慰安婦問題に言及する歴史教科書を採択した全国の国立、私立中学校のうち判明しただけで11校に昨年、内容が「反日極左」だとして採択中止を求める抗議のはがきが大量に送られていた。「執拗(しつよう)な電話もあり脅迫のようで怖かった」と語る教諭もいる。教育現場を萎縮させかねない抗議の経緯を追った。【中村かさね、大村健一、金秀蓮】
慰安婦問題を取り上げたのは、出版社「学び舎」(東京都)発行の検定教科書「ともに学ぶ人間の歴史」。この教科書について、産経新聞は昨年3月19日朝刊で「中学校の歴史教科書のうち唯一、慰安婦に関する記述を採用」「最難関校を含む30以上の国立と私立中が採択」と報じ、神戸市の私立灘中学校などの名前を挙げた。
学び舎の教科書は、慰安婦の管理や慰安所の設置などに旧日本軍が関与し、強制的だったと政府が公式に認め謝罪した1993年のいわゆる「河野談話」を紹介。「日本政府は強制連行を直接示すような資料は発見されていないとの見解を表明している」という一文を添えている。
これを昨年4月に使い始めた灘中の和田孫博校長が毎日新聞の取材に、抗議を受けた経緯を語った。和田校長は昨年秋、抗議のてんまつや感想をネット上で公表。これを受けて毎日放送(大阪市)が先月30日に問題を報じ、ネット上でも話題になっている。
和田校長によると職員の話し合いで採択を決めて間もない2015年12月、自民党の兵庫県議から「なぜ採択したのか」と聞かれた。「OB」や「親」を名乗る匿名の抗議はがきが舞い込み始めたのは16年3月ごろ。大部分は、中国での旧日本軍進駐を人々が歓迎する場面とみられる写真を載せた絵はがきに抗議文をあしらった同一のスタイルだった。
さらに、差出人の住所や氏名を明記し抗議文をワープロ印刷したはがきが大量に届き始めた。やはり大部分が同一の文面で、組織的な抗議活動をうかがわせた。地方議員や自治体の首長を名乗るはがきもあり、抗議は半年間で200通を超えた。和田校長は取材に「検定を通った教科書なのに政治家を名乗ってはがきを送ってきたり、採択した学校の名前を挙げて問題視する新聞報道があったりして政治的圧力を感じた」と振り返る。
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学び舎によると、教科書は全国で名門や難関とされる国立や私立の中学校を中心に38校が採用。毎日新聞が調べたところ、灘中以外に10校が匿名を条件に抗議を受けたことを認めた。担当教諭たちは「教育の独立性が脅かされる」「大変な時代だ」と語った。
10校とも灘中と同じく昨年春からはがきなどで抗議が殺到。「繰り返されたら面倒を避けようと、次の教科書採択に影響が出る学校もあるのでは」と懸念する声もあった。ただ「きちんと検定を通った教科書だ」として今年度変更した学校はなかった。
学び舎の教科書を編集した「子どもと学ぶ歴史教科書の会」の担当者は、取材に「関心を持って考え、学びを深められるよう、子どもの目を意識しながら何年も研究を重ねて作った」と説明。歴史的資料にあえて解説を付けず「子ども自身の疑問を尊重し、どんな答えを出すか本人に委ねた」と狙いを語った。
抗議はがきの主な内容
学び舎の歴史教科書は中学生用に唯一、慰安婦問題(事実と異なる)を記した「反日極左」の教科書だとの情報が入りました。将来の日本を担う若者を養成する有名エリート校がなぜ採択したのでしょうか。反日教育をする目的はなんなのでしょうか。今からでも遅くはありません。採用を即刻中止することを望みます。