はじめに
「ギャンブル依存症」についての私たちの考え方
ご訪問いただきありがとうございます。
近年、いわゆる「ギャンブル依存症」という言葉が知られるようになり、のめり込みに対する社会的な関心も高くなっています。
ワンデーポートは2000年からギャンブルに問題がある人の支援に取り組んでいますが、当初はいま社会で考えられているように「病気」であることや、医療機関や相互援助グループに行くことですべての人が回復できると考えていました。
しかし、たくさんの利用者を受け入れていくなかで、ギャンブルに依存している人の多くは、ギャンブルをやることにより生活が困難になったわけではなく、社会生活をしていく上での課題、「弱いところ・苦手なところ」があり、パチンコ、パチスロやその他のギャンブルに逃避している人が多いことがわかってきました。
たとえば、ある人は大学在学中にパチンコに依存するようになり、社会的スキルや将来の目的がないままに大学生活に行き詰ってしまっています。
ある人は、自分のキャパを超える仕事にストレスを抱えながらパチンコに逃避しています。
また、ある人は幼少時から勉強や対人関係が苦手であり、金銭管理ができないままパチンコにハマってしまっています。
このように、ギャンブルに依存している人には、個別的背景があり、「ギャンブル依存という現象」が起きているわけです。したがって依存という行動を「病気」としてとらえるのではなく、人生の課題や生活の課題として考え、それぞれの課題にあわせた支援をしていくことが必要だと考えるようになりました。
とくに「弱いところや・苦手なところ」がない人にも、人生の問題としてとらえてもらうことで解決できることもわかってきており、私たちはいまギャンブル依存問題全体を「病気」として扱うことをやめています。
開設15年の経験の中で、ギャンブル依存問題についての考え方も、支援の方法も大きく変わってきています。
従来の支援方法との違い
従来の考え方では、依存問題を持つ本人の課題に家族は関わってはいけないということになっていました。極端な例では「鍵を付け替えて家を出しなさい」という助言がなされる場合もありました(現実的には、まだこういう事例も見受けられます)。
しかし、前述の通りギャンブルの問題を抱える人たちの中には「弱いところ・苦手なところ」を抱えている人がいるので、そのような厳しい対応が問題を悪化させてしまうことがあります。ご家族の中には、状態が悪化することで、「底をついて、本人が現実を直視する」と期待を抱いている方もいますが、多くの場合、それは幻想に終わるのではないかと思います。
私たちの経験では「本人に責任を返す」対応は、本人を追い詰め、家族と本人の関係を悪くすることもあり、良い結果を生むことはありません。むしろ反対に、適切に関わることが必要だと考えています。その際の関わり方で、鍵となるのが個別的対応です。
たとえば、金銭管理の方法です。ギャンブルの問題がある人は例外なく金銭管理の問題を抱えています。言葉にすると「金銭管理の課題」と一言でくくることができますが、対応は一律ではありません。ギャンブルの問題が解決すれば自分で金銭管理ができる人もいれば、ギャンブルが止まっても家族や周囲が金銭管理に関わる必要がある人もいます。金銭管理の方法についても、毎日必要な生活費を渡す必要性がある人もいれば、週単位の金銭管理で大丈夫な人もいます。
従来の「依存症」の考え方であれば、「本人の問題は本人に返す」ということが言われ、家族は金銭管理を一切やってはいけないと言われたりしますが、私たちはそのような考え方をしていません。個別的な対応が有効だと考えています。
金銭管理だけではなく、家族と本人の関係の持ち方も個別性が原則です。「イネイブリング」「共依存」という概念や言葉で一律にくくることができる問題ではありません。私たちは一人ひとりの背景を見て向きあい方を提案します。
ワンデーポートでの支援
ワンデーポートはギャンブルに問題がある人が入所生活をしながら、人生のやり直しをする場所です。それぞれの背景はあわせた方法で再出発してもらいます※。私たちは利用者の皆さんに「依存症は病気です」という言い方はしません。「ギャンブルや人生の問題を解決していきましょう」と伝えます。「病気を認めてください」と言ってしまうと、ほんとうに解決しなければならない課題を見過ごしてしまうことになりますし、本人との信頼関係を損なうと考えています。私たちがアプローチするのは「病気」ではなく、利用者の皆さんの人生全体です。
ワンデーポートのカリキュラムは主に4つの支援が柱になります。
・ 個別相談
・ グループセラピー
・ 運動
・ レクリエーション
個別相談は、こちらから「こうしなさい」という指導的なものではありません。その人がどうしたいのか、生活課題、人生の課題に寄り添います。本人の要望に沿って支援を組み立てていきます。
グループセラピーは、自分自身の振り返りをしてもらうとともに、スタッフがその人の性格や特性を理解する場でもあります。私たちスタッフは、ミーティングでの話を元にその人の個別的支援を考えます。
