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大炎上したテレビ朝日「ビキニ事件とフクシマ」番組を冷静に検証する

悲劇を報道に「利用」するのではなく
林 智裕 プロフィール

さらに加藤氏は、周辺の空間線量を「空間はだいたい25(0.025μSv/h)くらい」としたうえで、スタッフの「倍くらい?」という問いかけに対し「ここはそのくらい」と答えています。「本来の空間線量は0.025μSv/h程度なのに、地表で測ると0.042μSv/hもあった」ということを伝えたかったのでしょうか。

このシーンには視聴者に対する補足説明が全くないので、もしかすると「なんとなくこの島では、放射線量が高い」という印象以外、伝える気がなかったのかもしれません。

しかも、そこまでして得た「高い数値」でさえも0.042μSv/hなのです。参考比較として、2017年8月6日の東京での平均値は0.035μSv/hとなっていました。こうした数値が世界的にみてもまったく高くないということは、たとえば福島県民であれば、いまや知らない人の方が少ないのではないでしょうか。

ちなみに、下記の文部省による中学生用教材にも書いてありますが、日本人が1年間に自然界から受ける平均放射線量(1.5mSv)は世界の平均(2.4mSv)よりも低く(https://www.kankyo.metro.tokyo.jp/policy_others/radiation/about/sekaitonihon.html)、仮に普段から空間線量が0.042μSv/hの地域に住んでいたところで、被曝量は世界平均を下回ります。間違いなく、番組スタッフがビキニ環礁へ向かうために乗った飛行機での移動中の方が、桁違いに被曝しているはずです。

たとえ具体的な数値を示しても、それがどんな意味を持つのか比較対象を用いた解説も用意せず、ただ「高い」と言うだけでは、単なる「印象操作」だと言われても仕方がありません。

そもそも、被曝による健康被害そのものが「100mSv未満の低線量による放射線の影響は、科学的に確かめることができないほど小さなものと考えられています」とされている(http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin_qa.html#ans01)中で、それよりも桁違いに小さい被曝量での誤差を取り上げることに何の意味があったのか、全く理解できません。実際に健康被害を起こしたという、除染前の島の線量などとの比較が無ければ意味が無いのではないでしょうか。

前述した番組スタッフと島民とのやりとりと同様のことは、福島でもありました。

いくら現地の住民が外からの無思慮な意見に対して「きちんと自分達で放射線量を測り、リスクがないことも理解しているから、大丈夫です。危険だというその意見は正しいんですか?」と声を上げたところで、「フクシマの住民は騙されている」「避難しない奴は馬鹿だ」「(福島から避難しないことは)大人の無理心中に子供を付き合わせることだ」(震災直後に山本太郎・現参議院議員が述べた発言)などと馬鹿にされたり、誹謗中傷されたりしてきました。

 

そればかりか、過激な「活動家」が福島に来ては、線量計を地面に「直置き」して大騒ぎしたり、わざわざ側溝の中まで降りて少しでも高い数値を出そうと測定を繰り返し、数字を独り歩きさせたのです。

特に震災直後には、テレビのドキュメンタリー番組でこうした誤った測定の様子がしばしば放映されており、どこがどう誤っているかについては、すでにインターネット上などで指摘され尽くした感があるほどです。そのような「周回遅れ」の内容の番組が2017年の今、この期に及んで放送されることに驚きます。

(3)第五福竜丸乗組員の健康被害

第五福竜丸の乗組員が、ビキニ環礁付近で水爆実験に遭遇し、急性被曝症状を発症したのは事実です。ただし、急性被曝症状の治療中に亡くなったのは元無線長の久保山愛吉氏1人で、残りの乗組員22名はその後回復に向かいました(http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-03-02-16)。

また番組では、乗組員の多くがC型肝炎を発症し、亡くなっていることが指摘されていました。しかし、C型肝炎はウイルスによる感染症であり、放射線が原因の病気ではありません。

第五福竜丸の乗組員の場合、C型肝炎に感染した原因は急性被曝症状治療のための輸血だと考えられるので、水爆実験の間接的な影響で亡くなった方がいる、とは言えます。急性被曝症状が回復した方々の中でも、後遺障害に苦しんだケースもあります。

C型肝炎の原因であるC型肝炎ウイルスの存在が証明されたのは1989年のことです。それ以前はウイルスの存在がわからなかったために、輸血や注射などの医療行為を介して大勢の人がC型肝炎にかかったと考えられています。

ただし、感染症と被曝症状そのものを混同させるような演出をしてしまっては、視聴者に誤解を与える可能性が高いでしょう。もしかすると、意図的な「ミスリード」だったのでしょうか?

こうした誹謗中傷のパターンも、福島では数多く起こりました。著名人が病気になったり、亡くなったりするたびに「(福島の食材を)『食べて応援』していたせいだ」「被曝が原因だ」などと、全く根拠の無い言いがかりをつける人がインターネット上に数多く現れたのです。