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みなさん、いわゆる「ギャンブル依存症」にどんなイメージを持っているのでしょうか? ・ギャンブリングのために対人関係や職業上の機会を危険にさらす(A基準8) ・ギャンブリングで失った金を出してくれるように他人に頼む(A基準9) こういうことを繰り返している状態の人でしょうか? あるいは、こういう状態にもかかわらず、 ・ギャンブリングをするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ(A基準2) ・ギャンブリングをするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかった(A基準3)人たちでしょうか。 マスコミ等で紹介されるケースはおおむねこんな感じで、そういう状態のあらわれの間隔がどんどん短くなっていくといった感じでしょうから、みなさんが抱かれる「いわゆるギャンブル依存症」のイメージはそんなものかと思います。 しかし「ギャンブル依存症の疑い」の評価基準(DSM-5に基づく)では、軽度以上が「疑い」であり、それは以下の二項目がよく当てはまるとDSM-5では記載しています。 ・しばしばギャンブリングに心を奪われている(A基準4) ・失った金を“深追いする” (A基準6) しかし、「深追い」は「いわゆるギャンブル依存症の疑い」がなくても見られます。 また、 ・ギャンブリングをするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ(A基準2) ・ギャンブリングをするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかった(A基準3) も「疑い」がなくても見られます。 同じく、 ・苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、ギャンブリングをすることが多い(A基準5) はストレス解消行動としての娯楽では当たり前に当てはまるので「疑い」がなくても当てはまります。 つまり、 ・失った金を“深追いする” (A基準6) ・ギャンブリングをするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ(A基準2) ・ギャンブリングをするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかった(A基準3) といった、「ギャンブル依存症の疑い」がなくても当てはまる基準に加えて、 ・しばしばギャンブリングに心を奪われている(A基準4) ・ギャンブリングへののめり込みを隠すために、嘘をつく(A基準7) の、思考のとらわれや、嘘・隠し事が加わって、「いわゆる軽度のギャンブル依存症の疑い」となります。 そしてこれは、どのようなレジャーや娯楽、趣味でも、「少しのめり込んでいる」レベルで十分生じうる事態です。 「ギャンブル依存症の疑い」536万人とか270万人というのは、この軽度以上の疑いの人の数です。 一方で、末尾に示した基準のすべてかすべてに近く当てはまる(8,9当てはまる)「重度」、典型的には、 ・ギャンブリングのために対人関係や職業上の機会を危険にさらす(A基準8) ・ギャンブリングで失った金を出してくれるように他人に頼む(A基準9) が当てはまる人は通常「ギャンブル依存症の疑い」の人の2割以下です。さらにこれらが頻回当てはまったり、その期間が短くなっていく、あるいは自然回復していかない(ふつうは痛い目に合えばやめたり、足が遠のいたりします)人の割合はさらに少なくなります。 また536万人とか270万人という数字には、「むかしそうだった人」が含まれています。536万人は2013年調査の数字で、最新の2017年3月首都圏調査では270万人(ここが不思議で「生涯の疑い」なら死亡しない限り増えるはずなのに減っている、いずれかの調査の不備か、SOGSの不安定性か、振り返り調査のあいまいさか、いずれにせ遊不思議極まりない現象です)、また、今、疑いがある人は60万人です。重度はその二割だとすると12万人程度。 さらに注目すべきは首都圏調査の270万人と60万人の比です。むかしを含めギャンブル依存症の疑いのある人が270万人、今疑いのある人が60万人なので、差し引き210万人は「むかしそうだったが、今は問題ない」もしくは「ギャンブルをやめている」わけです。つまり自然に回復する率が8割程度(78%:実数で見ると82%)は見込めるわけです。 考えてみれば、どんなに楽しかったり、逆に負けが悔しくてめりこんだにしても、普通はどこかで気づいたり、ばからしくなったり、飽きたりするわけで、そうならない2割もしくはそれ以下が問題なわけです。 そしてそうなる背景には、発達の問題(自閉スペクトラム症や知能のばらつき)やパーソナリティの問題(こだわりのつよさや衝動性の強さ)などもともとの問題があるのではないかというのが、いわゆるギャンブル依存症の回復支援の先駆けワンデーポートの指摘です(なお、国内のギャンブル依存症回復支援団体の多くは薬物、酒などの回復支援も行っていますが、そのために行動依存の問題と物質依存の問題の差が見えにくくなっており、弊害を生んでいる、と私は思っています)。 