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「3週間ほど前にボールパイソン(ボールニシキヘビ)を購入しました。ショップでは、週に1度エサを食べていた、ということと、最初の1週間くらいは落ち着かせる期間にしてください、と聞きました。先々週からエサを与えているのですが食べようとしません。どうすれば食べるのでしょうか?爬虫(はちゅう)類用のケージにペットシーツを敷いてシェルターと流木を入れてあります。保温はケージの下に敷いたヒーターです。本で読んだのですが強制給餌(きゅうじ)の必要がありますか?」
ボールパイソン、近年大変人気の高いヘビですね。人工繁殖も盛んになされていて、家庭飼育に向いた大変良い種だと思います。
さて、ご相談の件ですが、飼育されている個体の詳細(個体の大きさ、人工繁殖個体なのか野生採集個体なのか、など)が分かりませんので、まずは一般的なことから。
ボールニシキヘビに限らず、爬虫類全般に言えることですが、飼育にあたって大切なのは温度管理です。外温性の動物ですから温度が低ければ代謝が低くなって、当然エサも食べなくなります。飼育ケージが爬虫類用とのことですが、温度はいかがでしょうか? パネルヒーターが敷いてあっても冷たい空気を吸えばヘビの体温は下がってしまいます。また、日中の温度が高くても夜間(特に夜明け前)の温度が低いと良くありません。ご用意されていると思いますが、最高最低温度計を使って確認し、問題があるようなら熱電球やセラミックヒーターなど環境温度を上げる機材を用意しましょう。
飼育されている個体がある程度成長したものであれば、本種特有の「休眠」である可能性もあります。本種は、冬季(11月から4月辺りまで)において、飼育温度に関わらず活動しながらもエサをとらないという状態に陥る個体が多く見受けられます。これは、本種が生来持っている生活のリズムなので、我々人間にはどうしようもありません。逆に言えば自然なことなので心配する必要も無いわけです。エサを食べなくても痩せてこなければ問題はありません。定期的に体重を測ることによって判断できるかと思います。
また、脱皮のサイクルに入っていればどんな種のヘビもエサは食べません。このことも考慮に入れるべきですね。
先ほど本種は飼育に向くと書きましたが、比較的神経質な種であることも事実です。まだ新しい環境に慣れていないことも考えられます。いましばらく様子を見ることや、飼育ケージ全体を新聞紙などで囲って暗い環境にしてみることなども選択肢に入ります。
以上のことに該当せず、ヘビが痩せてくるようであれば、いよいよ積極的に餌付けを考える必要が出てきます。最初はエサの大きさを小さくするところから。ファジーマウスが食べられる個体であってもピンクマウスに、ということです。この場合に限らずエサの温度も重要で、触って温かいと感じるような温度でないとなかなか食べてくれないものです(冷凍マウスを使う前提でお話ししています)。
給餌はピンセットをお使いになっていると思います。これを怖がっていることもあるので、1晩置きエサすることが有効な場合もあります。この時にはマウスをあおむけに置いてやると食べやすくなります。これに関連して、ヘビとエサをやや狭い容器に1晩閉じ込めるというやり方もあります。食品保存容器に通気孔を開けたものや、個体の大きさによっては布袋を使用することもあります。
上記のようなことをしてもどうしても食べない、ということになると、この先は少しグロテスクと言うか残酷にお感じになるかもしれませんがご容赦を。エサとなるマウスの鼻先、もしくは全身の皮をはいで与えてみます。これは血のにおいによって食欲を引き出そうとするものです。さらには、マウスの頭部を二つ割りにしたり穴を開けて脳漿(のうしょう)のにおいで…という方法もあります。先に述べたように、抵抗感が強い方も多いと思いますがテクニックとして覚えておいても損はありません。
さて、それでも食べないとなるとアシストフィーディングを考えます。これは、ヘビにエサをくわえさせるところまでを人間が補助して、その後はヘビに自力でのみ込ませるというものです。口を開かせたヘビののどに届く程度、上あごの歯に引っかけるようにしてマウスをくわえさせます。この時、決して奥の方に押し込むようなことをしないように。当然、抵抗はしますが、そのままのみ込んでくれれば、何回か繰り返すうちに自ら捕食するようになります。特に脱皮後のタイミングで通常の給餌を行ってみましょう。
無理やりのみ込ませた上で、胃袋までしごいて到達させるという強制給餌は個体にかけるストレスが非常に大きいものです。逆に拒食を助長することも多いので、できる限り避けたいものです。
本種は長寿なヘビで、49年という飼育記録があります。どうぞ長くボールニシキヘビとの生活をお楽しみください。
日本ペット&アニマル専門学校講師、つくば国際ペット専門学校講師。幼少時より様々な動物に関心を持ち、採取~飼育に明け暮れる。玉川大学農学部農学科卒業後、大手総合ペットショップに入社。水草専門店舗に始まり、総合ペット店舗店長、統括バイヤーを務めた後に独立し、ペットショップ経営も行った。現在は、各種爬虫類の繁殖技術の確立、原稿執筆、セミナー講師などを中心に活動中。