用の歴史描いた韓国映画『軍艦島』、絶対にヒットしないといけない理由とは(2) | Joongang Ilbo | 中央日報

*2はてなブックマーク - 世界遺産登録で日韓対立―「徴用工」問題とは 空腹・粉じん、軍艦島の記憶:朝日新聞デジタル

*3:仮に、独立軍の助けがなければ集団脱走が起きなかったという展開であれば、むしろ炭鉱夫の主体性を否定する描写になりうるし、集団脱走の動機が史実よりも弱く描写されているともいえるが。

上毛野すもの上毛野すもの 2017/07/28 21:16 >そもそも産経新聞は、従軍慰安婦問題において証言は証拠にならないという立場ではなかったのか。過去の日本社会を免罪する証言だけは証拠になるという立場なのだろうか。

これについてはお分りの上で改めて産経のダブスタぶりをご指摘されているのだと思いますが

最近ツイッターでやり取りしていた否定論者が以下の記事を持ち出してきました

産経デジタル
「安倍晋三氏とケネディ氏に送られた「慰安婦問題のデタラメ」を糾弾する手紙とは? 「朝鮮の真実」知る日韓古老が送る」
http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/170717/plt17071714240007-n1.html

2017年7月17日の記事ですが、後半で証言している元朝鮮総督府内務課長の西川清さんは
ざっと検索した範囲ですと2013年からネット上で否定論者に取り上げられているようです

以前も何かでお話しした幸福の科学のYouTube番組「ザ・ファクト」が2013年に
西川氏に取材した記事が下記で
http://thefact.jp/2013/443/

ネット上で最初に「手紙」を取り上げたと思われるのは「九人の乙女・真岡の赤い花」というフェイスブックアカウントの模様です。基本的に「手紙」の文面で検索して出てくるブログ記事はここから引用しています。
https://www.facebook.com/permalink.php?id=580968958579827&story_fbid=585394394803950

hokke-ookamihokke-ookami 2017/07/28 23:05 >これについてはお分りの上で改めて産経のダブスタぶりをご指摘されているのだと思いますが

もちろん以前から思っているし、たぶん指摘もしたことですが、短い記事で同時に慰安婦問題へ言及していたので、つい……

>最近ツイッターでやり取りしていた否定論者が以下の記事を持ち出してきました

おお、詳細な情報ともどもありがとうございます。それにしても……

https://www.facebook.com/permalink.php?id=580968958579827&story_fbid=585394394803950
>朝鮮人にチョウ兵(注・兵役?)の義務がありませんので、兵事は主に在郷軍人に関するものぐらいでした。

短期間ですが、植民地に対しても徴兵がおこなわれたことを記述しないのはミスリードでは。単純に知らないだけかもしれませんが、その時は証言全体の信頼性が……

http://www.y-history.net/appendix/wh1505-068_1.html
>日本の朝鮮植民地支配では、日中戦争が進行中の1938年から志願兵制が導入され、1944年からは徴兵制が実施された。日本支配下の台湾においては1942年に陸軍が、43年には海軍が特別志願制を実施し、台湾が戦場となる可能性が強まった45年初頭以降は、徴兵制が実施された。徴兵制で動員された朝鮮人は21万人、台湾人は3万5千人に達した。<小林英夫『日本のアジア侵略』世界史リブレット p.73 山川出版社>

赤猫赤猫 2017/07/29 14:29 志願も実質強制であったことは当時の軍部や国会も認識していました。

軍の公式の記録である金原節三の『陸軍省業務日誌摘録』には「 陸軍省局長会報での武藤章軍務局長と田中隆吉兵務局長の応答(1941、4月16日)」が記録されています。(『陸軍省業務日誌摘録』 前篇 その3のイ)

・軍務局長 「(略) 朝鮮の徴兵制度。及び台湾は志願兵制度をしく要望高し。これは政治上問題あるをもって検討いたし度。」

・兵務局長 「朝鮮現在の志願兵制度はその実質を微するに必ずしも真実志願せるものは少なく、強圧により止むを得ず志願せりというもの多し。従って徴兵制の施行は多いに考慮を要す。」


それから2年後の1943年2月26日、「帝国議会貴族院委員会」で、次のような答弁がなされています。

(水野錬太郎)「・・・・それから民心を把握することが必要であると云ふことの御話がありましたが、それは其の通りでありますが、時に依ると総督府の上の方の人はさう云ふ考へを持って居るかも知れぬが、地方等へ行って下級の人等が、動もすれば朝鮮の人に圧迫を加へると云ふことがあることもなきにしも非ずであります、殊に一昨年でしたか、あの姓氏令、即ち名前を変へると云ふことがありましたが、何でも非常に成績が好い、殆ど八割迄日本人の名になったと云ふことがありましたが、それが果して彼等の衷心から出たのならば宜いのでありますが、時に依ると警察の圧迫に依って斯う云ふ風にしたのである、或は学校の生徒等が動もすれば父兄がさう云ふ圧迫を受けるから さう云ふ風になったのであると云うやうな不平も聞くのでありますが、此の頃はどうですか、さう云ふ方面は余り無理にやって居らないのありますか、何でも前総督の時には大分さう云ふ方面に力を入れたと云ふことでありますが、今日はもう自然に任して居られるのでありますか、それは如何でありますか、其のことを承りたいのであります・・・」

hokke-ookamihokke-ookami 2017/07/29 19:52 ええ、だから業者による募集から強制連行と歴史学的に見なされてきていたわけで、国家が直接的に乗りだした徴用は相対的に暴力性が緩和されていたようですね。
形式として国家が介在さえしていなければ問題ないという考えは間違いです。現在でいえば、無差別な徴兵制よりも経済的徴兵制によって貧困層に負担がかかりうる問題などがありますね。