体を動かすことはとても重要だと考えています。ギャンブルに依存している人は、例外なく運動不足です。肥満の人も少なくありません。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」と言われますが、運動は生活の建て直しには不可欠だと考えています。スポーツジムでのトレーニング、卓球、ソフトボール、フットサル、ウォーキング、ジョギング、その他様々なスポーツを通して、楽しみながら健康な体づくりをしてもらいます。
ワンデーポートでは年中行事への参加も大事にしています。初詣、お花見、海水浴、などを通して季節感を取り戻してもらいます。また、同好会の活動として、マラソン同好会(チーム一歩)、写真同好会、釣り同好会、カラオケ同好会、食い放題同好会などの活動も行っています。ギャンブルをやらなくても生活が楽しいと感じることはとても大切なことだと考えています。
就労に向けての支援も行っています。若い人にボランティアや、資格の取得を勧めます。自動車免許の取得や介護の資格を取得する方も多いですし、宅建や中小企業診断士など専門的な資格取得した方もいます。
知的障害や発達障害の特性が見受けられる場合には、連携している医療機関に付き添い診断を受けてもらいます。その結果を踏まえ、障害者手帳の取得や就労支援、年金申請のお手伝いもしています。
ワンデーポートでの生活費が捻出できないという方については生活保護の申請に同行します。借金問題については、生活が安定した後に債務整理をお手伝いします。
ミーティングや相互援助グループへの参加、あるいは特定のプログラムに取り組めば問題が解決するという考え方ではありません。その人が社会の中で少しでも幸せに生活していくために「その人にとって必要だと思うとは何でもする」というのがワンデーポートの基本的な方針です。
※ワンデーポートの入所カリキュラムは、多くの人に有効ではあると考えていますが、万能ではありません。集団がとくに苦手な人や、統合失調症や躁うつ病などの精神科領域の課題を持った人には対応できかねるケースもございます。
人生全体の充実をはかることで、ギャンブルの問題は解決する
ワンデーポートの生活の中で、利用者の皆さんの目標としてもらっているのは、「暮らし」「仕事」「余暇」の充実です。ワンデーポート入所中はもちろん、退所後もこの3つのバランスを意識してもらうよう伝えています。この3つが安定すれば、ギャンブルの問題は自然と解決できると考えています。利用者の皆さんの性格や特性は一人ひとり違うので、この3つは100人100通りの方法があります。私たちは、その人にあった方法を考えたいと思っています。
家族相談について
ギャンブルに依存している人の背景は様々ですから、家族の対応も一律ではありません。家族の中には「ギャンブル依存症は進行性の病気」という間違った情報を見聞きして、恐怖心を植え付けられている方もいます。しかし、ギャンブル依存という現象にとらわれすぎずに、冷静にきめ細かく見ていくと、それほど深刻ではないというケースも珍しくありません。
依存という現象だけではなく、本人の全体を見ようとする姿勢に変化するだけでも、生活がある程度落ち着き、これからのことを考える余裕が出てくることもあります。
その上で、金銭管理、暮らしの方法を少し見直すだけで、問題が改善されることもあります。本人にとって重圧になっていること、苦手なことが軽減されただけで、ギャンブルの問題がなくなるケースもあります。家族と本人との間のコミュニケーションを点検し工夫することで関係が改善し、互いに協力して問題に向きあっていくこともあります。
このようにワンデーポートや相互援助グループへの参加もせずに、問題が解決・軽減されることも少なくないので、一律に「病気」とは考えない多様な対応や工夫を家族とともに考えるようにしています。
お困りの方がいましたら、まずはお気軽に電話でお問い合わせください。家族の皆様には、来所による個別相談を用意しています(この家族相談は、ワンデーポートの利用を考えていないご家族にも対応しています)。
ワンデーポートの支援の指針 ( 2015.12.1改定)
(1)一人ひとりの尊厳を守り、その人らしく社会参加するためのお手伝いをします。
(2)ギャンブルで問題を起こす背景は様々であり、ひとくくりに「依存症」ととらえることはしません。
(3)ギャンブルに起因する問題解決のためには、人間と人間との出会いが不可欠だと考えます。
(4)関係機関など、あらゆるネットワークを活用します。
(5)ギャンブルは社会的行為であり、社会の変化とともに、利用者も変化すると考えます。そのため、援助方針や提供されるプログラムは、時代に合わせ変化するべきものと考えます。
バナースペース


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