あるいは外国の調査では、アルコール依存15.2%、薬物依存4.2%、うつ29.9%、そううつ8.8%、統合失調症4.7%、パニック障害13.7%、社会不安14.9%、PTSD12.3%、ADHD9.3%、など74.8%におよぶ合併障害の問題が指摘されていますが、これらがあると自然に軽快したり、回復したりしにくい、問題の生じない期間が長くなっていかない、むしろ短縮していくといった問題が生じやすいのではないかと考えられるわけです。 そうするとギャンブル依存症対策で一義的に必要なのは、自然回復しにくい背景を持つ2~3万人に対して、リカバリサポートネットやワンデーポートなどへの相談をすすめたり、自己排除や家族排除プログラムの使用をすすめることで、60万人弱を含む1000万ユーザーには、ギャンブル依存のチェックとともに、くらしを大切に、しごとを大切に、よかを大切にといった、日常生活をだいじにしましょうといったメッセージがだいじなのではないかと思うわけです。 なんにせよ、ギャンブリングのために対人関係や職業上の機会を危険にさらす(A基準8)、ギャンブリングで失った金を出してくれるように他人に頼む(A基準9)といった体験談と、「ギャンブル依存症の疑い」536万人を並べる記事や講演は、事実誤認であったり、意図的ミスリードであったりします。 まして、膨大な自然回復報告があるにもかかわらず(最新だとBlack DW, et al,Psychiatry Res. 2017 Jun 13;256:162-168)、ギャンブル依存症は慢性的で進行的、不可逆的などという説明や講演は、薬物依存とギャンブル依存の区別がついていないというほかありません。 参考 DSM-5によるギャンブリング障害の診断基準(ちなみに「ギャンブル依存症」は俗称です) 臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題ギャンブリング行動(ここがだいじで単なるアンケートではここが等閑視されやすい)で、その人が過去12か月間(原文は「in a 12-month period」なので、「ある12か月間」であることに注意)に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している場合です。 1.興奮を得たいがために、掛け金の額を増やしてギャンブリングをする欲求 2.ギャンブリングをするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ 3.ギャンブリングをするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある 4.しばしばギャンブリングに心を奪われている(例:次の賭けの計画を立てること、ギャンブリングをするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている) 5.苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、ギャンブリングをすることが多い 6.ギャンブリングで金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”) 7.ギャンブリングへののめり込みを隠すために、嘘をつく 8.ギャンブリングのために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある 9.ギャンブリングによって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む ▶該当すれば特定せよ・・・挿話性(数か月は軽快する)、持続性(何年も当てはまる) ▶該当すれば特定せよ・・・寛解早期(3か月以上12か月未満基準を満たさない)、寛解持続(12か月以上基準を満たさない)(自然軽快、回復があるのでその状態を見極めよということ:ギャンブル依存症は進行的不可逆的とは限らないことを示す) ▶現在の重症度を特定せよ・・・軽度(4,5項目)、中等度(6,7項目)、重度(8,9項目)(診断基準では「ある12か月間」のあてはまりなので、生涯有障害率。ここで現在の障害の様子を特定せよといっている) |
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『慢性的で進行的、不可逆的』といった表現はGAの「強迫的ギャンブル」に紐づきます。薬物とギャンブルの区別、というよりはdisorderとillnessの区別がつかず、Gambling DisorderとCompulsive Gamblingが「ギャンブル依存症」とまとめられる方が問題と感じます。 |
フェネック 2017/07/25 17:58 |
まったくその通りだと思います。面倒なのはDSMの訳し方で、disorderを疾患、全体的に「~障害」を「~症」と併記しているので、それがよろしくないと思いますが。 |
しのはら 2017/07/28 01:11 |
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