上毛野すもの上毛野すもの 2017/07/31 18:07 >単純に知らないだけかもしれませんが

「当時」に関しては
<1.観測範囲外/2.自覚がない/3.忘れた> ではないかと私は推測します

1.観測範囲外
西川氏の経歴は証言とあわせると、ほとんどが内地向け労務徴用の仕事だったようですから、基本的に機密扱いの「慰安婦」に関して見聞きしていなかったとしてもおかしくないですし
(しかし実際には、「手紙」内の「朝鮮軍司令部」もミッチナの「慰安所」経営者キタムラに全面協力していたであろうことがわかってますが)

2.自覚がない
産経記事6ページ目で
>西川さんはいう。「(日本統治時代の朝鮮は)治安もよく、穏やかな社会だった。創氏改名だって強制ではありません。役所の上司にも同僚にも朝鮮人はたくさんいたし、仲良くやっていたんです。こうした『真実』をぜひ、知ってほしいと思いますね」

なんてことを言ってますから、自分が宗主国/公務員/男性という権力構造の上部にいたことが分かってないのでしょう。

さらに、
hokke-ookamiさん、赤猫さんご指摘の徴兵ではなく、労務徴用の方ですがやはり産経記事の5ページ目で

>朝鮮に徴用令が適用(昭和19年9月~)される前から『徴用』と呼ばれていたが、その際には労働条件をきちんと提示し、納得した上で内地へ行った。

という西川氏の話もありますし、西川氏の自己認識の中では、「大東亜共栄圏」の理想の下、誠実に公務員の仕事をしていたのでしょう。

3.忘れた
それでも、警察や総督府の他の部署の人間とも交流はあったでしょうし、炭鉱向けの「慰安所」もありましたから、何かしら噂程度には聞いていた可能性もありますが、あまり気にせず忘れている可能性もあります。ご年齢もご年齢ですし。

上記3コンボに加えて「現在」のこととして
「慰安婦」制度の問題点と研究の成果を知らないというのも

問題認識が<朝鮮での軍・官吏による直接的暴力的強制連行>という否定論者のそれで
「慰安婦を募集していたのは女衒(ぜげん)とよばれた業者です」(産経5ページ)
なんてことを言ってますから

hokke-ookamihokke-ookami 2017/07/31 23:38 >産経記事の5ページ目

あ、そこは読み落としていました。
法律として徴用が施行される以前から現場では徴用と呼ばれていたという証言が、この西川氏の立場で出てきたことが興味深いですね。

>何かしら噂程度には聞いていた可能性もありますが、あまり気にせず忘れている可能性もあります。

そうですね。よく被害証言に対して記憶が変容しているという疑いがかけられるわけですが、加害否認証言に対しても記憶の変容を疑わなければフェアではないでしょう。

>「慰安婦を募集していたのは女衒(ぜげん)とよばれた業者です」(産経5ページ)

ただ、上述の「徴用」についての率直な証言からすると、現場の西川氏にとっては軍の下請け業者なども女衒に見えたのかもしれない、と少し思いました。

mikaokehomikaokeho 2017/08/04 00:47 「ジャパンの蔑称を格好良いと感じて使う者がいる」とのたまっても、
それは御仁様が見た範囲がそうだったという情報にとどまる。
一般的に蔑称を用いた差別がきわめて過酷であることや、
それのせいで首を吊らさせられた存在が
一生苦難を強いられ続けている現実は決して覆らない。

差別性を否認しようとして、その史実性と価値観の誤りを
指摘されてもかえりみない御仁様の批評には説得力があるらしい

産経新聞の立場に疑問を投げかける御仁様は、
十年前の所業をヘイト雑誌で免罪できてるつもりでいるのだろうか。

hokke-ookamihokke-ookami 2017/08/04 09:13 自動生成したかのような与太話をトラックバックしてくるくらいは許容していたんですけどね。
下記エントリで認めた自爆をもう忘れましたか?

http://mikaokeho.blog.wox.cc/entry30.html
>?「蔑称のせいで首吊らさせられた自分だけが対象者だ」とやっちまった

自身の被害者意識が肥大していると語るに落ちた件について、その原因が相手の「誘導尋問」にあるかのように責任転嫁するような貴方がコメントしてきても、貴方の恥ずかしさを強調するだけですよ。

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